コスト削減・低価格が目的ではない、セブン-イレブンが掲げる独自のPB戦略とは?

写真提供:共同通信社

 今やわれわれの生活に欠かせない存在と言える「コンビニ」。欧米の小売業界とは異なり、ライフスタイルや社会構造の変化を背景に急成長を遂げてきた日本のコンビニ業界は、他国に類を見ない特徴的なイノベーターと言っても過言ではない。

 本連載では『コンビニがわかれば現代社会のビジネスが見えてくる―日本的小売業のイノベーター』(塩見英治著/創成社新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。業界特有の経営戦略をはじめ、近年進む食品ロス対策の取り組みなど、コンビニ市場を取り巻く最新動向を探る。

 第4回は、セブン-イレブンのPB(プライベートブランド)シリーズ「セブンプレミアム」の戦略に注目。従来PBのライバルであったNB(ナショナルブランド)メーカーとタッグを組んだ狙いやマーケットでの成果について見ていく。

<連載ラインアップ>
第1回 人口減少、経済停滞が続く日本で、なぜコンビニ業界は健闘し続けられるのか
第2回 セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート…各社の戦略に見る特徴と課題とは?
第3回 セブン-イレブンの店舗では、なぜ必要なタイミングで必要な量の商品が適切に並ぶのか?
■第4回 コスト削減・低価格が目的ではない、セブン-イレブンが掲げる独自のPB戦略とは?(本稿)
第5回 ローソン、ファミリーマートがセブン-イレブンを追撃、大手3強時代はいかにして訪れたか?
■第6回 大手コンビニもかなわない、北海道で絶大な支持を誇る「セイコーマート」の人気の秘密とは?(11月26日公開)
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セブンプレミアムの商品開発体制とPB

 以下、商品開発に関する同社のレポートを参照する。セブン・イレブンは、1980年代から、おでん、おにぎりなどの販売を開始したが、ベンダーと一緒になった取り組みをしていた。

図4-1 セブン・イレブンのPBの構成と推移
出所:セブン&アイホールディングス,経営レポート(統合報告書)2022年1月12日版,42ページ。
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 さらに、弁当、各地域の特性を生かした地域対応商品についても、協力ベンダーと共同開発した商品を販売していた。ただし、当初のオリジナル商品の開発については、弁当やおにぎりなどが中心であり、中小総菜ベンダーと商品開発を行っていたとされる。

 その後、店舗数も増え、多頻度小口配送を展開していく中で、従来の惣菜ベンダーだけでは配送面の対応、商品開発力対応ができなくなる。1979年に、商品の品質管理を目的として、大手の米飯ベンダーを中心とした日本デリカフーズ組合を発足させる。生産体制、品質管理のチェックという目的から始めたが、その後チームマーチャンダイジングを支える組織として展開していくこととなる。

 またセブン・イレブンは、大手の有力メーカーとチームとして商品開発をし、商品供給体制を構築するようになる。その際、メーカーのブランドを付けながら、セブン・イレブン向けの商品を販売するといったことも展開していく。共同開発においては、セブン・イレブンは大手メーカーにも専用工場体制構築を要請し、1984年にキユーピーが始めたのをきっかけに、ハウス食品、プリマハム、味の素等が、セブン・イレブン専用工場を整備していくこととなる。

図4-2 MDの結びつき
出所:セブンイレブン「セブンイレブンの横顔 2022-2023」,22 ページ。
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 それまでの商品開発は、特定のベンダーやメーカーとの共同開発であったが、1990年代後半から複数のベンダー、メーカーがチームを組んで商品開発を始める。これら1990年代後半から始まった、セブン・イレブン独自商品開発(チームMD)の仕組みをべースとし、「セブンプレミアム」の販売を開始する。

「セブンプレミアム」における商品開発では、トップメーカーとの共同開発によりオリジナル商品の導入を積極的に行っている。チームMDでは、理想となる商品を開発するために、メーカーの持つ技術力とセブン・イレブンのマーケティング力がフルに活用されていると言われている。

 商品開発におけるPOSデータの役割も重要である。チームMDにおいては、POSデータをはじめとするセブン・イレブンの店頭情報や市場動向から仮説を立て、国内外のメーカー・取引先、物流企業の専門的な情報やノウハウをかけあわせて、フィードバックをくり返しながら新商品を開発している。

 素材の選出から供給ルート、生産ラインの計画・確保まで、それぞれが強みを発揮することで魅力的な商品が生まれる。1商品当たりの売り上げ規模の大きさだけでなく、開発前の検討段階、テストマーケティングにおける検証段階で、国内で最大規模となるPOSデータを利用できることから、メーカーにとっても販売チャネルとして大きな魅力となっている。

