SNS世代が陥りやすいキャリアの「正解探し」の罠、脱却を支援する際のポイントとは?
1990年代半ばから2010年代序盤にかけて生まれた「Z世代」。自己実現やワークライフバランスを重視する「新しい価値観」を持つとされ、唐突に離職する場合もあることから、マネジメントに苦慮する企業は少なくない。こうした現状に対し、有効な対策はあるのか。本連載では、『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』(小栗隆志著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。のべ45万人のデータから定量的に捉えたZ世代の特徴をベースに、「働く人間の心理」に着目したZ世代のマネジメント法を解説する。
第1回は、キャリアの「正解」を探し求める中でZ世代が陥ってしまう「罠」について解説する。
キャリア創りの罠「SNS世代の行動」
「漠然とした願望を持つことが大切である」と伝えたが、その漠然とした願望を描こうとする際に、「何が正しい願望なのか?」と正解を探そうとする人もいる。それを見つけることは難しい。このようなキャリアの正解探しに迷っているZ世代も多いであろう。この場合は「青い鳥症候群」、もしくは「風見鶏症候群」という罠に陥っている可能性がある。
■ 青い鳥症候群
青い鳥症候群とは、自分の中に正解があると思い込む人たちのことを言う。現実の自分や、取り巻く環境などを受け入れられず、自分の中にある理想の正解を追い求め続ける人たちだ。メーテルリンクの童話『青い鳥』で、主人公のチルチルとミチルが幸せの象徴である青い鳥を探しに行くことにちなんで名付けられた。
自分探しの旅に出たまま、帰ってこられなくなってしまった人は、青い鳥症候群の分かりやすい例だと言えるだろう。青い鳥症候群の人たちは常に「もっと」を求めている。そのため、今の会社に満足できず、「自分にはもっと合う会社があるはずだ」と転職を繰り返したり、今の恋人に満足できず、「自分にはもっといい人がいるはずだ」と新しい恋人を求めたりしている。
青い鳥の物語の最後は、昔から飼っていたキジバトが青い鳥に変わったところで終わる。身近なところに実は幸せは存在するという物語だ。漠然とした願望も遠いところに探しに行こうとするよりも、自分自身の現実を直視することで見つけられることもある。
青い鳥症候群の原因としてよく言われるものに、自己肯定感の低さがある。今の自分に満足できないからすぐに青い鳥を探しに行ってしまう。「賞賛よりも『承認』」を求めるZ世代においては、自己肯定感は低くなる傾向にあるのかもしれない。当たり前のようにSNSを使いこなしてはいるが、その中では、「自分より良いキャリアを歩んで、仕事が充実している人」「自分よりスキルが高く、仕事で活躍している人」「自分より成功を収め、華やかな暮らしをしている人」に出会うことも多い(実際に、充実しているか、活躍しているか、成功しているかは分からないが、少なくともSNS上ではそう見える)。
そんな人たちと自分を比較し、劣等感や焦燥感に苛(さいな)まれるZ世代も多いことだろう。Z世代は、SNSにおいて他者と自分を比較する機会が多いため、自己肯定感が下がりやすい。それゆえ、今に満足できず、「もっと」を求めるのだ。
■ 風見鶏症候群
風見鶏症候群は、社会の中に正解があると思い込む人たちのことを言う。自分の軸や考えを持たず、周囲の状況を眺めて絶対解があると思い込み、自分の外にある正解に振り回され続ける人たちだ。
青い鳥症候群の人たちは自分の中に正解があるはずだと自分探しの旅に出るが、こちらは自分の外に正解があるため、社会環境によって影響をすぐに受ける。筆者がつくった造語であるが、風が吹くたびに向きを変える風見鶏の動きに似ていることから、風見鶏症候群と呼ぶことにする。
世の中が「Aが大事」と言えばAの方向に進み、「Bが重要」と言えばBの方向に進む。就活マーケットでは、よく「これから伸びるのは○○業界」「○○業界は衰退の危機」といったフレーズを耳にするが、このようなフレーズにいちいち反応して、動いてしまう人は、風見鶏症候群の分かりやすい例だと言えるだろう。
Z世代は子どもの頃から「口コミ」情報にあふれている。「多くの人たちは何を好んでいるのか?」「どの店に行くことが(外れの少ない)正解なのか?」を見つけることができる。つまり社会の風を感じ取りやすい状況にあると言えるだろう。これが行き過ぎると自分の五感で感じることよりも、社会の風を「正解」と置いたほうが間違いないこととなり、社会の風に振り回されるようになる。結果としてキャリアの正解探しに迷い込むことになる。
変化が激しく、すぐに風向きが変わる時代だからこそ人は不安になる。そして、自分の軸がない人は風見鶏症候群に陥りやすい。
■ 正解は「自分」と「社会」の間にある
自分の中に正解があると思い込む「青い鳥症候群」と、社会の中に正解があると思い込む「風見鶏症候群」。Z世代の部下が「青い鳥症候群」または「風見鶏症候群」に陥っているのであれば、まずは「そこに正解はない」ということを認識させなければいけない。
どちらの症候群も、一度陥るとなかなか抜け出せない。もし、青い鳥症候群や風見鶏症候群に陥っているのであれば、そこからの脱却を支援する必要がある。
青い鳥症候群から脱却するポイントとしては、まずは今の自分で肯定できる部分を見つけてもらうことである。簡単に今の自分を否定するのではなく、これまで培ってきた経験やできるようになってきたことを承認し、そこを軸に自分を取り巻く環境との間でどのような価値が発揮できるのか。そして、その価値の発揮から自分はどのような喜びを得られるのかを考えてもらうことが大切だ。
結果として、現実に立脚した「漠然とした願望」を見つけることもできるであろう。最初は、なかなか自分を認めることができないかもしれない。だからこそマネジャーから、そのメンバーが持っている特性を承認し、活かし方を考えてあげることが大切である。
風見鶏症候群から脱却するポイントとしては、まずは自分自身の五感で感じる世界を肯定することだ。誰がどのように言おうとも、自分にとっての真善美や快不快があるはずである。その自分自身の感覚を軸に、取り巻く環境を切り分ける作業が大切である。仕事をするうえで喜びと感じる部分は何なのか。人と関わるうえでどのようなことができたら自分の喜びと感じることができるのかを考えてもらうことが大切だ。
結果として自分の感性に立脚した「漠然とした願望」を見つけることもできるであろう。マネジャーはメンバーへの問いを通して、気付きを促してあげてもらいたい。
いずれにせよ、「漠然とした願望」の正解というのは、自分の中にも社会の中にもない。正解は、自分と社会の間に存在しているのだ。自分の感情と社会の状況を同時に意識しながら行動していく中で、個人人格を自覚できるようになっていくのである。そして、その「漠然とした願望」を軸に自分なりのキャリアをつくっていくことができる。
<連載ラインアップ>
■第1回 SNS世代が陥りやすいキャリアの「正解探し」の罠、脱却を支援する際のポイントとは?(本稿)
■第2回 「正解探し」から「正解創り」へ、Z世代のキャリアづくりに役立つマインドセットとは?
■第3回 早期離職がもたらす「6つの弊害」と若手社員の退職を防ぐ「We感覚」とは?
■第4回 新入社員の「突然の離職」を防ぐためのマネジメントのポイントとは?
■第5回 アサヒ飲料が導入した「2年目リフレクション研修」、その狙いと内容とは?(12月5日公開)
■第6回 鹿島建設が入社3~5年目に実施した「アイカンパニー研修」とは?(12月12日公開)
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11/07 06:00
JBpress