ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?

写真:Japan Innovation Review編集部

グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)

 2021年に飲食料品業界を驚かせた、グミ市場とガム市場の大逆転劇。人口減少が深刻化する国内情勢にもかかわらず、新商品が次々と生まれ、コンビニでの売り場面積を拡大し続ける「グミ」は、なぜこれほどのヒット商品となったのか?

 本連載では『グミがわかればヒットの法則がわかる』(白鳥和生著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。マーケティングの観点から、「奇跡の大ブレイク商品」グミの謎をひもといていく。

 第5回は、国内におけるグミ市場のパイオニア・明治のマーケティング戦略を分析。独自の「かみごたえチャート」をはじめ、ターゲット層に合わせてさまざまな付加価値を持たせた商品群を見ていく。

<連載ラインアップ>
第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?
第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?(本稿)
第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」

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明治

 明治は、かむことを科学的に分析してグミの新しい価値を提案する。かみごたえを6段階に分けた「かみごたえチャート」を全パッケージに記載。独自開発した実験装置「ORAL-MAPS/オーラルマップス®」と名付けた装置を使い、咀嚼に要する力のレベル分けを見える化している。

■「かみごたえ」を見える化

 明治は、2021年8月からグミの硬さを6段階の「かみごたえチャート」で表示し始めた。人気シリーズの「果汁グミ」は2、かみごたえのある「コーラアップ」には5といった数値を包装袋の表面に記載している。数字が大きいほどかみごたえが強く、最もかみごたえが強い「5+(プラス)」は、「2」に位置づける同社の定番「果汁グミ」の倍以上のかみごたえがある。

 さらに、「5+」の商品のキャッチコピーは「イライラした時などに」。かみごたえの強いグミは、現代人のストレスを受け止める役割も担っている。コーラアップシリーズから始め、2022年3月にすべてのグミ商品にかみごたえチャートを表示した。

「食感というと、のど越しや舌触りなど色々なものが含まれる。2022年の春から、かみごたえに特化した形でチャートを載せた。グミは面白い、楽しいが最優先になるが、それだけで終わってしまってはもったいない」(吉川尚吾さん=明治)と考えたのがきっかけ。「かみごたえが事前にわかるようにすることで、消費者の商品選択をサポートする役割を果たし、コロナ禍でいったん縮小した市場の再浮上に少しは役立てたかもしれない」(同)と見る。

■日本人が「心地よい」と感じる食感にこだわる

「果汁グミ」は発売以来、日本人が心地よいと感じる食感にこだわってきた。本場ドイツの主流製法である「スターチモールド製法」を取り入れつつ、弾力があるのに歯切れがいい絶妙なかみごたえを実現。2022年秋には、人気ナンバーワンの「ぶどう」で、3つのかみごたえをラインアップした。

 ソフト食感の「やさしい小粒」は、かみごたえチャート「1」で、子どもやシニア層にも食べやすい小粒サイズ(※現在は終売)。ハード食感の「弾力プラス」はかみごたえチャート「4」で、大粒でしっかりとしたかみごたえ。かみごたえチャート「2」の既存の「果汁グミ」と併せて、自分に合ったかみごたえが楽しめる。

■ 季節限定フレーバーが好評な「果汁グミ」

 果汁グミは既存品のほか、季節限定フレーバーも好評だ。2023年は夏に向けて「すいか」を発売するなど、グミ売場に季節感を出し、話題化を図っていく戦略だ。また、アレンジレシピを提案し、SNSやテレビで取り上げられることも増えている。

 ヨーグルトやアイスクリームへのトッピング、「果汁グミ」を挟んだフレンチトーストのほか、ヨーグルトに一晩漬けてやわらかくしたり、ジュレソースにアレンジしたり、いちご飴をつくったりと、果汁グミだからこそできるレシピを紹介している。

 また、子育て世代からの人気が高い果汁グミ。2024年3月には小分け・大容量タイプの新商品を発売した。家庭内でのおやつにグミが選ばれるシーンが広がっていることに加え、外出機会も増え、小分けの配り菓子としての需要も広がっていることから、子育て世代を取り込む形態の商品を展開していく。

 ここ数年、伸長が続いているハードグミでは、「コーラアップ」や「ラムネアップ」も好調だ。

 さわやかな味わいとハードな食感が男性ユーザーを取り込んでいる。また、エナジードリンクの市場を取り込もうと、2023年春には「ブーストバイツ」を発売した。

 集中したいときにエナジードリンクを活用する人が増えている反面、エナジードリンクは「体に悪そう」などの不満や、持ち運びに不便などの課題が存在する。そこで、グミの独自価値によりそれらを解消する新商品を開発した。覚醒・集中をサポートする成分として、カフェイン、ローヤルゼリー、ビタミンB1、B6 、B12を配合し、スカッとしたエナジードリンク味に仕上げた。

■ ハード系の「キシリッシュグミ」を投入

 明治は2023年春にハードグミを強化。さらに「キシリッシュ」ブランドを活用して、ハード系ミントグミの「キシリッシュグミ」も発売した。ガム市場は縮小しているが、ガムが持つ「かむこととミント」によるリフレッシュを求める層がいる。かみ終わった後に口から出さなければいけないなど、ガムが持つネガティブ要素を解消することで、ガムからグミへのスイッチを加速させる。

 キシリッシュグミは、ガムユーザーにもなじみがあり、かみ心地のよい糖衣ガムに近い形状で、クリスタルミント風味となっている。

■ 「健康価値」を重視する

 一方で、健康志向グミのラインアップも広げている。40代以上の女性をターゲットにした「お口のミカタグミ」は、咀嚼により唾液の分泌を促し、お口のうるおいをサポートする。

 同社の吉川尚吾さんは、「グミを通じて様々な健康価値の向上に貢献していきたい。オーラルフレイルが社会問題になり、かむということの健康価値が非常に重要だと考えている。グミの特性をベースに、日々の生活の中のどれだけ多くのシーンでグミが役に立てるか。テクノロジーの進歩も捉えながら、より生活の近くにある存在になりたい」と話す。

 それに、「これまでの小腹満たしですとか、お子さんのおやつといったイメージから、機能価値を持つ咀嚼剤形など、より健康になるためにグミを食べるというようなパラダイムシフトを実現させたい」と付け加える。

<連載ラインアップ>
第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?
第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?(本稿)
第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」

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