芸人コンビ・エバース「僕らはたまたま強くなった公立工業高校の野球部」

2023年の『M-1グランプリ』で、初めて準決勝に進出したエバース。敗者復活戦では、キテレツな漫才を披露したトム・ブラウンに、しゃべくり漫才で勝利し話題を呼んだ。現在では、主催ライブで配信チケットを3000枚以上売るなど、人気の存在になっている。今年は立て続けに賞レースで決勝に進出するなど、注目度が急上昇中のエバースにインタビューした。

▲エバース(佐々木隆史 / 町田和樹)【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-INTERVIEW】

俺らが優勝できる大会じゃなかった

――2023年は『第45回ABCお笑いグランプリ2024』『ツギクル芸人グランプリ2024』と決勝進出が続いています。どちらも初の決勝進出でしたが、決まったときの心境はいかがでしたか?

町田和樹(以下、町田):普通にうれしかったです。今年、行けなかったらまずいなっていうのもあったので。

佐々木隆史(以下、佐々木):特に『ABC』のほうは、芸歴10年目以下の若手の大会なので、出るだけじゃなく“勝たなきゃいけないな”と思いました。

――先に行われた『ツギクル』では最終決戦まで進出しましたが、惜しくも優勝には届きませんでした。

町田:出来も悪くなかったので、マジで行ったな! と思ったんですけどね。でも、(『M-1』敗者復活戦で披露した)“「ケンタウロス」だけじゃないぞ”ってところを見せられたので、よかったです。

佐々木:『ツギクル』に関しては優勝できなかったけど、ベストは尽くせました。あれで優勝できないんだったら、あの日は俺らが優勝できる大会じゃなかったんだろうな、ぐらいの感じです。

――そのあとの『ABC』はいかがでしたか? ラジオでは出し切れなかったというお話もされていましたが。

佐々木:まぁミスはしましたけど、今では経験値としてムダじゃなかったなって。たしかに、直後は反省ばかり挙げてましたけど、悲劇の主人公を気取ってたってしょうがないんで。今年の『M-1』や来年の『ABC』で、とにかく勝てるネタを仕上げなきゃなって思ってます。

――決勝進出が続くと、やはり次の勝負ネタを作らなきゃという状況ですか?

町田:いや、空っぽではないので大丈夫です。

佐々木:僕らの場合、今年作ってる新ネタも今年の『M-1』でやるためっていうよりかは、来年とか再来年とかの賞レースでやるためのストックを作ってる状態なんです。なので、今年の『M-1』も別に去年とか一昨年のネタを改良してやる可能性も全然あるので、それはあんまり影響がないですね。

順調だからこそ調子に乗らないように

――2023年も上半期が終わりました。『M-1』敗者復活戦からここまで、注目度が高まっていると思うのですが、ご自身の体感としてはいかがですか?

佐々木:いや、ちゃんと負けてはいるんで、順調ではないかな……。やっぱり勝ち切れてないんで。たしかに、周りから「調子いい」って言われることが増えたので、そのぶん調子に乗らないようにしなきゃとは思ってます。普段のライブでもウケすぎてるなって思うことが増えたので、気をつけなきゃなって。

町田:けっこう冷静です。ルミネ(theよしもと)や(よしもと)祇園花月とか、僕らのことを知らない人も来るライブに出させてもらえる機会も増えたので、そういう舞台に出ると、やっぱり俺らはまだまだこのぐらいだよなって思います。

――ルミネや祇園花月に限らず、劇場の出番数もこの半年で増えましたよね。お二人が所属する神保町よしもと漫才劇場では、上半期の出演本数が1位だったそうですね。

町田:らしいっすね。全然そんな感じしないけどな。

佐々木:去年もあれぐらい出てた気もしますよ(笑)。

――舞台数が増えたことも賞レースでの決勝進出につながっていますか?

