明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?

写真:Japan Innovation Review編集部

 2021年に飲食料品業界を驚かせた、グミ市場とガム市場の大逆転劇。人口減少が深刻化する国内情勢にもかかわらず、新商品が次々と生まれ、コンビニでの売り場面積を拡大し続ける「グミ」は、なぜこれほどのヒット商品となったのか? 本連載では『グミがわかればヒットの法則がわかる』(白鳥和生著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。マーケティングの観点から、「奇跡の大ブレイク商品」グミの謎をひもといていく。

 明治「果汁グミ」「コーラアップ」など、グミにはなぜロングセラー商品が多く存在するのか。第2回は、少子高齢化が進む日本において、グミ市場が成長を続けているメカニズムを探る。

<連載ラインアップ>
第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?
■第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?(本稿)
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?(9月26日公開)
■第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」(10月3日公開)

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人口が減少するニッポンで、なぜグミは成長しているのか

グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)

 日本は少子高齢化が進む。総務省が住民基本台帳に基づいて公表する人口動態調査によると、2009年をピークに人口減少社会に入った。人口減少ということは「胃袋」の数が減るということを意味する。

 2023年1月1日時点の人口(外国人除く)は前年比80万523人減の1億2242万3038人(総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」による)。減少幅は1968年の調査開始以来最大となった。ピークの2009年の1億2707万6183人から465万33145人減った。14年間で静岡県の人口を上回る胃袋が減った計算だ。住民票を持つ外国人は全国で299万3839人と増加傾向にあるが、日本人の減少を補う規模ではない。

■ 堅調さを保つ菓子業界

「縮むニッポン」で、食品産業も影響を免れない。前述の胃袋の減少だ。2022年の食料の家計消費支出(家計調査=2人以上の世帯)は実質で前年比1.3%減となっている。エネルギーコストの上昇や値上げが続く一方で、実質賃金が伸び悩んだことで、生活者の節約志向が強まった結果でもある。

 ただ、菓子は実質前年比2.5%増と堅調だった。菓子業界はスイーツブームが続いており、年間の消費支出は10年前の7万7779円から2022年は9万4373円と大きく伸びている。全日本菓子協会によると、2022年の菓子の生産数量は195万8887トン。この20年ほどは190万トン台で横ばい。消費額の増加は、菓子業界による高付加価値化の努力もうかがえる。

■ 人口減少の影響は免れない

 とはいえ、国立社会保障・人口問題研究所は、2056年に人口が1億人を下回り、2059年には日本人の出生数が50万人を割るとの予測を2023年4月に公表している。急速な少子高齢化に伴う人口減少の影響から、菓子業界も免れないのは確かだ。

 またまたガムの話で恐縮だが、ガム市場の縮小は人口動態の影響も大きい。「(過去にガムをよくかんでいた)団塊の世代が大量退職して人と会う機会が少なくなり、口臭対策への利用が減ったことも大きい」と、ある菓子メーカーのマーケティング担当者は分析する。

 団塊の世代とは1947年から1949年にかけて生まれた戦後のベビーブーマーだ。2022年の年間出生数は80万人を割り込んだが、この3年間は毎年260万人を超えた。この世代は消費ブームをけん引し、新しい食べ物にも積極的にチャレンジしてきた。しかし、2024年には全員が75歳以上、つまり後期高齢者となる。72〜75歳前後と言われる健康寿命を過ぎ、ほとんどの人が労働市場から「引退」している。さらに、彼ら・彼女らが、かつてに比べ食が細くなっていくのは確かだ。

 ガムは、戦後、欧米から新しい文化として入ってきて、団塊の世代とともに成長してきたとも言える。機能性の強化など、需要開拓に取り組んできたものの、主な愛好者たちのライフサイクルと軌を一にした感は否めない。

