「インディーズバンドで立つ」音源配信なしでTETORAがつかんだ武道館ワンマンへの道
京都・大阪出身のメンバーによる3ピースバンドTETORAが、4枚目のフルアルバム『13ヶ月』を6月19日にリリース。本作は『1月』から『12月』までの12曲を収録したコンセプトアルバムであり、春夏秋冬の情景とソングライターの上野羽有音(Vo / Gt)の繊細さと、芯の強さを感じさせる作品となっている。
ニュースクランチ編集部は、8月12日にバンド初となる日本武道館でのワンマンライブを控える上野にインタビューを実施し、最新アルバムに秘められた思いや、配信よりもライブにこだわる理由、インディーズで武道館へと立つ現在の心境などを聞いた。
自分たちの思う「カッコいい」へと純粋に突き進むバンドの声を、ぜひ受け取ってもらいたい。
「この人なら信じられる」ライブハウスでの出会い
今や『ROCK IN JAPAN』や『VIVA LA ROCK』などの大型音楽フェスにも出演する三人組バンド・TETORA。まずは、それぞれがどのように出会ったのか、話を聞いてみた。
「専門学校のクラスメイトで組んだのが最初でした。バンドを続けるにつれて忙しくなって、続々とメンバーが辞めてしまったんです。その頃に対バンしていたバンドのサポートをやっていたのが、今のメンバーのミユキちゃん(Dr)です。ある日、“今やってるバンド、もう少ししたら抜けるから、うちでよかったらサポートするよ”と言ってくれて。
その後、今度はベースが抜けるとなったときに、もともとミユキちゃんのバンドにいた、いのりさん(Ba)がバンドのサポートに入ってくれて。しばらくしてから、二人とも“正規でメンバーになりたい”と言ってくれて、今の形になりました」
スリーピースバンドとして新たにスタートしたTETORA。その大きなターニングポイントとなったのが、彼女たちのホームであるライブハウス「心斎橋BRONZE(以下、BRONZE)」である。
今年で10周年を迎えるBRONZEは、キャパ200人程度ながら、毎晩、熱量の高いライブが繰り広げられているこの場所に、上野はどうやってたどり着いたのか。
「yonigeの牛丸さん(牛丸ありさ)、Hump Backの萌々子さん(林萌々子)のライブを見に、 通っていた専門学校の友達とBRONZEへ行ったんです。学校帰りだったので、ギターを背負ったままでライブを見ていたら、物販にいたオジさんが“ギター持ってんの?”、“あ、左利きなんや”といろいろ話かけてくれたんです。
そして“面白そうやし、連絡先交換してや!”とオジさんに言われて。内心、ちょっと怖いな……と思いながらSNSをフォローしたら、めちゃくちゃフォロワーがいて。それが『THE NINTH APOLLO』の社長、渡辺旭さんとの出会いでした(笑)。
私たちのライブ映像を見て、DMをくださって、ライブにも誘っていただいて、BRONZEに出るようになったんです」
THE NINTH APOLLOは、TETORAをはじめ、My Hair is Bad、ハルカミライ、Hump Back、yonigeなど、今の音楽シーンを語るうえでは外すことのできないバンドを多数輩出してきた、大阪のインディーズレーベルだ。
そしてBRONZEは、そのレーベルが運営するライブハウスでもある。社長である渡辺旭氏との出会い。それにより、TETORAはさまざまなバンドと出会うことになる。
「社長は“いっぱいライブを見たほうがいい”と言ってくれて、いろいろなバンドを見ました。yonige、Hump Back、My Hair is Bad、Unblock。あとTHE CHORIZO VIBES、Left、hananashi、など。言い出したらキリがないくらい。
そうやって見たバンド、みんなカッコよくて“私たちもステージに立っている、あのバンドのようになりたい”と思ったんです」
BRONZEで見てきたアーティストのようになりたい、その思いからバンド活動を続けてきたTETORA。彼女たちの努力の甲斐もあり、さまざまなレーベルから声をかけられるようになったのだが、彼女たちは“とある理由”ですべて断っていたと語る。
