『笑うマトリョーシカ』櫻井翔の演技が “演説” に見えて…最終話がガッカリした2つの理由【ネタバレあり】
全体的なストーリーや最後に明かされた真相は、政治サスペンスとして質が高かったと思う。だが、最終話を総括すると、想定を上回るような驚きもおもしろさもなく、ガッカリさせられた。
9月6日(金)に最終話(第11話)を迎えた水川あさみ主演『笑うマトリョーシカ』(TBS系)のことだ。
未来の総理候補として高い人気を誇る若き国会議員と、その有能な秘書の得体の知れない謎の関係性に、主人公の新聞記者が迫っていくヒューマン政治サスペンス。
新聞記者・道上香苗を水川、有能秘書・鈴木俊哉を玉山鉄二、そして物語の核を担う国会議員・清家一郎を嵐・櫻井翔が演じていた。
■【ネタバレあり】“真相” を何重にも覆い隠した秀逸な構造
ヒトラーにはハヌッセンという彼を操っていたとされる強烈なブレーンがいたことから、物語序盤、道上は、鈴木が清家を操り人形のようにコントロールしている存在なのではないかと疑っていたが、中盤から終盤にかけて二転三転。
鈴木ではなく清家の元恋人(田辺桃子)や母親(高岡早紀)が、黒幕のハヌッセンではないかという展開が繰り広げられていた。
最終話前の段階で、母親が幼少期から青年期までの清家を操っていたのは事実で、その後に鈴木や元恋人も操っていた時期があったものの、いま現在はこの3人ともハヌッセンではなくなっていることが判明。
最終話は、いま清家を操っているハヌッセンは誰なのかというのが最大の焦点だった。
――ネタバレで結論を言うと、今の清家にはハヌッセンはいなかった。
しかも母親、鈴木、元恋人が彼を操っていたのは事実だが、「見くびるな」というプライドが沸き起こった清家が、自分の意思で、3人にとってそれぞれ最悪の屈辱的タイミングで切り捨てていた。そして清家は次にまた自身を操ってくれる優秀な人材を探していたというのが真相。
要するに、幼少期から青年期までは “操られていた” が、ある時期から清家が自発的に “操らせていた” ということで、黒幕的な存在は誰かと言えば、清家自身だったことになる。
第1話時点から振り返ると、まるでマトリョーシカのように “真相” を何重にも覆いかぶせた素晴らしく凝ったストーリーで、感服させられた。
とはいえ、連続ドラマというエンタメ作品として考えると、最終話を迎えた時点で黒幕の大本命が清家だったことは否めない。なぜなら、最終話までに怪しい主要キャラたちが次々と現在のハヌッセンではないことが明かされていたので、黒幕の格としてふさわしいのが櫻井演じる清家ぐらいしか残っていなかったからだ。
とても秀逸な構造を持った物語だっただけに、もうちょっと「清家=黒幕説」にたどりつけないように、工夫した展開や演出で煙に巻いてほしかったというのが正直なところ。……もったいない。
■最終対決の櫻井は悪い意味で「情熱的なとても上手い演説」
黒幕の予想が容易だったことのガッカリ感以上に、最終話を観てガッカリさせられたのが櫻井翔の演技だった。
主人公・道上と黒幕・清家が2人きりで対話する展開。清家が初めて道上に素で本音を語るというクライマックスシーンだ。
ヒトラーのように権力を握って日本をコントロールしたいのかと道上が尋ねると、清家は感情をさらけ出し、こう熱弁する。
「彼(ヒトラー)のしたことは絶対に容認することはできない。ただ、認められないのは彼の “したこと” だけです。彼が権力を持ったこと自体は問題じゃない。ヒトラーは国民の上に立ち、先導しようとした。眠っている人たちを叩き起こそうとした。それって無関心が蔓延している、いまのこの国に必要なリーダー像そのものじゃないですか!」
櫻井の演技は、悪かったわけではないのだが……物足りなかった。
このセリフを含めた道上との最終対決は、1クール使って引っ張ってきたすべての謎が解き明かされるシーンであり、言うなれば本作の “全部” を背負った見せ場。サスペンスものの成否を決めるその重責を、櫻井が担うには少々厳しかったように思う。
櫻井演じる清家の熱弁は “情熱的なとても上手い演説” のようだった。誉め言葉ではない。演技感が抜けていなかったという揶揄である。
もし現実の政治家が街頭演説で、この櫻井ばりの熱量で弁舌を振るっていたら、多くの聴衆の心に響くのかもしれないが、それはつまり見栄えがいいからだ。
しかし、このクライマックスシーンの清家は生々しい本音を吐露していたので、もっと見苦しいぐらいの演技のほうがよかったのではないか。
見たかったのは、もっと狂気的に振る舞うなどした常軌を逸した清家。櫻井は上品で見栄えがよく、きれいな演技をしていた。だが見栄えのよさなんて捨て去って、醜い姿をさらしてほしかった。
最終話の櫻井の演技で伝わってきたのは、彼は役者よりも政治家としての資質がありそうだ、ということぐらいか……。
物語の構造がとてもよくできていた政治サスペンスだっただけに、この2つのガッカリ要素がもったいないと感じた最終話だった。
堺屋大地
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中
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