昭和のルックス&音質を再現!「カセットテープ」人気復活で新ラジカセがヒット中「担いで歩いたらメッチャ映えます」

ドウシシャAVライティング事業部の金谷衛さん

 

 レディー・ガガ、テイラー・スウィフト、山下達郎、奥田民生、スピッツなど、国内外の名だたるアーティストたちが、新作をカセットテープでリリースしている。

 

 昭和世代には懐かしく、Z世代には新しい音楽ソフトとして、カセットテープが再評価されているのだ。そんななか、あたかも1980年代から存在していたかのような顔を持つ「俺たちの青春ラジカセ。」が売れている。開発したのが、AV事業一筋の金谷衛さんだ。

 

「私はいま62歳で、レコードとカセットテープの世代なんです。ラジカセ自体は、ずっと途切れることなく作られてきましたが、簡単操作で大きなボタンの高齢者向けのものが多かったんです。私は1980年代のラジカセブームを体感しているので、そのころのデザインを踏襲して、新しいものを作りたいと考えました」

 

 

 金谷さんは、デザインだけでなく、音質にもこだわった。

 

「当時の音質を再現したかったんです。デジタルでいい音を作ることはできるんですが、“あの時代の音”にしたかったので、そこにはこだわりました。基準になった音? 私の記憶が頼りでした(笑)」

 

 発売に先がけて2022年にクラウドファンディングをおこなったところ、1163人から1644万円が集まった。最新型では、基本のラジオとカセットに加え、CDプレーヤー、MP3再生、Bluetooth機能、外部入力、内蔵マイクも装備している。

 

「これを担いで渋谷を歩いたら、めっちゃ映えますよ(笑)。担げるように、CD音飛び防止機能つきです。そしていまは、カセットをダビングできる『Wカセット』の要望が多いですね。実際にダビングするのではなく、当時のWカセットを所有したいという欲求なのかもしれません」

 

 たしかに、ほしくなってきたかも!

 

売り上げ1位はサザン、達郎は企画モノで勝負…カセットは企画力で勝負してきた

 

「CDが登場する1982年まで、音楽メディアはアナログレコードとカセットテープの2択でした。カセットの最大のメリットは、レコードより収録時間が長くできたこと。そのため、ベスト盤や企画モノが多数、リリースされました」(音響監督・野崎圭一氏)

 

 たとえば、サザンオールスターズは1978年にシングル『勝手にシンドバッド』でデビューし、1979年、『ベスト・オブ・サザンオールスターズ』をカセットのみで発売。以降、年に1~2回というハイペースでベスト盤を連発し、1982年にはバラード曲を集めた『バラッド1977~1982』を発売。54.6万本を売り上げ、国内アーティストのカセット部門歴代1位を記録した。

 

 また、ドライブ中のBGMを想定した作品も人気を博した。火つけ役となったのは、山下達郎だ。1980年、カセット限定で『COME ALONG』を発売。小林克也が英語でラジオDJ風に曲間をつなぎ、ノンストップ仕様にしたことで評判となり、1982年には角松敏生、1984年に杉山清貴&オメガトライブが、DJスタイルのカセットをリリースした。

 

 大滝詠一は、1985年に初のベスト盤『B-EACH TIME L-ONG』をリリース。A面とB面の収録時間をきっちり30分にして、特有の曲終わりのタイムラグをなくした。

 

 このように、カセットは企画力で勝負する一面があった。だが、1988年をピークに売り上げはなだらかに下がっていき、1990年代中盤には演歌を除き、音楽マーケットから消えていった……。

 

 いまはスマホで音楽が聴ける時代になった。しかし、タワーレコード渋谷店が専門売場を拡大するなど、人気が復権している。前出の野崎氏が語る。

 

「カセットテープの音が好きな人は、スマホで撮影した写真を、紙焼きして楽しむような感覚に近い。われわれもふだんはデジタルでレコーディングしていますが、録ったあとに一度、テープを通すことがあります。質感がよく、音の角が丸くなる効果があるんです」

 

 デジタルに慣れたいま、温かみのあるカセットの音は新鮮に聴こえるはずだ。

 

写真・木村哲夫

ジャンルで探す