「当時、尖っていたからかもしれないですが、“あなたは売れるよ”と言ってくる人が、全員苦手だったんです。TETORAのことを商品として見られている感じがしてイヤだったし、私たちのことを“カッコいい”とは誰も言ってくれなかった。
でも、渡辺さんは“下手くそ! もっとカッコよくなれ!”と私たちに言ってくれていて。この人ならば信じられると思い、THE NINTH APOLLOに入りました」
自分たちが思う「カッコいい」を続けたい
THE NINTH APOLLOに所属することになったTETORA。しかし、彼女たちは同社のレーベルに入るのではなく、『Orange Owl Records』というレーベル内レーベルを立ち上げた。その理由について上野が振り返った。
「“人が集まる場所に、自分たちの思うカッコいいを持っていく”のではなく、“自分たちがカッコいいと思うことを続けて、そこに自然と人が集まる”。そっちがやりたいと思ったので、THE NINTH APOLLOに自分たちでレーベルを作ったんです。
ただ、自立して運営できるまでは“レーベルをやっている”というのを言いたくなくて。だから、Orange Owl Recordsというレーベルをやっていると発表したのも、立ち上がってからずいぶんあとのことでした」
今ではammoやアルステイクといったバンドも在籍し、THE NINTH APOLLOでも主力レーベルとなっているOrange Owl Records。昨年12月には「KT Zepp Yokohama」で、3バンドの対バンイベント『VS DAY vol.1』を実施。
所属する2組に関して「先輩・後輩というよりも、ずっとライバルでいたい」と語る上野。互いに切磋琢磨しながら、ライブハウスで競い合いをしている。
そのOrange Owl Recordsの特徴といえば、現場至上主義。ストリーミング配信が主流の時代において、音源を配信リリースせずに、ライブで曲を磨くことにこだわっている。その理由はなぜか?
「配信なしのレーベルをやろうという感じではなかったですが、やりたいとも思わなかった。別に否定するつもりもないし、私の中で一生やらないとも思ってはいないです。
配信よりも、ライブハウスのような場所、目の前いる人に自分たちの音楽を聞いてもらうほうが、私はカッコいいかなと思っているし、それを選んでいる状況です。もし配信もカッコいいと思えば、配信もやります」
上野の価値観は、最新アルバム『13ヶ月』にも表れている。例えば『6月』では〈どっかの配信LIVE見ながら風呂場で半寝 / 淡々とこなす為にここに立ってない〉と歌っており、ライブに対しての真剣さが伝わる。この曲について聞くと、これは配信ライブを見ていた自分のふがいなさを歌った曲だと語る。
「コロナ禍となってライブハウスに行けなくなり、他のバンドのライブ配信を試しに見たんです。配信をしていたバンドはカッコいいライブをしていたんですが、それを寝ながら見て、しかも寝落ちしてしまった自分がイヤで、それであの歌詞を書きました。やっぱり自分は配信よりも、ライブハウスでライブを見るほうが好きです」
上野はライブに対して真摯なアーティストだ。本来なら配信ライブを見ながら寝落ちしたとしても、そこに対して嫌悪感を抱く必要はない。それがイヤだと語るのは、彼女自身がライブに対して真剣に取り組む人間であるからだ。
現にTETORAのライブは常に勝ちにこだわる。ステージ上では気高く演奏し、うまくいかないときには涙も流す。その姿勢は現場至上主義をうたうTETORAの面白さにもつながっている。
「本当は音楽やライブは勝ち負けとかないし、意識とかも別にしなくてもいい。でも、そういうことを心に秘めているバンドのほうがドキドキする。だから、そこが自分たちの魅力にもつながればとは思ってます」
「やっぱり一番がいい」秘密を共有するアルバム
最新アルバム『13ヶ月』。このアルバムは「1曲だけ、30秒だけ認知される曲が定番になってきた最近の音楽事情のなかで、アルバム収録曲を全部ちゃんと聴いてもらいたい。そのうえで、名盤って言われるものをつくりたい」という思いから制作された。
