「正解探し」から「正解創り」へ、Z世代のキャリアづくりに役立つマインドセットとは?
1990年代半ばから2010年代序盤にかけて生まれた「Z世代」。自己実現やワークライフバランスを重視する「新しい価値観」を持つとされ、唐突に離職する場合もあることから、マネジメントに苦慮する企業は少なくない。こうした現状に対し、有効な対策はあるのか。本連載では、『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』(小栗隆志著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。のべ45万人のデータから定量的に捉えたZ世代の特徴をベースに、「働く人間の心理」に着目したZ世代のマネジメント法を解説する。
第2回は、Z世代がキャリアを巡る迷いや未練を断ち切り、前向きに行動していくために必要なマインドセットについて解説する。
■「選択肢が多いこと」は幸せなのか?
日本における、就職の歴史を少し遡(さかのぼ)ってみたい。高度経済成長期は「集団就職」が盛んだった。集団就職は主に、農村部から都市部への大規模な就職運動であり、就職斡旋業者の仲介のもと、中学・高校を卒業した若者は大都市の企業に一斉に就職していた。また、家業を継ぐ若者も多かった。この時代は、キャリアの選択肢が大きく限られていた時代である。
時を経て、バブル期になると、大学のゼミの先輩やサークルの先輩の紹介で就職したり、あるいはリクルーターによるアプローチで就職したりする形が一般的になっていく。この時代も、キャリアの選択肢は限定されていたと言える。
さらに時を経ると、新卒向け就職情報誌が登場する。この時、ようやく複数の選択肢の中から就職先、キャリアを選べるようになったと言える。
そして、インターネットの時代を迎え、選択肢は膨大に増えた。様々な企業にアクセスできるという意味では、前時代に比べ、何千倍というレベルである。「キャリアの選択肢はたくさんあったほうが絶対良いよね」という考えのもと、選択肢を増やす方向に突き進んできて現在に至るわけだが、「果たして、時代とともに働く人は幸せになっているのか?」という疑問がある。逆に、「集団就職の時代の働き手は不幸だったのか?」という疑問もわいてくる。
アイエンガー教授の「ジャムの法則(※)」から考えると、キャリアの選択肢が多い今、働く人は必ずしも幸せではないとも考えられる。逆に、幸福感や満足度は下がっているかもしれない。無限にある選択肢の中から、ベストなキャリアを選ばなければならない状況は、想像しただけでもストレスフルだ。選択した結果に対する満足感より、「C業界を選んだほうがよかったのではないか…」「D社に入っていたら、今頃どうだっただろう…」「自分の選択は失敗だったかもしれない…」というように、後悔の念を抱く人のほうが多いのではないだろうか。悩みは深くなる一方である。
※ 選択肢が多すぎると、人はかえって選択できなくなり、意思決定を先延ばしにしたり、購入を断念したりする可能性が高いという法則。
■ 「選択」と「決断」との違い
選択肢が無限にある時代を生きるZ世代に求めたい考えは、正解は「探す」ものではなく、正解は「創る」ものであるということである。「正解探し」と「正解創り」の違いは、「選択」と「決断」の違いだと言える。
食後のデザートの選択肢として、リンゴ、ミカン、バナナの3つがあるとする(下図)。「選択」とは毎食後にデザートを選べる状況である。「今日はリンゴを食べて、明日はミカンを食べよう」と自分のその時の感情によって選べる状況である。もし「この先一生、3つのうちの1種類しか食べられない」という状況だとしたら、あなたは何を選ぶだろうか? 真剣に悩むことになるであろう。それこそが「決断」なのである。
そして決断には、「弱い決断」と「強い決断」がある。弱い決断とは、他の選択肢が断ち切れずに未練が残っている状態である。弱い決断の場合、時間が経ってくると、「今日もリンゴかぁ。毎日リンゴだと飽きるな…」「なんであの時、リンゴを選んでしまったのだろう…」と、自分の決断を悔やみ、落ち込みながら生きていくことになる。
