5つの機能「CCWCS」を搭載、公式アプリ「POCKET PARCO」導入の目的と成果とは?

写真提供:共同通信社

 複数の販売チャネルを統合し、シームレスなショッピング体験を提供する「オムニチャネル」。各チャネルで収集されたデータに基づき、顧客に最適化した購買体験を提供するマーケティング戦略として注目されている。本連載では、オムニチャネルを実践する国内企業8社の事例を解説した『ケースブック オムニチャネルと顧客戦略の現在』(近藤公彦、中見真也編著/千倉書房)から、内容の一部を抜粋・再編集。都市型ショッピングセンター(SC)のパイオニアであるパルコの施策を取り上げる。

 第3回は、公式スマホアプリの導入が顧客戦略に与えたインパクトについて解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 ECサイト「PARCO-CITY」の開設で幕開け、パルコなぜオムニチャネルを目指したのか?
第2回 Webサービス「カエルパルコ」は、なぜ実店舗とECのカニバリゼーションを防げたのか?
■第3回 5つの機能「CCWCS」を搭載、公式アプリ「POCKET PARCO」導入の目的と成果とは?(本稿)
第4回 リアルとデジタルが融合、新生「渋谷PARCO」が目指したセレンディピティセンターとは?
第5回 顧客視点でデータをどう活用? パルコが構築したデータ&インフラマネジメント「DAPCサイクル」とは

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■ POCKET PARCO

 PARCOに訪れた顧客がどのテナントで購入したかはハウスカードの決済データ等から把握することができたが、来店前後にどのように行動しているかは補足できなかった。

 そのため、顧客コミュニケーションの手段であるカエルパルコの価値をさらに進化させるツールとして2014年11月、福岡PARCOを皮切りに(2015年3月全国展開)導入されたのが、公式スマホアプリPOCKET PARCOである。

 リリース当初の機能はクリップ(Clip)、チェックイン(Check in)、そしてコンバージョン(Conversion)の3つで、頭文字を取って「CCCモデル」と呼ばれた。クリップは、パルコのオリジナル記事やテナントのブログで紹介されたテナントや商品をお気に入り登録(クリップ)して、買い物の参考にするとともに、PARCOの買い物で使えるPARCOポイントと交換できる「コイン」を獲得することができる。

 チェックインは、PARCOの館内でアプリを起動するとチェックインがなされ、顧客の来店が検知される。またコインをチェックイン時にも付与することで、アプリの起動が促される。さらに月の規定回数以上チェックインすればボーナスが付与され、来店頻度を高める誘因となった。コンバージョンとは、接客や購入などの買い物体験を指す。

 このアプリをPARCOカードと連携させれば、パルコはアプリの顧客データとカードの購買データを紐づけることができる。こうしたCCCの流れは、情報収集から来店、購買に至るまでの一連のカスタマージャーニーを描き出している。

 CCC機能の導入によって、パルコはクリップやチェックインした顧客の実際の購買の有無等、「誰が、いつ来店し、どの店で、いくらの買い物をしたか、あるいはしなかったか」といった顧客の行動・購買情報を可視化できるようになった。こうして蓄積されたデータは、オムニチャネル接客をはじめ、種々の取り組みに活用される。

 その後、POCKET PARCOにはウォーキング(Walking)とサービス評価(Star rating)の機能が追加され、CCWCSモデルへと進化した(下図参照)。ウォーキング機能は「PARCO WALKING COIN」と呼ばれ、スマホの歩数カウント機能を用いて、PARCOへのチェックイン後に館内を500歩歩くと500コイン(5円相当)が付与される仕組みである。

 これまでのデータ分析から、ウォーキング機能を使う顧客の買い回りテナント数が非利用者に比べて2倍に増えたり11、客単価が2~3割増加する12など、ウォーキング機能は顧客に館内を回遊してもらい、新たなテナントや商品に出会う機会を生み出すことが明らかになっている。

 サービス評価は、購入した商品ではなく、買い物体験を5段階の☆の数で評価してもらう機能である。CCCモデルでは購買に至るまでの行動データしか取れなかったが、これに購買後の顧客の声を聞くフローを組み込んだ。

 こうした館内滞在中と購買後の顧客データを収集・分析することにより、CCWCSモデルではさらに「個客理解」が深まり13、買い回りを促す施策などさまざまな取り組みに活かされている。

 テナントとの間で共有されるのは、POCKET PARCOから得られた数値的な顧客・購買データにとどまらない。2015年9月に開設されたテナントスタッフ応援ポータルサイト「SUTEKI LABO」(ステキラボ)では、オンライン接客に長けたテナントスタッフのインタビュー動画、ロールプレイングコンテストで入賞したスタッフによる解説付き動画など、数値化されない優れた取り組み、販売のノウハウが提供される。

 また、SUTEKI LABO開設と同時に導入されたのが、パルコとテナントをオンラインでつなぎ、スタッフの事務作業を軽減することを目的とした「パルコSCグループウェア」である。

 ここでは、パルコとテナントのスケジュールを管理するスケジュール機能、パルコとテナントがメッセージを受送信できるメッセージ機能、パルコからのアンケートへの回答やメディア掲載原稿の提出ができるアンケート機能、PARCOで働くためのマニュアルが閲覧できるマニュアル機能、テナントからパルコへの届出や申請ができる届出・申請機能、テナント別売上げを調べられる売上げ日報機能などがある。

