佐野正弘のケータイ業界情報局 第137回 モトローラ、「razr」新機種で大規模プロモーションに舵を切ったのはなぜ?

モトローラ・モビリティは2024年9月17日、折りたたみスマートフォン「razr」シリーズの新機種「motorola razr 50」を発表しました。「motorola razr 40s」に続いてソフトバンクから発売されるだけでなく、有名アイドルをブランドアンバサダーに起用するなど、プロモーションにも非常に力を入れている様子からは、“いまが攻め時”と見た同社の変化を大きく感じ取ることができます。
motorola razr 50は再びソフトバンクにも供給

これまで日本での存在感が大きいとはいえなかった、中国レノボ・グループ傘下の米モトローラ・モビリティ。ですが、ここ数年来、国内市場の積極開拓へと大きく舵を切っており、2024年にはエントリークラスの「moto g64y 5G」、そしてミドルクラスの「motorola edge 50s pro」をソフトバンクに供給するなど、ソフトバンクとの関係を強化して新製品を積極的に投入しています。

その同社が2024年9月17日に発表会を実施し、折りたたみスマートフォン「razr」シリーズの新機種「motorola razr 50」の国内販売を発表。これは、2024年に日本でも発売された、縦折りタイプのスマートフォン「motorola razr 40」の後継モデルになります。

なかでも前機種と比べて大きく変わったのが、外側のアウトディスプレイが3.6インチに大型化されたこと。motorola razr 40のアウトディスプレイは1.5インチと小さく、専用のウィジェット表示など用途が限られていましたが、motorola razr 50は画面が大きくなったことで、ウィジェットの表示だけでなく直接アプリを動かせるようになったほか、セルフィー撮影用のディスプレイとしても活用しやすくなりました。

もちろん、折りたたみスマートフォンならではの使い方も可能。90度折り曲げて背面のディスプレイでビデオチャットをしたり、ビデオカメラのように持ってディスプレイの半分でカメラをコントロールしたりするなど、活用の幅が大きく広がっています。

性能に関しても、新たにメディアテック製の「Dimensity 7300X」を搭載、RAMが12GB、ストレージが512GBに増量されたほか、IPX8の防水性能も新たに備えているとのこと。motorola razr 40からは着実に進化している様子がうかがえます。

そして今回も、ソフトバンク向けの兄弟モデル「motorola razr 50s」が用意されるとのこと。motorola razr 50sは、本体カラーこそmotorola razr 50と変わらず3色構成となりますが、RAMとストレージをそれぞれ8GB、256GBに抑えることで価格を引き下げているのがポイントとなっています。

ミドルクラスの供給成功で“攻め時”と判断

そうしたハード面より大きな変化となるのが、プロモーションに関する大きな変化です。なぜなら今回、motorola razr 50の発売に合わせてモトローラ・モビリティが実施した発表会では、ブランドアンバサダーとしてアイドル・俳優の目黒蓮さんを起用し、テレビCMも展開することを明らかにしたのです。

モトローラ・モビリティは、その前身となるモトローラ時代から世界的な携帯電話の大手メーカーであり、携帯電話の黎明期となる1G時代には市場を席巻していました。2G時代にも、現在のrazrシリーズにつながる薄型の折りたたみ携帯電話「RAZR」シリーズで高い人気を博していました。

それゆえ、以前は国内でも一定の知名度を持っていたため、40代以上の世代であればある程度のブランド認知があるようです。ですが、2014年にレノボ・グループの傘下となって以降、日本では事業を大幅に縮小していたことから、その間に携帯電話やスマートフォンになじんだ若い世代へのブランド認知が低いことが大きな課題となっています。

そこで同社は、日本市場開拓を本格化するにあたって、若い世代を対象としたプロモーションをここ最近強化しており、2024年3月にはmotorola razr 40sのテレビCMを展開。同じ3月には、若い世代が多く集まる東京・原宿に、motorola razr 40のポップアップストアを展開していました。

そして今回、同社は若い世代に人気のある目黒さんの起用を打ち出したことで、若い世代を中心にブランド認知を高め、日本市場で勝負をかけようとしている様子が見て取れます。

しかしなぜ、同社は今のタイミングで勝負をかけようとしているのでしょうか。そこにはソフトバンクとの関係の深化が大きく影響しているでしょう。

実は2023年、ソフトバンクから販売されたモトローラ・モビリティのスマートフォンは、motorola razr 40とエントリークラスの「moto g53y 5G」の2機種のみ。日本市場を狙って開発されたとみられる、売れ筋のミドルクラスとなる「motorola edge 40」がソフトバンクに採用されなかったため、フルラインアップの供給とはなりませんでした。

ですが、2024年はエントリーモデルのmoto g64y 5Gに加え、ミドルクラスの新機種であるmotorola edge 50s proをソフトバンクに供給できました。それに加えて今回、motorola razr 50sを供給したことで、ある意味ソフトバンクからフルラインアップを提供できる体制が整ったわけで、それを機としてブランド認知を一気に高め、販売拡大につなげる策に出たといえます。

とはいえ、モトローラ・モビリティの販路が携帯大手3社のうち、まだソフトバンク1社に限られていることも事実です。1G時代、前身企業に端末を多く供給してきたKDDIや、2G時代にRAZRシリーズを供給していたNTTドコモへの端末供給はまだ実現できていないだけに、これら2社の開拓をいかに進めるかは引き続き大きな課題となるでしょう。

ただ、そこで気になるのが、2023年12月にモトローラ・モビリティの日本法人社長に就任した仲田正一氏が、2024年10月15日付けで退任することが発表されたこと。短期間での社長退任が、今後の販路開拓にどう影響するかは大いに気になるところです。

佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら

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