一方、強い決断とは、他の選択肢を断ち切っている状態である。「今日もリンゴかぁ。毎日リンゴだと飽きるな…」と、ここまでの感情は同じである。違うのは次の考えであり、「それなら、明日は煮てみよう! 明後日はパイにしてみよう!」と考えるのが、強い決断をした人の特徴だ。強い決断をすると、ミカンやバナナはこの世の中に存在しないことが前提だ。そうなると、「いかに飽きずに、毎日リンゴを美味しく食べるのか?」ということにフォーカスできる。だから、アイデアを絞り出したり、新しいことにチャレンジしたりと、プラスの循環が生まれやすい。人は他の選択肢があったという事実を認識することで未練を感じるのだ。
キャリアの話に戻そう。ひと昔前、家業を継ぐという選択肢しかなかった人は、他に選択肢がないのだから、「あの時、ああしたほうがよかったのかな…」などと未練を残すこともない。ある意味で、腹をくくっているため、「この家業で自分は何ができるだろうか?」「自分はこういうやり方で家業を発展させるぞ!」と考えた人も多かったのではないだろうか。
一方で今は、選択肢が無限にある。だからこそ、自ら「強い決断」を下せるかどうかが重要になってくる。「決断」とは、文字どおり「決めて」「断つ」ことだ。決断には勇気が必要だが、断ち切って未来を見なければいけない。無限にある選択肢を前に「決断」することで、力強く、前向きに行動できるようになるはずだ。
■ 「正解探し」ではなく「正解創り」をするために
繰り返しになるが、選択肢が無限にある時代だからこそ、正解探しよりも、正解創りをする力が求められる。
正解探しをしている人は、より多くの選択肢と選択基準を並べて選ぶことが、幸せにつながると考えている。しかし、それは簡単ではない。自分に最適な会社を選ぶことなら、限定された選択肢しかなかった時代の方がむしろできたかもしれない。これだけ選択肢が増えた今、正解と言えるようなキャリアや会社を選ぶのは不可能である。正解探しをしていたら、ストレスを抱え、すり減って、不幸になるだけである。
一方、正解創りをしている人は、選択の過程より自分の選択に覚悟を持ち決断することが、幸せにつながると考えている。20社並べてみても、30社並べてみても、どこに入るのが正解なのか現時点では分からない。そのため、決めて選んだ道を正解にしていこうという考え方だ。
正解探しは「どこに答えがあるんだろう?」と、どんどん選択肢を広げていく。それゆえ、もっと良い選択肢がある(あったはず)という思いが迷いを生み、行動するエネルギーが阻害されてしまう。これに対し、正解創りは自分の判断軸で、思い切って選択肢を絞っていく。他の選択肢を断ち切っていく。それゆえ迷いが消え去り、行動するエネルギーが湧いてくる。他の迷いを断ち切り何かに集中して取り組むことで成果が上がり、結果として自分のスキルも高まり、もっと良い選択肢が増えていく。
一生とは言わないが、人生の一定期間において、目の前の役割を受け入れて「決断することで、自分の選んだ道を正解に近づけていく」という経験も必要であろう。これが、選択肢の多いZ世代に求められるマインドセットの1つである。これからZ世代を受け入れるリーダー、マネジャーは、ぜひこのマインドセットを持たせることを意識してほしい。
<連載ラインアップ>
■第1回 SNS世代が陥りやすいキャリアの「正解探し」の罠、脱却を支援する際のポイントとは?
■第2回 「正解探し」から「正解創り」へ、Z世代のキャリアづくりに役立つマインドセットとは?(本稿)
■第3回 早期離職がもたらす「6つの弊害」と若手社員の退職を防ぐ「We感覚」とは?
■第4回 新入社員の「突然の離職」を防ぐためのマネジメントのポイントとは?
■第5回 アサヒ飲料が導入した「2年目リフレクション研修」、その狙いと内容とは?(12月5日公開)
■第6回 鹿島建設が入社3~5年目に実施した「アイカンパニー研修」とは?(12月12日公開)
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11/14 06:00
JBpress