島田珠代「些細なことで娘と大ゲンカ。作り置きした食事を食べなくなった。〈ママの役目も終わりなのね〉テーブルに置いたメモに、娘からの返事は」
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2回目の大ゲンカ
娘と2ヵ月間口もきかない大ゲンカがあってから、あんなことはもうないようにしようと心に固く誓ったのですが、またもや大ゲンカをしてしまいました。
ケンカのきっかけは娘のプール開き。学校から水着を用意するようにと言われていたのですが、娘はすっかり忘れていて「買い忘れたからママのを貸して」と言いました。
水着を買い忘れたということに対して少しだけイラッときて「なんで忘れんの?」と愚痴っぽく言ってしまいましたが、娘ときちんとコミュニケーションを取るべきだと理性も働き、その後は穏やかに話を続けました。
水着の形はある程度自由で構わないらしく、クラスの子は今どきのかわいいデザインの水着を買うはず。しかし私の持っている水着は、胸元がガバっとあいて、下もおもいっきりV字になった、本当にしょうもない形の水着でした。
それでもないよりマシだろうと思って貸したのですが、プールの授業を終えて学校から帰ってくると「めっちゃ恥ずかしかった!」と娘。そらそうやわ、私の水着を女子高生が着てるんやから。
流石に恥ずかしかっただろうなという気持ちも理解できたので、娘にお金を渡すことに。
そして、「1万円渡すから買っておいで」「最近の水着って1万円で足りるんかな……?」「足りると思うねんけどわからんから2万円」というやりとりの後のこと。
疲れていて眠い娘と、お金を直接取りに来ないことに不満を抱いた私とのケンカが始まりました。
「もう眠いからテーブルに置いといてや」
「ちょっと!! 部屋に戻らんとここまで取りに来てよ!」
「今、疲れてるって言うてるやん! 置いといてよ!!」
部屋に引っ込もうとする娘の態度に、私はカチンときてヒートアップ。ようやく、渋々といった不満げな顔でテーブルの上に乗った2万円を娘が取りに来ると、私は怒りに任せて娘の身体を少し小突くように押してしまいました。その余波で、私と娘の間にあった諭吉さんはもみくちゃになり、ひらひらと床の上に舞い落ちていきました。
そのお金をひったくるように取っていた娘にイライラしながら、ケンカしたいきさつをひろしさんに話しました。すると、思いもしない言葉が返ってきたのです。
「どうして疲れていると言っているのに、無理に取りに来いと言うんだ。テーブルに置いといてと言うなら、そうすればいいだけだろう。
珠代さんも態度にショックを受けたのかもしれないけど、娘さんは母親に身体を押されてどんな気持ちだったか分かるか。
珠代さんは大人だから、明日になればこのケンカも流せるだろう。だけど、娘さんの心には母親に押されたことが傷として残るかもしれない」
そう言われて、自分がどれだけひどいことをしたのかが理解できました。相手が娘ではなかったら、きっと身体を押したりしなかった。だとしたら、娘にだってしてはいけないことなのです。
私が言葉以外の方法を取ったのは「親が言っているんだから」と無意識に宿っている押し付け。以前あんなに大きなケンカをしたのに、私はまた間違えたのです。
その日から、娘は私が作り置きした食事を食べなくなりました。ロケから帰って、冷蔵庫を開けると、手つかずのおかずが残っていて、「あぁ、またあの冷たくて苦しい時間を過ごすことになるのか」と思いました。
娘が私の食事を食べなくなって3日目。このまま作っていても誰も幸せにならないと思ったので、テーブルにメモ書きを残すことにしました。
「今日も手を付けないならお金を置いていくから、それで自分が食べたいものを買ってください。もうママの役目も終わりなのね……」
重い感じに伝わらないように私の似顔絵を描き、吹き出しの中にこんなことを書きました。仕事が終わり家に帰ると、私が作った食事は用意した状態のまま置いてありました。
正直、ショックでした。机の上に置いていったメモ書きを捨てようと手に取ると、なにやら書き加えてあります。そこには、かわいいイラストと、吹き出しの中にメッセージが。
「ここ2日間はうどんを食べたかったらしくて、自分でつくって食べてたみたいよ?」
そのメモを見た瞬間に、私は娘の部屋へ行き謝りながら大号泣。娘に引かれるほど泣いてしまったけど、その後きちんと仲直りすることができました。前回は2ヵ月口をきいてくれなかった。でも、今回は4日で持ち直せた。私たちの関係はよりよい関係になっていると思います。
娘の推し
私が芸人をしているので、娘が学校でいじめられないかというのは、長年心配していました。娘には、もしいじめられたら引っ越してもいいと思っていること、とにかくなんでも話すことなどは伝えてきたつもりです。
それでもやっぱり心配な私は、あるとき酒井藍ちゃんにこの悩みを話したことがあります。すると藍ちゃんは男気あふれる様子で一言。
「もし娘さんがいじめられたら、すぐに呼んでください。いじめたヤツのところに怒鳴り込みに行ったりますから」
娘と藍ちゃんは面識もあり、一緒にご飯を食べることもあるのですが、会うたびに「なんでも言いや? なんでもいいから! なっ?」と娘に声をかけてくれます。
藍ちゃん自身が三きょうだいの一番上ということもあってか、すごく面倒見がよくて、娘も気を許しているようです。傍から見ていると、まるで姉妹のよう。もしかしたら、娘にとってもそのくらい近い存在なのかもしれません。
自分を守ってくれる存在がいると知ってから、娘は藍ちゃんのことを《推し》として見るようになったらしく、藍ちゃんがニカッと笑っている写真を机のうえに飾っていて、「私はこの写真を見ているだけで心が豊かになるの」と話していました。
いつもの私だったら、娘のそんな姿を見て「じゃあママはいなくていいね」と卑屈になってしまいそうなのですが、なぜかそんな気持ちにはならないのです。
私の子どもを愛しているのは、私だけじゃない。
それが、どんなに心強いか。一見、娘に寄り添っているような藍ちゃんの言動が、私にも寄り添ってくれているのを感じる。それが卑屈にならない理由なのかもしれません。
10/26 12:30
婦人公論.jp