佐野正弘のケータイ業界情報局 第136回 ソフトバンクがスマホの単体販売を一部終了、理由は「1円スマホ」にあり!?
ソフトバンクが、スマートフォンの単体販売を一部を除いて取りやめたことが話題になっています。そこには、2023年末に「1円スマホ」が規制されたことが大きく影響しているようですが、携帯電話会社がスマートフォンの単体販売をやめることに問題はないのでしょうか。
オンラインショップでAndroidスマホの単体購入が不可に
2019年の電気通信事業法改正で、携帯電話の通信契約とスマートフォンの販売を明確に分離することが求められて以降、携帯各社には通信契約をしていない人に対しても、スマートフォンを単体で販売するようになっていました。ですが、最近になってそれを大きく覆す動きが出てきています。
それは、ソフトバンクの「ソフトバンク」ブランドにおいて、一部を除くスマートフォンなどの端末を、ソフトバンクブランドの通信サービス契約者以外に販売するのを取りやめたこと。実際、ソフトバンクのオンラインショップで「機種のみを購入」を選ぶと、iPhoneとiPadしか選択できず、Androidスマートフォンは購入できなくなっています。
一方で、料金プランの契約とセットで購入する場合は、iPhone・iPadだけでなくグーグルの「Pixel」シリーズやほかのAndroidスマートフォンなども選べます。多くの端末の単体販売を取りやめていることが理解できるでしょう。
なぜ、このタイミングでソフトバンクが単体販売をやめるに至ったのかというと、そこにはいわゆる「1円スマホ」以降の環境変化が非常に大きく影響しています。
1円スマホとは、スマートフォンのベースの価格を大幅に引き下げて販売し、それに加えて携帯電話回線を契約する人に対しては、当時の電気通信事業法で定められた最大22,000円の割引を適用することで、スマートフォンを1円などの激安価格で販売するもの。2019年の電気通信事業法改正で、通信サービスの継続を前提とした従来の端末値引き手法が禁止され、スマートフォンの販売が振るわなくなったことを受けて編み出された値引き手法で、2021年ごろから携帯各社のショップで急速に広まったものです。
ですが、1円スマホの拡大とともに問題となったのが、いわゆる「転売ヤー」による買い占め行為です。そもそも1円スマホの手法は、通信契約者に対するスマートフォンの値引きが規制されたことで「なのであれば非通信契約者にも安く販売すれば、スマホの大幅値引きができる」という発想から生まれたもの。それゆえ、法の規制に抵触しないよう、通信契約者だけでなく非通信契約者にも値引きして販売する必要があったわけです。
そこに目を付けたのが転売ヤーで、大幅値引きがなされたスマートフォンを大量購入して転売するため、携帯ショップに多くの人を並ばせて買い占めてしまう行為が横行しました。そのことを問題視した総務省が議論の末、2023年末に電気通信事業法を一部改正。1円スマホの販売手法を規制するに至ったのですが、その新たな規制が今回のソフトバンクの措置と密接につながっているのです。
携帯各社にはデメリットしかないスマホ単体販売
改正された電気通信事業法では、端末の割引額上限に変更がなされ、44,000円以下であれば22,000円、44,000円から88,000円まではその50%、88,000円以上は44,000円という変動制になりました。ですが、この時にはもう1つ、1円スマホの手法を規制するため大きな変更が加えられているのです。
それは、規制対象の通信事業者が端末販売する場合、端末を単体で販売する際にも上記の値引き規制を受けること。改正前の電気通信事業法では、通信契約に紐づいた値引きは22,000円までに規制される一方、端末を単体で販売する際の値引き規制がなかったことから1円スマホのような値引きが可能だったのですが、一連の問題を受けてそちらも一律に規制し、大幅値引きをできなくしたのです。
その結果、規制対象の通信事業者は誰に端末を販売しても一律の値引き規制を受けるため、通信契約者と非通信契約者に同じ価格で販売する必要がなくなりました。しかも、改正後の電気通信事業法では、規制対象の通信事業者に端末の単体販売を求めてはいないことから、それを受ける形でソフトバンクは大部分の端末の単体販売を取りやめるに至ったものと考えられます。
そもそも携帯電話会社にとって、スマートフォンの単体販売は“やりたくないもの”でもあります。菅政権下での携帯料金引き下げで携帯大手3社が経営に大きなダメージを受けたように、携帯電話会社の“虎の子”というべき主な収入源は毎月の通信料であり、スマートフォンの販売はその契約につながる副次的なものに過ぎません。
それゆえ携帯各社は、通信サービスの契約数を増やすことに非常に重点を置く一方、スマートフォンの販売がメインのビジネスではないことから、大幅な値引きで安く販売して顧客を獲得し、通信契約を増やすことに重きを置いてきました。それを収入にほぼつながらない非通信契約者に激安で購入されてしまうことは、携帯電話会社にとってデメリット以外の何者でもないのでやりたくない、というのが本音なのです。
しかもここ最近は、度重なる政府のスマートフォン値引き規制で携帯各社からの販売が落ち込んだことを機として、多くのスマートフォンメーカーが「SIMフリー」と呼ばれるオープン市場向けのスマートフォンを積極的に販売するようになりました。値引きの有無はともかく、消費者がスマートフォンを購入できる販路自体は大きく広がっているだけに、携帯各社がスマートフォンを単体で販売する必要性が薄れてきていることも確かでしょう。
それゆえ、ソフトバンクの施策を契機として、携帯各社がスマートフォンの単体販売を取りやめる動きは広がる可能性は高いと考えられます。ただ、この動きはごく最近起きたものでもあるだけに、公正さを強く求める総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」などで一連の動きがどう評価され、行政側が再び端末の単体販売を求めるのかどうかは今後関心を呼ぶことになりそうです。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら
オンラインショップでAndroidスマホの単体購入が不可に
2019年の電気通信事業法改正で、携帯電話の通信契約とスマートフォンの販売を明確に分離することが求められて以降、携帯各社には通信契約をしていない人に対しても、スマートフォンを単体で販売するようになっていました。ですが、最近になってそれを大きく覆す動きが出てきています。
それは、ソフトバンクの「ソフトバンク」ブランドにおいて、一部を除くスマートフォンなどの端末を、ソフトバンクブランドの通信サービス契約者以外に販売するのを取りやめたこと。実際、ソフトバンクのオンラインショップで「機種のみを購入」を選ぶと、iPhoneとiPadしか選択できず、Androidスマートフォンは購入できなくなっています。
一方で、料金プランの契約とセットで購入する場合は、iPhone・iPadだけでなくグーグルの「Pixel」シリーズやほかのAndroidスマートフォンなども選べます。多くの端末の単体販売を取りやめていることが理解できるでしょう。
なぜ、このタイミングでソフトバンクが単体販売をやめるに至ったのかというと、そこにはいわゆる「1円スマホ」以降の環境変化が非常に大きく影響しています。
1円スマホとは、スマートフォンのベースの価格を大幅に引き下げて販売し、それに加えて携帯電話回線を契約する人に対しては、当時の電気通信事業法で定められた最大22,000円の割引を適用することで、スマートフォンを1円などの激安価格で販売するもの。2019年の電気通信事業法改正で、通信サービスの継続を前提とした従来の端末値引き手法が禁止され、スマートフォンの販売が振るわなくなったことを受けて編み出された値引き手法で、2021年ごろから携帯各社のショップで急速に広まったものです。
ですが、1円スマホの拡大とともに問題となったのが、いわゆる「転売ヤー」による買い占め行為です。そもそも1円スマホの手法は、通信契約者に対するスマートフォンの値引きが規制されたことで「なのであれば非通信契約者にも安く販売すれば、スマホの大幅値引きができる」という発想から生まれたもの。それゆえ、法の規制に抵触しないよう、通信契約者だけでなく非通信契約者にも値引きして販売する必要があったわけです。
そこに目を付けたのが転売ヤーで、大幅値引きがなされたスマートフォンを大量購入して転売するため、携帯ショップに多くの人を並ばせて買い占めてしまう行為が横行しました。そのことを問題視した総務省が議論の末、2023年末に電気通信事業法を一部改正。1円スマホの販売手法を規制するに至ったのですが、その新たな規制が今回のソフトバンクの措置と密接につながっているのです。
携帯各社にはデメリットしかないスマホ単体販売
改正された電気通信事業法では、端末の割引額上限に変更がなされ、44,000円以下であれば22,000円、44,000円から88,000円まではその50%、88,000円以上は44,000円という変動制になりました。ですが、この時にはもう1つ、1円スマホの手法を規制するため大きな変更が加えられているのです。
それは、規制対象の通信事業者が端末販売する場合、端末を単体で販売する際にも上記の値引き規制を受けること。改正前の電気通信事業法では、通信契約に紐づいた値引きは22,000円までに規制される一方、端末を単体で販売する際の値引き規制がなかったことから1円スマホのような値引きが可能だったのですが、一連の問題を受けてそちらも一律に規制し、大幅値引きをできなくしたのです。
その結果、規制対象の通信事業者は誰に端末を販売しても一律の値引き規制を受けるため、通信契約者と非通信契約者に同じ価格で販売する必要がなくなりました。しかも、改正後の電気通信事業法では、規制対象の通信事業者に端末の単体販売を求めてはいないことから、それを受ける形でソフトバンクは大部分の端末の単体販売を取りやめるに至ったものと考えられます。
そもそも携帯電話会社にとって、スマートフォンの単体販売は“やりたくないもの”でもあります。菅政権下での携帯料金引き下げで携帯大手3社が経営に大きなダメージを受けたように、携帯電話会社の“虎の子”というべき主な収入源は毎月の通信料であり、スマートフォンの販売はその契約につながる副次的なものに過ぎません。
それゆえ携帯各社は、通信サービスの契約数を増やすことに非常に重点を置く一方、スマートフォンの販売がメインのビジネスではないことから、大幅な値引きで安く販売して顧客を獲得し、通信契約を増やすことに重きを置いてきました。それを収入にほぼつながらない非通信契約者に激安で購入されてしまうことは、携帯電話会社にとってデメリット以外の何者でもないのでやりたくない、というのが本音なのです。
しかもここ最近は、度重なる政府のスマートフォン値引き規制で携帯各社からの販売が落ち込んだことを機として、多くのスマートフォンメーカーが「SIMフリー」と呼ばれるオープン市場向けのスマートフォンを積極的に販売するようになりました。値引きの有無はともかく、消費者がスマートフォンを購入できる販路自体は大きく広がっているだけに、携帯各社がスマートフォンを単体で販売する必要性が薄れてきていることも確かでしょう。
それゆえ、ソフトバンクの施策を契機として、携帯各社がスマートフォンの単体販売を取りやめる動きは広がる可能性は高いと考えられます。ただ、この動きはごく最近起きたものでもあるだけに、公正さを強く求める総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」などで一連の動きがどう評価され、行政側が再び端末の単体販売を求めるのかどうかは今後関心を呼ぶことになりそうです。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら
10/02 17:00
マイナビニュース