佐々木:一長一短な気もしますね。舞台数が多くなることで“こなしちゃう”というか、前はもうちょっと一つひとつの出番で、ここを変えて試してみるか、みたいな調整をやってたんですけど。毎日、何回もっていうのが続くと“とりあえずこのネタで行くか”みたいになっちゃうので。

バイトが辞められるとは思ってなかった

――お二人の状況が変わったのは、やはり去年の『M-1』敗者復活戦以降ですか?

町田:そうですね。準決勝後もUber Eatsのバイトを普通にしてたんですけど、敗者復活戦後は1回もやってないです。バイトを辞められるとは思ってなかったんですね。

佐々木:準決勝に残ったとき、“準決勝に行けば、次の年の『M-1』までぐらいはバイトしなくてもギリ行けるよな? 準決勝ってことは全国の30組に入ったってことだから、さすがにバイトは辞められるよな、大丈夫だよな?”みたいな確認をしていたくらいなので、ここまで変わるとは考えてなかったですね。

――想像以上の影響力だった。

佐々木:そうですね。敗者復活以降後の世界線でいったら、一番いい世界線に行けたのかなって感じはしますね。“この人も俺らのこと知ってくれてるんだ”みたいなのが、めっちゃ増えたんですよ。

ルミネの出番のとき、トータルテンボスさんに挨拶しに行ったら、「『敗者復活戦』でおもしろかったヤツらだろ!」みたいに言ってくれたり、とろサーモンさんとか、これまでは全然しゃべれる人じゃなかったのに、エバースって認識したうえで話しかけてくれたり。まだまだ「今、俺、トータルテンボスとか、とろサーモンとしゃべってるよ!」みたいな気持ちになりますね。

▲バイトが辞められるとは思ってなかった

――特にうれしかった言葉とかありますか?

佐々木:みんな褒めてくれて、どれもうれしかったんですけど、特に印象に残ってるのでいうと、南海キャンディーズの山里(亮太)さんがラジオで「エバースのネタを見て、若いときのダウンタウン見たときの先輩芸人もこんな気持ちだったのかな」みたいな話をしてたんですよ。もちろん、そんなことはないと思うんですけど(笑)。

――山里さんは『ABC』でMCされてましたよね。

町田:佐々木はめっちゃしゃべってたよな。

佐々木:そうですね。打ち上げにも来てくださって、けっこうしゃべらせてもらいましたけど、『ABC』では僕がめっちゃミスってたんで気を遣わせちゃって。「佐々木くんでもそんな緊張することあるんだね」ってフォローしてもらいました。

――ちなみに、お二人は緊張しやすいタイプなんですか?

佐々木:緊張というか、そもそも結構ネタをミスるタイプのコンビではあります。『ABC』でミスったことで、「めっちゃ緊張してたな」とか言われるんですけど、冷静に考えると普段の寄席とかでも二人ともめっちゃ噛んでるんすよ。だから、俺ら普段からこんくらいミスってるよな、あのときだけじゃないか、みたいな。

町田:たしかにそうっすね。あのとき特別に緊張してたからとかではないです。

『M-1』3回戦突破で変わった世界

――これまでと比べてコンビとして今の状況はいかがですか?

佐々木:今も別に売れてはないんですけど、もしかしたら一番楽しいときかもしれないですね。ライブ終わったら芸人と飯行ったり飲みに行ったりして、ああでもないこうでもないってしゃべるみたいな。もっとテレビに出たりするような本当の売れっ子になったら、そういうのもできなそうだし……どうなるのかはわかんないですけどね。

町田:芸人やった最後に、“あのとき楽しかったな”って思うのは今かもしれないですね。バイトも辞められたし。

――やはり、あの敗者復活戦が芸人人生のターニングポイントだったと。

町田:あーでも、うれしさでいうと『M-1』で3回戦に初めて行ったときのほうが大きいかもですね。本当に自分たちの中だけですけど、ガラッと状況が変わったので。

佐々木:いま考えたら、それも別に何もうれしがることないレベルのことなんですけど、当時はめっちゃうれしかったですね。同期とか、同じぐらいのライブ出てる人たちの見る目がだいぶ変わりました。

町田:それに、あのときは3回戦行けなかったら辞めてた可能性もあったので。去年、敗者復活戦は確かに影響は大きかったですけど、準決勝に行けなかったとしても、辞めてはなかったと思います。

――それだけ3回戦の壁は高いんですね。そもそも、お二人はどんな方に憧れて芸人を目指したんですか?

