ショッピングモール、駅地下にもドンキ出現…“驚安の殿堂”が意外な場所に登場し始めた納得の理由
売上高は2兆円を超え、セブン&アイ・ホールディングス、イオン、ファーストリテイリングに続く小売業界4位の座についたパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)。同社が運営するドン・キホーテは35期連続で増収増益を達成し、その勢いが衰える気配はない。2024年8月に著書『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』(日経BP)を出版した日経BPロンドン支局長の酒井大輔氏に、ドンキがアジア・北米で躍進を遂げる要因や、国内事業の動向について聞いた。(前編/全2回)
■【前編】ショッピングモール、駅地下にもドンキ出現…“驚安の殿堂”が意外な場所に登場し始めた納得の理由(今回)
■【後編】即戦力が続々入社、ドンキはなぜ就職人気ランキング圏外でも人材に困らないのか
シンガポールでも支持される「ドンキの世界観」
――ドン・キホーテ(以下、ドンキ)を傘下に持つPPIHは35期連続増収増益を達成し、アジア事業の売上高は1000億円に迫る勢いです(2024年6月期の売上高は851億円)。著書『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』では、シンガポールを中心にアジアで急成長を続ける同社の新業態「DON DON DONKI(ドンドンドンキ)」に触れていますが、何が現地の人々の心を捉えているのでしょうか。
酒井大輔氏(以下敬称略) ドンドンドンキがアジア各国で「唯一無二の店」として認識されたことが躍進の要因だと思います。どのビジネスにも共通していますが、消費者から選ばれるためには、唯一無二の存在であることが大切です。
では何が唯一無二かというと、大きく2つの側面が考えられます。
1つ目は、小売業の要である品ぞろえです。ドンドンドンキは「ジャパンブランド・スペシャリティストア」をコンセプトに掲げ、日本産品の販売に特化しています。特に、メイド・イン・ジャパンの食品が生鮮から総菜まで何でもそろう点は、他店にはない強みです。
商品価格は日本国内に比べると割高であるものの、現地の競合店よりは安価です。本格的な握りずしの飲食店を併設した店舗もあり、「日本に特化したスーパーマーケット」として現地住民に受け入れられています。
2つ目は、独自の空間創造です。日本国内のドンキといえば、商品を高密度に積み上げた「圧縮陳列」、手書きのポップで店内を埋め尽くす「ポップ洪水」、ドンキの魅力を明るいメロディーに込めたテーマソング「ミラクルショッピング」が特徴です。このようなアミューズメント感のある空間づくり、掘り出し物が見つかりそうな楽しいイメージは、アジアのドンドンドンキにも引き継がれています。
酒井 その背景にあるのは「物を売るのではなく、空間を創造せよ」という同社の考え方です。面白い空間さえできれば物が売れる、という考え方が根底にあるからこそ、地域や言語が変わってもドンキの世界観を再現できるのだと思います。この点もアジアで躍進している理由の一つでしょう。
ヒット商品を見つけ出すドンキの「優れた嗅覚」
――著書では、急成長を遂げるアジア事業に対して、北米事業ではM&A戦略を軸としている点にも触れています。米国では「握りずし」に加えて「薄切り肉」がキラーコンテンツになっているそうですが、どのような背景から人気を博しているのでしょうか。
酒井 近年、日本を訪れて「すき焼き」や「しゃぶしゃぶ」のような薄切り肉を使った料理を知る人が増えています。しかし、欧米のスーパーでは薄切り肉があまり売っておらず、入手することが難しいです。
そうした背景があり、塊肉ばかりの米国であえて「肉を薄く切る」というひと手間の付加価値を加えて販売したところ、それが現地住民に受け入れられ、各店舗の売り上げを一気に押し上げたそうです。
――同社の強みは、現地のニーズを見つけ出すマーケティング力にあるのでしょうか。
酒井 ドンキは自社の位置づけを「小売業」ではなく「変化対応業」としています。試行錯誤の中から金脈を見つけ、商品が売れると判断すると一気に横展開するのです。