■ ベネフィットが世代間で受け継がれるグミ

 一方のグミはどうか。団塊の世代の子どもたち「団塊ジュニア」の幼少期の1980年代に登場し、団塊の世代には及ばないものの人口が分厚い層を取り込んだ。明治の「果汁グミ」の登場で市場が確立され、様々なメーカーが様々な新商品を投入。ジュニア達にとって思春期の「思い出の味」となっていった。ここまではガムの流れと同じだが、グミは親から子どもへと「おいしさ」などのベネフィット(商品から得られる価値、便益)がうまく伝わった点で、ガムと明暗を分けたのではないだろうか。

 それを説明する材料としては、前述の各種消費者調査のデータが象徴的だ。つまり、グミを食べているのは「年代では20~30代、ライフステージでは子育て中といった若い層で多い」というデータだ。親の世代が食べたグミを、子どもに買い与えたり、食べさせたりしている実態が浮かび上がる。 

 実際、あるグミメーカーの担当者は「『果汁グミ』が強いのは、子どもが生まれて最初に食べるグミが『果汁グミ』というところ。調査でも、お母さんが最初に買い与えるグミが『果汁グミ』だというのが非常に多い。その子どもが大人になっても、そのまま『果汁グミ』を食べ続ける。つまりロイヤルユーザーになっていく流れがある」と話す。だから、『コーラアップ』や『果汁グミ』、『ピュレグミ』など、グミにはロングセラーが多いのもうなずける。

 もちろん、子どもたちもグミが大好きだ。小学館が発行する小学校低学年女児向け情報誌『ぷっちぐみ』と、少女まんが誌『ちゃお』が実施した「遠足・校外学習」に関するアンケート調査(2022年7月)によると、遠足に持って行きたいお菓子は『ぷっちぐみ』『ちゃお』読者ともに1位は「グミ」(50%、42%)だった。「ラムネ」や「じゃがりこ」「ハイチュウ」などを抑えた。

■ 世代間の垣根がなくなる「消齢化」

 グミは幅広い層に支持されている。それに関連して興味深い視点がある。それは「消齢化」というキーワードだ。これは博報堂生活総合研究所が30年にわたるデータを基に打ち出したものだ。例えば、「ハンバーグが好き」「超能力を信じる」「夫婦はどんなことがあっても離婚しない方がよい」「木の床(フローリング)が好き」といった問いへの肯定否定の回答は、30年間で大幅に世代間の違いが縮小しているという。

 理由はいくつかある。①生活インフラの充実により生活者の「できる」が増えた、②社会から「すべき」が減り、皆がそれにとらわれずに暮らすようになった、③嗜好や関心の面で「年相応」から離れ出した生活者の「したい」が重なった――などが指摘される。

 甘いお菓子は、子どもや若い女性が食べるものといった「偏見」にも似たイメージは、完全に消え去っていることをグミ人気は証明している。

 また、コロナ禍では「家族の絆」が注目された。家族がそろって食卓を囲むことが増え、共通の話題を探した。Z世代は親世代とも仲が良く、例えば映画『シン・ウルトラマン』や『トップガン マーヴェリック』は親子で観に行くケースも多かった。親世代がノスタルジーを感じ、Z世代は新しさを感じるコンテンツは効率がよい。バラエティーに富むグミも、世代を超えた家族の話題づくりやコミュニケーションのきっかけに打ってつけの材料だった。

■より広い世代を取り込むマーケティング

 マーケティングの世界では、ターゲットを絞り込むことが重要とされてきた。「誰に売るのか」が決まらなければ、商品の仕様や価格、流通戦略も決められない。しかし、人口減少社会の中で、特定の世代をターゲットにするだけでは、マスのヒットが生まれないというジレンマもある。だから、より広い層に受け入れられるような仕掛けで、一定のパイを確保することが、食品などの消費財のマーケティングで必要になっている。

<連載ラインアップ>
第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?
■第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?(本稿)
第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?(9月26日公開)
■第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」(10月3日公開)

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