セブン-イレブンの店舗では、なぜ必要なタイミングで必要な量の商品が適切に並ぶのか?

写真提供:共同通信社

 今やわれわれの生活に欠かせない存在と言える「コンビニ」。欧米の小売業界とは異なり、ライフスタイルや社会構造の変化を背景に急成長を遂げてきた日本のコンビニ業界は、他国に類を見ない特徴的なイノベーターと言っても過言ではない。本連載では『コンビニがわかれば現代社会のビジネスが見えてくる―日本的小売業のイノベーター』(塩見英治著/創成社新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。業界特有の経営戦略をはじめ、近年進む食品ロス対策の取り組みなど、コンビニ市場を取り巻く最新動向を探る。

 第3回は、コンビニが小売業に革新をもたらした最たる領域と言える「情報」と「ロジスティクス」に着目。セブン-イレブンの事例を基に、店舗空間を効率的に運用するための情報システムや物流体制の特徴を見ていく。

<連載ラインアップ>
第1回 人口減少、経済停滞が続く日本で、なぜコンビニ業界は健闘し続けられるのか
第2回 セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート…各社の戦略に見る特徴と課題とは?
■第3回 セブン-イレブンの店舗では、なぜ必要なタイミングで必要な量の商品が適切に並ぶのか?(本稿)
■第4回 コスト削減・低価格が目的ではない、セブン-イレブンが掲げる独自のPB戦略とは?(11月12日公開)
■第5回 ローソン、ファミリーマートがセブン-イレブンを追撃、大手3強時代はいかにして訪れたか?(11月19日公開)
■第6回 大手コンビニもかなわない、北海道で絶大な支持を誇る「セイコーマート」の人気の秘密とは?(11月26日公開)

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情報システムとロジスティクスシステムの重要性

 コンビニの小売業としての革新は、コンビニの組織、立地戦略、商品管理、情報とロジスティクスの変革に負うところが多いが、最も影響を与えているのが、情報とロジスティクスである。

 これらの先導はセブン・イレブンで、1980年以降の取り組みで、2000年以降は一般化している。代表的なものは、物流基盤と情報ネットワークの整備である。とくに、物流拠点の整備と配送の効率化、POSシステムと温度別管理、共同配送は、大きな影響を与えた。最近は、デジタルの進展につれ、電子商取引やDXへの取り組みが大きな影響を与えている。これらの動向と課題について、考察してみよう。

 販売時点の即時情報を最も先進的に取り入れているのが、コンビニである。コンビニは、他の小売業態に比べて、店舗ネットワークをいかすため、最先端のロジスティクス・システム、情報システムの基盤を常に整備してきた。最先端の情報システムとロジスティクス・システムの導入が店舗ネットワークの急拡大を可能にしたといえる。

 POSシステムによる単品管理をいち早く導入し、極力少ない在庫で、在庫切れによる販売機会を逃さない。店頭での販売時点での管理を徹底的に行い、売れ筋商品を前提に確実に品揃えする商品管理を徹底させ、商品群の特性に応じて多頻度、少頻度を組み合わせた計画配送などを実現している。各店舗が発注した情報は、本部のホストコンピュータを通じて、供給業者に伝達される。

 この販売と在庫情報をもとに、商品は供給業者から共同配送センターを経由して、各店舗に納品されることとなる。この一連の動きが機能することによって、コンビニのロジスティクスの効率化が成立している。顧客の買い物行動をとらえる情報による即応性ニーズと実需の把握が肝要である。

 コンビニは、限られた店舗空間の中で基本的に過剰在庫を抱えず、在庫のバックヤードもない。商品の種類は約3000弱と他の業態に比べると少ないものの、食料品、日用雑貨、惣菜・弁当等と多品種にわたっている。そのため、取引を集約し、取引コストを削減することが進められた。

 取引供給業者がばらばらに納入した場合、車両数は膨大になる。供給業者数が集約化され、配送は専用の共同配送センターを設置のうえ、温度別管理で効率的に行われる。共同輸送の延長上に、温度別管理がある。

 常温、5℃のチルド、20℃の米飯、マイナス20℃のフローズンの各温度帯別の品目の枠を超えた共同配送に取り組んできた。さらに5℃のチルド、20℃の米飯という違う温度帯の商品を1台で運んでいる。例えばセブン・イレブンの1日1店舗当たり配送車両数は、創業当時は100台近くあったが、2010年には10台弱で済んでいる。これは、環境負荷の軽減につながっている。こうしたロジスティクスの効率化が、現在普及している。

 配送の効率化は、店舗間の商圏を隣接するように集中出店させるドミナント(高密度多店舗出店)方式にも結び付いている。これは、加盟店の相互の売り上げに響き、しばしば独占禁止法との関係で問題にされるが、契約にもあるように、知名度の向上、管理効率の向上、広告効率の向上のみならず、物流効率に貢献している。同じ品質で米飯を提供するため、専用工場から店舗までの距離を考慮するほか、ほかの商品でも配送効率を良くしている。

コンビニの物流特性

 コンビニは売れ筋の品を揃えている。セブン・イレブンの場合、仕入れは基本的に、本部の推奨商品から選んで購入する。本部集中仕入れ方式は、独占禁止法の視点から、一部問題にされるが、スケールメリットを追求できるとともに、サプライヤーとのコミュニケーションが改善され、商品の売れ行きに関する情報を新商品開発に活用できるメリットもある。

