竹内まりやの激レア品は「神戸の高架下で1本100円で」韓国DJのNight Tempoが1500本超“邦楽カセット収集家”になるまで【わが青春のカセットテープ】
レディー・ガガ、テイラー・スウィフト、山下達郎、奥田民生、スピッツなど、国内外の名だたるアーティストたちが、新作をカセットテープでリリースしている。
昭和世代には懐かしく、Z世代には新しい音楽ソフトとして、再評価されているのだ。本誌が取材した著名人も、カセットへの思いがあふれていた――。
近年、世界的に高い評価を受けている日本の「シティ・ポップ」。そのブームの立役者の一人が、韓国人DJのNight Tempoだ。おそらく、世界一の邦楽カセット収集家であり、中古市場でも状態のいいものはなかなか出回らない山下達郎の『FOR YOU』(1982年)、竹内まりやの『VARIETY』(1984年)のカセットを10本ずつ保有。松原みき、スペクトラム、シュガーベイブ、シャンバラなど、ファン垂涎の激レアカセットも持っている。
「角松敏生さんの『AFTER 5 CLASH』(1984年)は、新品で購入しました。日本の地方のレコード屋さんで発見しました。『ウチには演歌しかないよ』と言ってたけど、探したらありました。意外と売れ残りで手に入るものがあったんです。
カセットは1500本以上あり、韓国の倉庫に保管しています。好きなアーティストの作品は、同じものでも買うようにしています。テープは伸びたり切れたりするものなので、予備が必要なんです。僕が聴きたいものは、一生ぶんあります(笑)」
なぜ、韓国人の彼が、日本人アーティストのカセットを買い集めるのか?
「日本の音楽が好きになったきっかけは、角松敏生さんがプロデュースした中山美穂さんの『CATCH ME』でした。角松さんが作るサウンドがかっこよくて、角松さんのアルバムも聴くようになりました」
日本では1982年にCDが登場して、カセットは徐々に衰退していったが、韓国ではどうだったのか?
「1990年代でも、韓国では音楽を聴くスタイルとして、CDではなく、カセットが主流だったんですね。当時、日本ではカセットが100本くらい入って1箱2000円とか、たたき売り状態だったので、片っ端から購入していました。15年ほど前から香港の友人と日本へ来るたびに、全国のハードオフやレコード店を巡って、カセットを集めました。
竹内まりやさんのカセットは、神戸の高架下で1本100円で売っていたので、全部買い占めました。昔のカセットのジャケットは、レコード向けのデザインをすごく工夫して、小さなスペースに配置しているのがおもしろいですね」
その膨大なコレクションのなかから彼が選んだ1本は、菊池桃子がボーカルを務めたプロジェクト「ラ・ムー」の『Thanks Giving』(1988年9月14日発売・オリコン5位)。
「独特な世界観が好きです。菊池桃子さんの切ない歌声はありながら、ソロの柔らかい曲とは違って、ドラムなどバックがゴリゴリのサウンドなんです。まるでチャカ・カーンの音楽のように、刺激的に聴こえました」
以前、エンジニアだった彼は、精密機械の修理もできる。当時のカセットウォークマンを計400台ほど購入し、うち130台は自分で修理した稼働品だという。
「プレイヤーやカセットのグレードによって、少しずつ違った音を聴かせてくれるんです。カセットデッキを使ってDJしたりしていました」
Night Tempoはアーティストとしても、カセットを大切にしている。
「初めて自分のアルバムを出したインディーズのころは、カセットでしか作ってなかったんですね。そのあと、レコードとカセット、配信で作品を発表していましたが、日本ではレコード会社からの要望もあり、CDも作っています」
最新デジタルアルバム『Connection』が発売されたばかり。
「インスト曲を中心に、『つながり』をテーマに曲を書きました。香港のレーベルからになりますが、今回ももちろん、カセット版もあります。僕のデフォルトですから(笑)」
ナイト・テンポ
1986年生まれ 韓国出身 竹内まりやの『プラスティック・ラブ』をリエディットして、そのYouTube動画が世界中で拡散される。11月10日にビルボードライブ東京、11月23日にビルボードライブ大阪にてライブを開催する
写真・木村哲夫
09/28 21:00
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