例えば、北米市場では2024年4月、グアムに「VILLAGE OF DONKI(ヴィレッジオブドンキ)」と呼ばれるショッピングモールを作り、新たなヒット商品を見つけました。それが、ポキ(魚介の刺身をしょうゆなどの調味料に漬け込んだハワイのローカルフード)です。ポキを従来のように冷たい状態で売るのではなく、冷たいポキと温かいライスを分けて提供したところ、売り上げが伸びることを見つけたのです。現在は同メニューをハワイの店舗にも横展開しています。
ドンキは創業者の安田隆夫氏が何もないところからスタートした業態ですから、かなりの試行錯誤を繰り返してきました。「ピカソ」のような小型店から「MEGAドンキ」のような大型店まで、さまざまな業態でテストマーケティングを行い、売り上げが伸びれば拡大する、という方針を徹底しているのです。
駅前一等地に出店した「特化型店舗の狙い」
――日本国内の事業に目を移すと、ここ数年で「一点突破型・特化型」の店舗を急速に増やしています。東京駅の地下街をはじめ、駅前一等地やショッピングモールなどこれまでとは違う場所への出店も目立ちますが、この背景にはどのような狙いがあるのでしょうか。
酒井 ドンキは全国に店舗を展開していますが、郊外のロードサイドに出店しているイメージが強いのではないでしょうか。実際に北から南までの商圏を分析すると、中心部には空白地帯があります。そうしたエリアに出店すれば「従来のロードサイド店舗とは違う発見ができ、広告塔としても機能する」という考えから、都心や駅前一等地に小型店を出しています。
そもそもドンキは膨大な商品数を取り扱っていますから、一つのテーマに特化した小型店を作ることは難しくありません。ギラギラしたイメージの強いドンキの出店を敬遠しがちなショッピングモールでも、Z世代に人気の新業態「キラキラドンキ」は受け入れられています。
新しい業態を開発した結果、都心で新しい客層の心を捉えることができれば、MEGAドンキのような他店舗への導線になるかもしれません。都心や駅前一等地への出店を強化することで、アイコン的な存在として機能させることが同社の狙いです。
――若い世代をターゲットにするだけでなく、商品別にさまざまな切り口で店舗を作り、新しい売れ筋を見つけるテストマーケティングを実践している、と捉えてもよいのでしょうか。
酒井 そうした側面は大きいと思います。特にショッピングモールに出店している特化型店舗は、新規顧客開拓とテストマーケティングを兼ねていることが多いようです。
最近印象的だったのが、旧ダイエー跡地に開業した「MEGAドン・キホーテ成増店」です。自動車で行く「ロードサイド」に対して、MEGAドン・キホーテ成増店は「レールサイド」とうたっています。この店舗は地下鉄の駅からのアクセスも良好ですから、駅前一等地でありながら「居抜き」をすることで広い面積の確保に成功しました。
小型店舗だけでなく、居抜きによる大型店や、ショッピングモールへの特化型店舗の出店など、さまざまな方法で国内中心部にある空白地帯を埋めようとしています。
――同社の国内事業はまだ成長の余地があるのでしょうか。
酒井 国内市場は飽和状態という見方もできますが、小売総販売額の中でドンキのシェアは今のところ1.5%ほどですから、今後も出店を続けていくでしょう。
競合店に負けない品ぞろえや価格で対抗しつつ、空白地には積極的に出店し、採算が取れなければ撤退・リニューアルをしながら試行錯誤を続けています。そうした中から商機を見いだし、儲かる店舗を高速で立ち上げることで、競合店の客を奪うことが狙いです。消耗戦になることは必至ですが、ドンキはまだまだ売り上げを伸ばせると見ているようです。
【後編に続く】即戦力が続々入社、ドンキはなぜ就職人気ランキング圏外でも人材に困らないのか
■【前編】ショッピングモール、駅地下にもドンキ出現…“驚安の殿堂”が意外な場所に登場し始めた納得の理由(今回)
■【後編】即戦力が続々入社、ドンキはなぜ就職人気ランキング圏外でも人材に困らないのか
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11/12 06:00
JBpress