フランス「独自外交」で中国に接近、取り込まれる懸念 ウクライナ仲介役も期待

【パリ=板東和正】中国の習近平国家主席が国賓としてフランスを訪問した。マクロン仏政権は習氏を手厚く迎え、対中接近を図る独自外交を展開している。マクロン政権は、ロシアのウクライナ侵略で中国に仲介役を要請し、侵略戦争を終結に導きたい考え。対中圧力の拡大を呼びかける米国とは一線を画した外交で存在感を高める思惑がある。ただ、欧州連合(EU)が中国依存の低減を目指す中で、フランスが中国に取り込まれるリスクも指摘されている。

マクロン氏は大統領府での夕食会で習氏を盛大にもてなすほか、自身が祖母と幼少期を過ごした仏南西部ピレネー山脈の景勝地にも習氏を招待する。両首脳の夫人がオルセー美術館で名画を鑑賞する機会も設ける予定。「マクロン氏は最大限の配慮で中国との友好ぶりをアピールする」と欧州の政治専門家は分析する。

マクロン氏にはまず、中国との貿易や投資を拡大させ、国内経済の活性化につなげたい意図がある。中国はこれまでも、仏農産品の輸入や欧州航空機最大手エアバス機の発注を積極的に行ってきた。今回の中仏首脳会談に合わせ、習氏はエアバス機の追加発注を表明する可能性がある。

長期化しているウクライナ侵略戦争についても、プーチン露大統領に近い習氏の協力を取り付け、終結に道筋をつけられれば外交成果となる。

欧州メディアによると、マクロン氏は7月に開幕するパリ五輪期間中の停戦を目指しており、習氏が交渉に参加するよう要請する。マクロン氏は今月2日付の英誌エコノミスト(電子版)のインタビューで「中国が国際秩序の安定について発言することがわれわれの利益となる」とし、「中国と協力して平和を築く必要がある」と訴えた。

ただ、中国はロシアに軍事転用可能な物資を輸出して露軍需産業を支えているとされ、マクロン氏の姿勢には懸念の声も出ている。あるEU加盟国の議員は「ロシアに寄り過ぎる中国が良い仲介者になるとは思えない」と断言する。

EUはロシアに天然ガスの供給を削減された教訓から、重要資源や電気自動車(EV)用電池などについて中国に頼ってきた従来の方針を転換した。中国依存を低減する政策「デリスキング(リスク回避)」を進めているさなかだ。

欧州市場での存在感低下を恐れる中国は「デリスキング」に強く反発している。フランスに対露交渉での協力や投資拡大を持ちかけ、EUの足並みの乱れを誘おうとする可能性がある。

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