 一般に、加工食品、日配品、飲料、お菓子、日用品などの新商品が多く、毎週100品目が新たに加わるが、このことは毎週100品目消えていくということにもなる。そのため、年間でみた場合の入れ替え率は70%、すなわち去年と比べた場合、去年と同じ商品は30%しかなく、あとは全部入れ替わっているということになる。顧客の販売行動に沿って、市場環境に応じて、柔軟に対応している。

 すなわち、定番商品というのは少なく、斬新さを提供している点が特徴的である。このように新商品を多く導入し、かつその大半が入れ替わっていくという売り方は、メーカーの在庫戦略を非常に難しくしている。新商品を売る場合、メーカーは欠品が許されない。売れ行きが良く、大量に注文が来た時に、欠品をしないことを強く要請される。

 しかしながら、実態として、ほとんどの新商品は、2、3週間で棚から消えていく。セブン・イレブンの各店舗で、販売打ち切りになったとたんに、多くの商品が返品されることから、コンビニは、大量に新商品を導入し、大量に返品を繰り返しているといえる。

セブン・イレブンの物流体制

 セブン・イレブンの物流体制の特徴として、大きく2点ある。1点目は、必要な商品を、必要な量、必要な時に、良い状態で納品することである。コンビニは24時間営業であり、かつ店舗スぺースの関係から在庫をほとんど持てない。これを支えるのが、適切で効率的な物流と情報システムである。

 消費者の需要に迅速に対応し、店舗が必要とするタイミングで商品供給がなされることが重要となる。そのためには物流体制を支える情報システムも重要となる。セブン・イレブンでは、物流体制の構築とともに、情報システムのインフラ整備を先進的に実施してきた。効率の達成は、物流と情報の改善の融合の結果といえる。

 生産と在庫投資の意思決定に関する延期―投機の説明は、矢作氏の事例と理論的説明が明快である。延期は、ある商品の形態決定と在庫投資が引き延ばされ、購買需要の発生する直前や、購買需要が実際に発生した時点で行われる。これに対して投機は、それらの決定が事前に行われる。このため、延期化でできるだけ不確実を減らすのである。これには、直前の顧客情報の把握が役に立つ。

 セブン・イレブンでは、できるだけ実需に併せて対応する。この戦略は、投機の延期化の考え方に沿う。膨大なデータ処理で直前や過去の購買行動について整理して、それぞれ必要なデータがメーカー、配送センターに速やかに配信され注文される。「店舗が必要なときに納品する」というのが原則である。

 1日に数回配送している、米飯関連、チルド関連の商品の納品形態については、それぞれ「最もニーズの高い時間帯」に合わせて納品を実施している。このように注文時刻に合わせて製造も行っており、製造タイムスケジュールが定められている。

 店舗で購入するお客さんの時間帯に商品を提供するため、川下から川上に向かって、すべてのスケジューリングがなされ、理論的には、投機の原理にもとづいている。発注精度を上げ、配送の効率を上げるために、「仮説」を立て、リアルデータで検証、実行することが行われている。

 また、製造数を決定する店舗による発注は、発注から納品のリードタイムが最も短くなるよう、納品便ごとの発注締切り時刻が決められている。規模の経済の発揮も、これによって実現している。昼食用の納品時刻は、8時~11時なのに対して、納品便の発注締切り時刻は、最終的には前日の18時である。

 前日の営業中、日中の商品動向を確認し、17時に気象庁などから発表される翌日の天気予報の最新版をチェック、さらに、近隣で開催される催し物などの情報も確認し、最終的に18時を翌日昼便の納品数量最終発注締切り時刻としており、機会ロス、廃棄ロスを削減している。このように店舗の営業状況と発注、メーカーの製造と物流が一体となって、店舗への納品がされている。消費者ニーズ起点のロジスティクスを最も先進的に取り入れているといえる。

 セブン・イレブンの2番目の特徴は、店舗での受け入れや、納品に関する作業を効率化することである。24時間の営業中に、配送センターからの納品作業が行われると、納品作業とレジ接客が同時に発生する。さらに、商品は、商品管理温度や販売期限時刻が厳格に定められている。

 前工程の物流段階で、後工程の納品作業がしやすいようにしており、それぞれの商品によって専用の通い箱に仕分けて、商品配送を行っている。通い箱による納品により、商品の検品や陳列棚、オープンケースへの陳列作業が効率化されている。配送センター自体も、最近ではデジタル・ピッキング、電子化した受注伝票で効率を上げている。

<連載ラインアップ>
第1回 人口減少、経済停滞が続く日本で、なぜコンビニ業界は健闘し続けられるのか
第2回 セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート…各社の戦略に見る特徴と課題とは?
■第3回 セブン-イレブンの店舗では、なぜ必要なタイミングで必要な量の商品が適切に並ぶのか?(本稿)
■第4回 コスト削減・低価格が目的ではない、セブン-イレブンが掲げる独自のPB戦略とは?(11月12日公開)
■第5回 ローソン、ファミリーマートがセブン-イレブンを追撃、大手3強時代はいかにして訪れたか?(11月19日公開)
■第6回 大手コンビニもかなわない、北海道で絶大な支持を誇る「セイコーマート」の人気の秘密とは?(11月26日公開)

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