 従来のPB商品の場合、大手NBメーカーに対抗する場合が多かったが、コンビニエンスストアとNBメーカーが、共同で開発することとなる。商品開発、生産技術力を持つメーカーと、顧客情報、販売情報を持ち、顧客の細かいニーズを把握している小売業が手を組むことで、より付加価値が高い商品を提供することが可能となる。

「セブンプレミアム」は、CVS・GMS・SM・百貨店・外食・専門店など、それぞれの商品知識や調達力を結集し、多様な業態を持つセブン&アイグループの経営資源の強みを活かした商品開発を行っている。同時に、各商品分野で技術力のある有力NBメーカーとの共同開発、最適な生産能力を持つ工場での製造など、グループがそれまで培ってきたチームMDの手法を結集した点が特徴となっている。

 各社が連携することで、開発、原料調達、生産のサプライチェーン全体での取り組みとして、質向上をめざしている。このような開発は、コスト削減=低価格を最優先項目としてPB生産専門メーカーなどに委託して商品づくりを行ってきた従来のPBとはまったく違ったものとなっている。セブン&アイグループMD部会は、現在、26部会、約300名の開発体制となっている(2022年3月末時点)。

 また、従来のPB商品は販売者名だけを表示していたが、「セブンプレミアム」は、生産者(製造元)のメーカー名を商品に明記している。小売業者の信頼と同時に、メーカーの信頼を得ることとなり、「わかりやすい」「安心して買える」というかたちで支持されたとしている。

「セブンプレミアム」の質向上に向けての取り組みにあたって、次のような体制を敷いている。

 第一に、商品開発にあたって、「ベンチマーク(目標/指標)」の考え方を取り入れ、客観的な商品分析に基づいて、新商品のクオリティをつくり上げている点。

 第二に、商品開発はグループ各社の開発担当者であるマーチャンダイザーを結集したプロジェクト体制で進めている点。それぞれの業態や売場からの情報や商品トレンドなどの情報を共有しながら開発を進めることで、開発現場と販売現場の距離を縮めている点。

 第三に、セブン・イレブンが自主商品の開発にあたって培ってきた「見える化」の手法を取り入れることで、全員が同じ視点で開発過程を共有できるようにしている点。主観に左右されやすい味においても、ベンチマークを用いた商品分析と標準化された商品開発プロセスによって、科学的に検討し、客観的に評価できる体制を作っている。

 ニーズ変化への積極的な対応と市場創造にも特徴がみられる。新規商品の開発と並行して、「セブンプレミアム」は既存商品のリニューアルも積極的に行っている。少子高齢化の進展と、単身世帯の増加、女性の社会進出に伴う共働き世帯の増加など、購買行動の変化に対応するため、つねに品揃えとクオリティの見直しを続けている。また、人気商品においても、飽きられないように商品を見直している。

 2010年には、ワンランク上のクオリティを目指した「セブンゴールド」ブランドをつくった。味や品質の目標水準を、「人気専門店の味」に設定し、こだわりのある上質な味わいを、手軽に家庭で再現できる商品づくりに取り組んだ。その中から生まれた人気商品が「金のハンバーグ」や「金の食パン」などである。

 NB商品を上回る品質と価格帯も高い設定の商品であったが、人気商品となり、新たなマーケットを生み出すこととなった。「セブンカフェ」もコンビニコーヒーという新しい市場を開拓した。「セブンプレミアム」のクオリティ戦略は、少子高齢化社会=マーケットシュリンクという「常識」を打ち破ろうとした点で大きな変革をもたらしたといえる。

「セブンプレミアム」は、売場変革、そして新規客層の獲得にも成果を上げている。2008年に始まった小容量の冷凍食品は、セブン・イレブンに女性客層の拡大をもたらし、従来、すぐ食べられる弁当や調理パンなどを主軸としていたセブン・イレブンの売場の中で、調味料、冷凍食品などの販売機会の拡大をもたらした。「セブンプレミアム」は、売場革新もリードしてきたといえる。

<連載ラインアップ>
第1回 人口減少、経済停滞が続く日本で、なぜコンビニ業界は健闘し続けられるのか
第2回 セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート…各社の戦略に見る特徴と課題とは?
第3回 セブン-イレブンの店舗では、なぜ必要なタイミングで必要な量の商品が適切に並ぶのか?
■第4回 コスト削減・低価格が目的ではない、セブン-イレブンが掲げる独自のPB戦略とは?(本稿)
第5回 ローソン、ファミリーマートがセブン-イレブンを追撃、大手3強時代はいかにして訪れたか?
■第6回 大手コンビニもかなわない、北海道で絶大な支持を誇る「セイコーマート」の人気の秘密とは?(11月26日公開)
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