「ある打ち上げで、バンドの先輩が“〇〇のアルバムがいい”と言っていて。そのとき、私たちは“あの曲が好きだ”と言っていることに気がつきました。私はアルバムを制作する側の人間なので、本当であれば“あのアルバムがいい”“これは名盤だ”と言われるようなものを作りたい。そう思って『13ヶ月』を制作しました」
配信が主流となる現在において、アルバムを聴くという文化は忘れ去られているようにも思える。そのため“アルバムとして向き合って聴く”という体験をするために作られた本作には、全曲を聴いてもらうため、さまざまな工夫が施されている。その一つが曲名だ。この曲は『7月』『8月』などの12ヶ月が曲名として使われている。
「リスナーの方に全曲を聴いてもらうため、全曲ラブソングで作ってみる、または生き様を描く、など考えたんです。そのなかで、1月から12月までの曲を書くというアイデアが生まれました。みんなそれぞれ、その月の記憶はあるし、全曲をまんべんなく聴いてくれるのではないかと思ったんです。
曲を書く際には、今までのメモを見て書きました。というのも、私、中学生の頃からメモを常に取っているんです。それを見れば、その時期に何を考えていたのか、すべて書いてあるんです。そのメモを見ながら歌詞を書きました」
すでにCDを手にしているリスナーであるならおわかりかもしれないが、この作品には購入者にしかわからない仕掛けが施されている。
「私なりの遊び心というか、ああいうのが好きなだけ」と上野は語ったが、リスナーにとっての特別な存在になりたい、というTETORAらしい秘密の共有のように感じた。しかしながら、なぜTETORAはここまでして、リスナーに寄り添い名盤を作ることにこだわるのか?
「やっぱり一番がいいじゃないですか! 二番とか三番とかイヤだ。“好きなバンドは?”と質問されて、“TETORA!”と言われるようなバンドでありたいし、流行りじゃなくてリスナーたちの心にいつまでも残るようなバンドになりたい。恋人に“あの子も好きやなぁ”とか言われるのってイヤじゃないですか(笑)。それと一緒なのかもしれないです」
アリーナでもライブハウスでもやることは変わらない
リスナーにとって一番の存在であり続けたい、その思いが彼女たちの原動力でもある。そんなTETORAは、今年の8月12日に日本武道館でのワンマンライブも控えている。現在の心境について聞いた。
「“見に行くよ”と言ってくれる人が、日に日に増えてきていて。責任感みたいなのは、ひしひしと感じていますが、武道館でライブをするという実感は……まだないです。ただ、大きなアリーナでも、小さなライブハウスでもやることは変わらない。
確かに裏方の数が多いとか、特典が付いてくるとか、そういう部分は変わりますが、ステージ上でやることやライブに対しての心構えは何も変わらない。今までやってきたカッコいいことをやるだけです」
インディーズバンドとして武道館に立つことを夢見ていたTETORA。なぜ彼女たちはこだわったのであろうか?
「他の人と違うことがしたくて、その延長線上にインディーズでの武道館ワンマンもあったんです。私の知っているバンドは、メジャーに行ってから武道館ワンマンをやっていた。だから、インディーズでそれをやればカッコいいなって。
仮に私たちがメジャーへ行くなら、インディーズでやりたかったことは全てやってから行きたい。武道館は、そのやりたいことの一つでした。あとは……TETORAのために、これまで制作を手伝ってくれたスタッフや社長に対しても恩返しにもなるのかなと、こっそり思っています」
純粋に自分たちが思う「カッコいい」へと突き進むTETORA。武道館公演、それは本人たちが思う以上、偉大な一歩であるように思える。なぜなら、インディーズで活動するバンドにとって、メジャーへ行かずとも武道館に立てる、という夢を見せてくれるからだ。
将来はまだわからないと上野も語っていたが、TETORAのようなバンドの在り方は、少なからずインディーズバンドのお手本の一つになると思える。そういう意味では、彼女たちの存在は「インディーズの希望」だと言えるのかもしれない。
(取材:マーガレット安井)
08/05 12:00
WANI BOOKS NewsCrunch