セブン-イレブンの「5度目の正直」、コンビニ淹れたてコーヒーを成功に導いた学びとは

写真提供:共同通信社

 モノづくりビジネスにおいて、世界的に主流になりつつある「オープンイノベーション」。ところが日本企業では依然、全てを自社で行う「自前主義」から脱却できずに商機を逃すケースが多く見られる。本連載では『学びあうオープンイノベーション 新しいビジネスを導く「テクノロジー・コラボ術」』(古庄宏臣・川崎真一著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集し、オープンイノベーションを円滑に進めるために心がけるべき他社との「コラボ術」について解説する。

 第4回では、コンビニ淹れたてコーヒー「セブンカフェ」誕生に至るまで、セブン-イレブンが経験した4度の失敗と、5度目の挑戦を成功させた背景に迫る。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜソニーは、世界最強の「CMOSイメージセンサー」を開発できたのか
第2回 オープンかクローズか、過剰な「秘密主義」がモノづくりにもたらした限界とは?
第3回 NTT×東レの機能素材「hitoe」、共同開発を実現させた“奇策”とは
■第4回 セブン-イレブンの「5度目の正直」、コンビニ淹れたてコーヒーを成功に導いた学びとは(本稿)
第5回 新規市場開拓へ、フィリップス、ユニ・チャーム、LIXILが選んだ意外なパートナー企業とは?
■第6回 「ジャポニカ学習帳」のショウワノートと提携、廃業寸前の印刷所が生んだ奇跡の「おじいちゃんのノート」(7月11日公開)

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学びあうオープンイノベーション』(日経BP 日本経済新聞出版)

 下図は、日本国内のコーヒー消費量の推移です。併せて、日本の人口推移も示しました。

 日本の人口は2011年頃をピークに減少していますが、コーヒーの消費量は1996年頃から拡大し、2007年以降にいったん鈍化したものの、2013年頃から再び拡大しています。

 その背景には、まず1996年にスターバックスが日本に上陸し、1997年にはタリーズコーヒーが出てくるなど、コーヒーショップの革新がありました。加えて、各飲料メーカーの工夫による数々のイノベーションがあり、2015年には米国のブルーボトルコーヒーが上陸して「サードウェーブ」を巻き起こした影響もあります。サードウェーブとは、ブレンドでない浅煎りのシングルオリジンコーヒーが流行した現象を指します。

 こうした各社の努力により、日本のコーヒー市場は人口減少という逆風に逆らって成長してきたのです。

 コーヒー市場の拡大に起因したイノベーションの一つと考えられるのが、コンビニエンスストアのヒット商品「コンビニ淹れたてコーヒー」です。最初に始めたのはセブン-イレブンで、2013年のことでした。市場拡大の立役者の一人と言えるのではないでしょうか。

 実は、コンビニ淹れたてコーヒーの開発は5度目の挑戦でようやく成就したもので、そこに至るまではイバラの道のりだったそうです。

 セブン-イレブンが最初に淹れたてコーヒーに挑戦したのは、1980年代前半です。「コンビニで淹れたてコーヒーを購入するユーザーはいる」という仮説のもと、店内にコーヒーサイフォンを用意してコーヒーを作り置きし、小分け方式で販売しました。しかし、味覚と香りを維持するため、1時間ごとに作り替える必要がありました。需要予測が外れた店は、商品回転率が悪化してしまったそうです。コーヒーは一定量売れましたが、不採算店舗が出たことから、この企画は中止になりました。

 結果としては失敗ですが、「一定量は売れた」という一筋の光明があったことから、1988年頃に再び淹れたてコーヒーに挑戦しました。注文の都度作る方が効率が良く、①常に新鮮さを保持できる、②余ったコーヒーの廃棄ロスを減らせる、③衛生管理が容易になる、といったメリットがあると考えられました。そこで、ドリップ方式が採用されます。しかし、店内に焦げたような香りが漂ったことから、またもやこの企画は中止となりました。

 おそらくセブン-イレブンは、ここまではコーヒー専門店の市場を獲ることを考えていたはずです。しかし、コーヒー専門店と同じやり方では無理があると気付きました。コンビニに合った手法を選ぶ戦略に改めます。カートリッジ方式を採用し、1990年頃に3度目の挑戦を試みましたが、失敗しました。カートリッジ方式ではコーヒー豆を粉末状に加工するのですが、肝心の風味が失われ、味が落ちてしまったそうです。「三度目の正直」という言葉があります。大抵の企業は、3度目に失敗すればあきらめることが多いでしょう。

 しかし、2000年頃からスターバックスを含むコーヒーショップの大躍進が始まり、エスプレッソやカフェラテが人気を集めました。セブン-イレブンはこれを見て、商品をエスプレッソやカフェラテに変えて4度目の戦いを挑んだのです。

 これが、「バリスターズカフェ」です。エスプレッソタイプ(圧力抽出式)のカートリッジを採用し、セルフサービスで提供しました。しかし、これがなんと一店舗あたり一日25杯しか売れなかったのです。店内のコーヒー売上比率を見ると、97%が缶コーヒー。バリスターズカフェは3%しか売れず、大敗北となりました。

 エスプレッソは万人受けしませんでした。日本人の嗜好(しこう)にはペーパードリップ式の方が合うと考え、美味しくて飲みやすい、本格派のコーヒーで勝負すべきだと考え直したのです。そこで、外食産業で人気を博す200社のコーヒーを徹底的に分析し、飲みやすさと飲み応えの最適なバランスを追求しました。それが5度目の挑戦となり、現在の「セブンカフェ」の成功につながります。

 セブン-イレブンは過去4度の失敗から学んだ知見を財産とし、コンビニが提供するのに最適なコーヒーの味を見出しました。ここから電機メーカー、焙煎技術を持つメーカー、商社などと連携して「コンビニ専用のコーヒーマシン」を開発したのです。3社と連携するオープンイノベーションです。2012年8月に北海道、秋田県、鹿児島県で先行導入し、手応えを得て2013年から全国に展開しました。

 もしセブン-イレブンが電機メーカーなどに開発を丸投げしていたら、コンビニ淹れたてコーヒーは成功しなかったのではないでしょうか。4度の失敗から学んだ財産がなければ、この連携は不可能だったはずですし、新しい市場の創出には至らなかったでしょう。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜソニーは、世界最強の「CMOSイメージセンサー」を開発できたのか
第2回 オープンかクローズか、過剰な「秘密主義」がモノづくりにもたらした限界とは?
第3回 NTT×東レの機能素材「hitoe」、共同開発を実現させた“奇策”とは
■第4回 セブン-イレブンの「5度目の正直」、コンビニ淹れたてコーヒーを成功に導いた学びとは(本稿)
第5回 新規市場開拓へ、フィリップス、ユニ・チャーム、LIXILが選んだ意外なパートナー企業とは?
■第6回 「ジャポニカ学習帳」のショウワノートと提携、廃業寸前の印刷所が生んだ奇跡の「おじいちゃんのノート」(7月11日公開)

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