佐野正弘のケータイ業界情報局 第138回 携帯電話番号「060」追加へ、なぜケータイ番号は急速に足りなくなっている?
総務省は2024年10月2日、新たに「060」から始まる11桁の番号を携帯電話向けの番号として割り当てる方針を打ち出しました。現在割り当てられている電話番号の枯渇が懸念されていることがその理由とされていますが、なぜ携帯電話の番号が不足しつつあるのでしょうか?
10年近く検討がなされてきた「060」の割り当て
携帯電話の番号といえば「090」「080」「070」から始まる番号というのはご存じの通り。ですが、この携帯電話番号の数が不足しつつあることはご存じでしょうか?
現在、携帯電話向けに割り当てられている番号は、先の3桁から始まる11桁の番号のうち、4桁目が「0」の番号を除いたもの。つまり、9000万×3=2億7000万もの番号が携帯各社に割り当てられ、携帯電話などの電話番号として使われています。
ですが、携帯電話番号は以前より不足傾向にありました。2019年には総務省が、直近の需要から試算すると「携帯電話番号は7年で枯渇する」と試算しており、新たな番号の割り当てに関する議論は以前からなされていたのです。
そして2024年10月2日、総務省は新たに「060」から始まる電話番号を、音声伝送携帯電話番号、要は音声通話が可能な携帯電話向けの番号として開放してはどうかという案を提示。今後、パブリックコメントを募ったうえで、実際に割り当てが進められるものとみられています。
では、そもそも060から始まる番号とは一体何なのかといいますと、もともとはFMC(Fixed Mobile Convergence)、つまりは携帯電話と固定電話を融合したサービスに向けて割り当てられていたもの。ですが、実際にはFMCに類するサービスが少なく、あまり使われていない番号となっていたのです。
そこで総務省では、需要が大きい携帯電話向けとして060の番号を割り当ててはどうかという検討を2015年頃から進めていました。それゆえ、060番号の割り当ては、およそ10年越しで実現したものともいえます。
「番号がなくなりそうなら、どうしてすぐ割り当てなかったのか?」と思われる人も多いでしょうが、実は2021年にも携帯電話向けに新たな番号が割り当てられていました。それは「020」から始まる14桁の番号です。この番号は、かつてポケットベル向けに割り当てられていたもので、こちらを音声通話をしないデータ通信専用機器の番号として割り当てることで、枯渇を回避しようとしていたのです。
しかし、それでも電話番号の枯渇が進む傾向は変わらず、令和6年度時点では比較的新しく割り当てられている070から始まる番号の残りが530万にまで減少。そこで総務省は今回、ようやく060から始まる番号の割り当てに踏み切ったといえるでしょう。ちなみに060から始まる番号も、4桁目が0以外のものだけが割り当てられることから、実現すれば音声通話ができる携帯電話番号の総数は3億6000万となり、当面の余裕が生じることは確かです。
IoTやサブ回線の需要増だけではない、番号枯渇の要因
では一体なぜ、人口が1億2000万程度であるはずの日本で、2億7000万もの携帯電話番号が足りなくなっているのでしょうか? これまで、その主な要因の1つとみられていたのは、電気やガスのスマートメーターなど、機械同士が通信する企業向けのIoT向けモバイル回線の需要増だったのですが、こちらに向けてはすでにデータ通信専用の020から始まる番号が割り当てられ、一定の対処がなされています。
それでも番号が不足する要因となっている理由の1つに挙げられるのが、メイン回線以外の需要の増加です。実際、最近では携帯電話回線を用いた固定回線サービスが増えており、こちらにも固定電話の番号に加え携帯電話番号が割り当てられています。また、ここ最近のスマートフォン新機種の大半は物理SIMとeSIMによる「デュアルSIM」に対応し、2つのSIM、ひいては2つの携帯電話回線を同時に利用できるようになっています。