佐々木:僕はダイアンさんですね。学生のときはラジオも毎週聴いていたし、芸人になろうと思ったきっかけでいうと、ダイアンさんです。

町田:僕は芸人になるまで、本当に『ロンハー(ロンドンハーツ)』(テレビ朝日系列)とか見るくらいしか触れてなかったんですよ。でも、芸人になってからでいうと、やっぱりオズワルドさんとか漫才師の先輩はカッコイイなって思います。それは東京大阪、関係なく。

ルミネでやるからにはちゃんと準備します!

――お二人はコンビ名に野球用語を使用していますが、現在のエバースを野球チームで表すなら、どんなチームだと思いますか?

佐々木:なんだろう……公立なのになぜか強くなったやつら、みたいな感じですかね。特待生とか取ってないのに、たまたまめっちゃ強くなった代、みたいな。僕らって才能は別にないとは思うんですよね。かといって、努力してきたかって言われたら全然そんなことなくて、サボり癖あるんで。

町田:そしたら意外と私立か?

佐々木:それにしては俺らエリート感がなくない?(笑) NSCのときから全然だし。努力というより、たまたま自分たちのおもしろさを出せる漫才を見つけられた、運が良かったぐらいの感覚なんですよね。

町田:たしかに、たまたま強くなった公立の工業高校ですね。

――なるほど。お二人とも野球部出身ですが、野球をやってたときはどんなタイプの選手だったんですか?

町田:僕は高1までやってなかったんですけど、8月の単独タイトル「7番、レフト」って感じですね。

佐々木:僕は野球をやってたときのほうがセンスタイプでしたね。めっちゃ強豪って感じではなかったんですけど、チーム内ではセンスあるヤツとしてやってました。

――今後は野球関連の仕事もやっていきたいですか?

佐々木:そうですね、でも町田は野球を全然知らないんで。

町田:逆にいいっすよね。片方が詳しくないほうがバランス取れるし。

▲ルミネでやるからにはちゃんと準備します!

――野球以外でのやりたい仕事を教えてください。

町田:まだそこまでイメージできてないですね。趣味も、しゃぶしゃぶくらいしかないんで。

――しゃぶしゃぶ(笑)。今はまだ目の前のことに集中するときなんですね。8月23日にはルミネで初単独も開催されますね。

町田:まじでありがたいっすね。去年の今頃だったら考えられない規模なんで。この前も寄席に出させてもらったんですけど、ここが俺らの単独を見に来る人だけになるのか……と思っちゃいました。

――チケットも即完売だったそうですね。

町田:さすがにびっくりしました。配信でも見られるんで、わざわざ来なくてもいいわけじゃないですか。それでも現地で見たいと思ってくれてる人が、こんなにもいるんだって。本当にありがたいです。

佐々木:そうですね。いつもはギリギリまでネタ作れなくて、前日とかヘタすれば当日の朝でもできてないとか、今まで余裕であったんですよ。当日に一気に3本ぐらい作ったりとか。

だから正直、1本くらいは“ちょっとぐだっちゃいました、へへへ~”みたいな感じでやってたんですけど、ルミネでやるとなったら、さすがにシャレにならないので、ちゃんと準備しないとなと思います。

――最後に会場に来てくれる方や配信で見てくれる方へメッセージをお願いします。

町田:俺らのライブで、夏バテ、吹っ飛ばしてください!

(取材:梅山 織愛)


▲エバースライブ『七番、レフト』

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