 SUTEKI LABOによる情報提供やパルコSCグループウェアによる業務改善は、同社のオムニチャネルを支えるバックヤードのデジタルトランスフォーメーションであり、パルコ全体の価値の向上に大きく貢献している。

 POCKET PARCOが本格導入された2015年3月、顧客コミュニケーションを一層強化するため、これまで接客の研修を行ってきたCS/顧客政策部とWEBコミュニケーション部の2つの部門が統合され、WEB/マーケティング部が発足し、林直孝氏が部長に就任した。

11 林直孝、「デジタルの力でリアルでの体験を最大化する『渋谷PARCO』―次世代の商業施設のかたちとは」、GENBA、2019年12月17日。(https://gemba-pi.jp/post-204109)

12  「店舗は“売る”から体験提供、“個客理解”の場へ PARCOが取り組むOMOとは」、Markezin、2021年3月22日。(https://markezine.jp/article/detail/35662)

13 さらに2019年10月には、獲得したコインのランクに応じたポイント付与や、次回以降のショッピング時のポイント利用ができるQRコード決済「ポケパル払い」が導入された。

■ デジタルショッピングセンタープラットフォーム

 2017年、パルコは「PARCO as a Service」(PaaS)と呼ばれるデジタルショッピングセンタープラットフォームの新たなコンセプトを打ち出した。

 これはオンラインと実店舗を融合させたプラットフォームであり、データやAI(人工知能)、ロボットを駆使して、顧客1人ひとりにカスタマイズされた商品提案を行ったり、館内の回遊度を高めるための仕組みである。その具体的な施策は、次の4点である14

  • アプリ・WEBを使った接客のデジタル化
  • IoTによる行動・行動要因のデジタル化
  • VR(仮想現実)などによる体験のデジタル化
  • RFIDによる商品・在庫・購買情報のデジタル化

 アプリ・WEBを使った接客のデジタル化は、2013年から継続するデジタル改革を指し、ショップブログやカエルパルコ、POCKET PARCOはその成果である。

 POCKET PARCOを通じて顧客の購買データが蓄積されていくなか、パルコのハウスカードであるPARCOカードの基幹系システムのデータと統合して、分析の精度を向上させ、顧客戦略を検討する必要が高まっていった。

 そこで2017年3月、IT部門であるIT推進室とWEB/マーケティング部のシステム開発機能が統合され、パルコ・グループのオムニチャネル戦略を統括する「グループICT戦略室」(2019年3月「グループデジタル推進室」に改称)が新設された。

 このグループICT戦略室のもとで、POCKET PARCOを通じて来店履歴や購買履歴のデータ、ウォーキング機能によるPARCO館内の回遊データを収集し、個客レベルの行動分析が開始されることになった。こうしたなか2018年、カエルパルコはリニューアルを施され、PARCO ONLINE STOREとして新たなスタートを切った。

 IoTによる購買・行動要因データのデジタル化は、2017年11月開業の「PARCO_ya上野」で始まった。テナントごとに複数のAIカメラを設置し、来店者数をはじめ、曜日・時間帯による来店者の性別や推定年齢のデータを取得し、日々のテナント別の売上げやレジ客数のデータと連携させた。

 こうしたデータや分析結果は、テナントに提供され、来店客が多い時間帯に店員を多く配置するなど、接客の質や売上げの向上に活かされた。

 VR(仮想現実)による体験のデジタル化は、2017年に期間限定で福岡PARCOの一部テナントで「VR PARCO」として実施された。これはVRゴーグルやパソコン、スマホを利用して、自宅にいながら遠隔でPARCO店内を見て歩き、バーチャルショッピングを楽しんでもらうというものであった。

 また、MR(複合現実)を用いてMRゴーグルを付けてバーチャル空間に並んだ商品を見て選び、オンラインで購入してもらう試みも行った。

 RFIDによる商品・在庫・購買情報のデジタル化では2017年、自走式ロボットSiriusbot を導入し、閉店後の夜間にテナントを廻り、RFIDを読み取って自動で棚卸作業を行うなどの実験を開始した。

 こうしてパルコは最新のデジタル技術を駆使して、顧客の買い物体験の向上に取り組んだ。

14 林直孝、「デジタルの力でリアルでの体験を最大化する『渋谷PARCO』―次世代の商業施設のかたちとは」、GENBA、2019年12月17日。(https://gemba-pi.jp/post-204109)

<連載ラインアップ>
第1回 ECサイト「PARCO-CITY」の開設で幕開け、パルコなぜオムニチャネルを目指したのか?
第2回 Webサービス「カエルパルコ」は、なぜ実店舗とECのカニバリゼーションを防げたのか?
■第3回 5つの機能「CCWCS」を搭載、公式アプリ「POCKET PARCO」導入の目的と成果とは?(本稿)
第4回 リアルとデジタルが融合、新生「渋谷PARCO」が目指したセレンディピティセンターとは?
第5回 顧客視点でデータをどう活用? パルコが構築したデータ&インフラマネジメント「DAPCサイクル」とは

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