それだけに、最近ではサブ回線需要を強く意識した、月額料金が非常に安い通信サービスも増加傾向にあります。その代表例となっているのが、KDDIの「povo」。月額0円での利用が可能で、必要な通信量を“トッピング”で追加できる仕組みを生かし、最近ではコンビニエンスストアの「ローソン」でpovoのデータ通信専用サービスが利用できるPOSAカードを販売するなど、eSIMに登録してサブ回線として利用してもらう取り組みに力を入れています。
もう1つ、サブ回線の需要を高めているのは、災害や通信障害への“備え”です。携帯大手3社は、大規模災害や大規模通信障害で自社回線が使えなくなった時の“備え”として、eSIMなどに他社回線を追加し、非常時に切り替えて利用する「副回線サービス」を提供するようになっています。
メイン回線以外の需要増加で2つ以上の電話番号を持つ人が増え、それが枯渇を進める要因となっているのは確かでしょう。ただ、もう1つの大きな要因として、携帯電話の契約・解約のサイクルが早くなっていることも考えられるのではないでしょうか。
電話番号は有限な資源ですので、解約されて使われなくなった番号も実はリサイクルされ、新しい契約者に割り当てられています。ただ、解約者が新しい電話番号に移行し、それを周知する期間などを考慮し、混乱が生じないよう電話番号は解約後すぐに再利用するのではなく、しばらく時間を置いたうえで再利用することが一般的となっています。
ですが、2019年の電気通信事業法改正によって、長期契約を求める代わりに料金を安くする“縛り”が有名無実化するなど、携帯電話サービスの解約が非常にやりやすくなりました。一方で、解約された電話番号を再利用する期間は従来と大きく変わらないでしょうから、短期間での解約が増えると“再利用待ち”の電話番号が大幅に増えることになります。
その結果、携帯各社が顧客に割り当てられる電話番号が減少し、新たな割り当てを求めることで国が保有する電話番号の枯渇が進む……という可能性も大いに考えられるでしょう。
今後も、メイン回線以外の需要が増えることは間違いないでしょうし、契約・解約がしやすい市場環境が大きく変わるとも考えにくいのも事実。それだけに、新たに060から始まる番号が割り当てられたとしても、意外と早い時期に枯渇してしまう可能性があることは覚悟しておく必要があるかもしれません。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら
10年近く検討がなされてきた「060」の割り当て
携帯電話の番号といえば「090」「080」「070」から始まる番号というのはご存じの通り。ですが、この携帯電話番号の数が不足しつつあることはご存じでしょうか?
現在、携帯電話向けに割り当てられている番号は、先の3桁から始まる11桁の番号のうち、4桁目が「0」の番号を除いたもの。つまり、9000万×3=2億7000万もの番号が携帯各社に割り当てられ、携帯電話などの電話番号として使われています。
ですが、携帯電話番号は以前より不足傾向にありました。2019年には総務省が、直近の需要から試算すると「携帯電話番号は7年で枯渇する」と試算しており、新たな番号の割り当てに関する議論は以前からなされていたのです。
そして2024年10月2日、総務省は新たに「060」から始まる電話番号を、音声伝送携帯電話番号、要は音声通話が可能な携帯電話向けの番号として開放してはどうかという案を提示。今後、パブリックコメントを募ったうえで、実際に割り当てが進められるものとみられています。
では、そもそも060から始まる番号とは一体何なのかといいますと、もともとはFMC(Fixed Mobile Convergence)、つまりは携帯電話と固定電話を融合したサービスに向けて割り当てられていたもの。ですが、実際にはFMCに類するサービスが少なく、あまり使われていない番号となっていたのです。
そこで総務省では、需要が大きい携帯電話向けとして060の番号を割り当ててはどうかという検討を2015年頃から進めていました。それゆえ、060番号の割り当ては、およそ10年越しで実現したものともいえます。
「番号がなくなりそうなら、どうしてすぐ割り当てなかったのか?」と思われる人も多いでしょうが、実は2021年にも携帯電話向けに新たな番号が割り当てられていました。それは「020」から始まる14桁の番号です。この番号は、かつてポケットベル向けに割り当てられていたもので、こちらを音声通話をしないデータ通信専用機器の番号として割り当てることで、枯渇を回避しようとしていたのです。
しかし、それでも電話番号の枯渇が進む傾向は変わらず、令和6年度時点では比較的新しく割り当てられている070から始まる番号の残りが530万にまで減少。そこで総務省は今回、ようやく060から始まる番号の割り当てに踏み切ったといえるでしょう。ちなみに060から始まる番号も、4桁目が0以外のものだけが割り当てられることから、実現すれば音声通話ができる携帯電話番号の総数は3億6000万となり、当面の余裕が生じることは確かです。
IoTやサブ回線の需要増だけではない、番号枯渇の要因
では一体なぜ、人口が1億2000万程度であるはずの日本で、2億7000万もの携帯電話番号が足りなくなっているのでしょうか? これまで、その主な要因の1つとみられていたのは、電気やガスのスマートメーターなど、機械同士が通信する企業向けのIoT向けモバイル回線の需要増だったのですが、こちらに向けてはすでにデータ通信専用の020から始まる番号が割り当てられ、一定の対処がなされています。
それでも番号が不足する要因となっている理由の1つに挙げられるのが、メイン回線以外の需要の増加です。実際、最近では携帯電話回線を用いた固定回線サービスが増えており、こちらにも固定電話の番号に加え携帯電話番号が割り当てられています。また、ここ最近のスマートフォン新機種の大半は物理SIMとeSIMによる「デュアルSIM」に対応し、2つのSIM、ひいては2つの携帯電話回線を同時に利用できるようになっています。
それだけに、最近ではサブ回線需要を強く意識した、月額料金が非常に安い通信サービスも増加傾向にあります。その代表例となっているのが、KDDIの「povo」。月額0円での利用が可能で、必要な通信量を“トッピング”で追加できる仕組みを生かし、最近ではコンビニエンスストアの「ローソン」でpovoのデータ通信専用サービスが利用できるPOSAカードを販売するなど、eSIMに登録してサブ回線として利用してもらう取り組みに力を入れています。
もう1つ、サブ回線の需要を高めているのは、災害や通信障害への“備え”です。携帯大手3社は、大規模災害や大規模通信障害で自社回線が使えなくなった時の“備え”として、eSIMなどに他社回線を追加し、非常時に切り替えて利用する「副回線サービス」を提供するようになっています。
メイン回線以外の需要増加で2つ以上の電話番号を持つ人が増え、それが枯渇を進める要因となっているのは確かでしょう。ただ、もう1つの大きな要因として、携帯電話の契約・解約のサイクルが早くなっていることも考えられるのではないでしょうか。
電話番号は有限な資源ですので、解約されて使われなくなった番号も実はリサイクルされ、新しい契約者に割り当てられています。ただ、解約者が新しい電話番号に移行し、それを周知する期間などを考慮し、混乱が生じないよう電話番号は解約後すぐに再利用するのではなく、しばらく時間を置いたうえで再利用することが一般的となっています。
ですが、2019年の電気通信事業法改正によって、長期契約を求める代わりに料金を安くする“縛り”が有名無実化するなど、携帯電話サービスの解約が非常にやりやすくなりました。一方で、解約された電話番号を再利用する期間は従来と大きく変わらないでしょうから、短期間での解約が増えると“再利用待ち”の電話番号が大幅に増えることになります。
その結果、携帯各社が顧客に割り当てられる電話番号が減少し、新たな割り当てを求めることで国が保有する電話番号の枯渇が進む……という可能性も大いに考えられるでしょう。
今後も、メイン回線以外の需要が増えることは間違いないでしょうし、契約・解約がしやすい市場環境が大きく変わるとも考えにくいのも事実。それだけに、新たに060から始まる番号が割り当てられたとしても、意外と早い時期に枯渇してしまう可能性があることは覚悟しておく必要があるかもしれません。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら
10/30 18:30
マイナビニュース