PAULの「3080円・高級モーニング」超正直な感想
朝だけ提供される飲食チェーンの朝限定メニュー、いわゆる「モーニング」には、実にさまざまなお店が朝メニューで参入しています。ハンバーガー店に牛丼チェーンにファミリーレストラン。カフェに焼肉に立ち食い蕎麦にドーナツショップ。
集客の弱い時間帯である午前中の売り上げを強化すべく、朝の数時間だけ提供される限定メニューの数々は、コスパ抜群かつ店の特色が強く表れ、どれも魅力にあふれています。
なかには「モーニングが大人気」というお店もあります。それが今回ご紹介する「PAUL(ポール)」です。
高級ラインの焼き立てパンチェーン店に併設しているカフェで、土日のみ実施しているモーニングビュッフェは、1カ月先まで予約でいっぱいになる、人気メニューなんです。
クロワッサン1個356円の高級焼き立てパン
筆者とPAULの出会いは約5年前。ある日、夫が情報を仕入れてきたことがきっかけでした。
「会社の女子社員が教えてくれたんだけど、PAULっていうパン屋のクロワッサンがめちゃくちゃおいしいらしい」
京都出身で、PAULを知らなかった筆者(京都にもPAULはありますが、店舗数が少ないんです)。
わざわざ人に教えたくなるほどおいしいクロワッサンなら、ぜひ食べてみにゃあいかんということで、いざ「PAUL」へ。当時既にクロワッサン1個の価格が300円以上(2024年9月現在、税込356円)。それ以外のパンもどれもこれも軒並みお高めです。
内心「誰がこんな高いパン買うねん!」と、関西弁でツッコミを入れたのですが、近隣にタワーマンションや大使館がある店舗ということもあるのか、利用者は裕福な方が多いようです。店は繁盛し、皆さん価格にためらうことなくポンポンと数千円単位でパンを買っていました。
実際に買って食べて、そのおいしさを目の当たりにし、値段が高いのに納得はできたものの、大いなる懐事情の格差を目の当たりにしたのでした。
PAULのモーニングビュッフェ3080円
なぜモーニングの記事なのに、こんな前置きを書いたかというと、「PAUL」のモーニングビュッフェは、パン屋さんの朝メニューとしてはかなりお高めの価格設定になっているから。「パンの食べ放題でこの値段は高すぎるだろう」と思われる前に、「もともと、お高めのお店なんですよ」ということを、お知らせしておかねばと思ったのです。
「PAUL」のモーニングビュッフェは税込3080円です。関東ではアトレ四谷店のみが実施しています。実施は土日のみの完全予約制で、利用時間は2時間。朝8時スタートと、8時30分スタートから選べます。
ビュッフェブースに並ぶ料理は、パン、スープ、キッシュ、サラダなどが約20種類。
・ピザ
・キッシュ
・オムレツ
・グラタン
・ペンネ
・サラダ4種(ゆでたまご、グリーンリーフ、ブロッコリー、アボカドマヨネーズ)
・フライドポテト
・ソーセージ
・パウンドケーキ
・カヌレ
・クレームブリュレ
・パン6種(クロワッサン、パン・ショコラ、ハード系)
飲み物はコーヒー、紅茶、ミルク、オレンジジュース。
お気づきでしょうか? 価格はレストランやホテルの朝食バイキング並なのに、決して品数は多くはありません。飲み物も、冷たいドリンクはピッチャー、ホットコーヒーはポット、紅茶はティーバッグと、ファミレスのドリンクバーと比べると、充実しているとは言い難い。
ここまで読むと「値段は高い。3000円以上するのに、品数は多くない。全然魅力的じゃない」と感じるかもしれません。しかしさにあらず! 実は「PAUL」のモーニングビュッフェは当月の予約が取れないほどの大人気メニューなんです。
理由はもちろん、おいしいから。そして……「PAUL」だから。
ロゴ入りのお皿とティーカップで、おいしいものを少しずついただく
「PAUL」のロゴ入りのお皿に、おいしいものを少しずつ乗せていくと、彩りも美しいにぎやかな朝食が完成しました。
肉系のメニューはソーセージだけですが、グラタンやキッシュは具沢山で、生クリームやバターがたっぷり使用されており、なかなかの食べ応え。
ただしこってりメニューではあるものの、「肉汁ブシュブシュのハンバーグにたっぷりデミグラスソースをかけたやつ」とか「焼肉に濃厚甘辛ニンニクタレをからめたやつ」の対極にある、素材の味を大切にした優しい味付けで仕上げてあります。
美しいラグビーボール型のプレーンオムレツは欲しい分だけサーブするのですが、中央は半熟でトロトロの絶妙な仕上がり具合。スープは1種類のみですが、しっかり炒めた甘い玉ねぎと、マッシュルームの香り、ベーコンの塩味がふわりと香る、シンプルだけどリッチな味わいです。
フランスのおいしいクロワッサン
そして看板メニューのクロワッサン。フランス輸入の生地から焼き上げているそう。高級パンっていうと、バターと砂糖がたっぷり入っていていい風に言うと濃厚、つまりは重めの印象があったのですが、「PAUL」のクロワッサンは、軽い食感が特徴です。
表側のクラスト部分はザクザクカラリとして、歯触りも軽快で香ばしい味わい。内側のクラム部分はパンの層が年輪のように美しく、空気をたっぷりと含んでふわふわもっちり。
クロワッサンのおいしさを表現する際に「バターがたっぷりで……」というのがグルメ記事の定番なのですが、「PAUL」のクロワッサンはバターは控えめ。甘さも控えめというか、クロワッサンを甘くする気がそもそもないというか……。
しっかりと小麦粉の旨みを味あわせてくれる仕上がりで、なんだかちょっと日本の手作りパン屋さんのクロワッサンとは一線を画すおいしさがあります。
カヌレ好きの夢、カヌレ食べ放題
「PAUL」のモーニングビュッフェを全種類少しずつ食べたのですが、なかでも「これはお得だな」と感じたのがカヌレとクレームブリュレです。
カヌレは小さいのに高い焼き菓子の代表選手で、「PAUL」では1個税込367円。特に安いなと感じる、ローソンですら税込171円します。
つまりは「カヌレは小さくて物足りないけど、たくさん食べるのは財布事情が許さない。一度でいいからお腹いっぱいカヌレを食べてみたい」という夢を持つ人にとっては、「PAUL」のモーニングビュッフェは穴場です。
食べ放題は元を取りたい派の人は、カヌレを8個食べればペイできます。ただしその独特のもっちりした歯応えで満腹中枢を刺激しまくるので、前半にカヌレを食べ過ぎると、他のメニューまで食べきれないことになるかもしれません。
そして今回、もっとも驚いたのがクレームブリュレ。柔らかめのプリンの上の砂糖をバーナーで焦がしたものがクレームブリュレなのだろうという認識が覆されました。
「PAUL」のクレームブリュレは、思っていた以上にクリームが液体です。クリームシチューぐらいのとろみのテクスチャーで、その表面をカリカリのカラメルが覆っています。
大皿からスプーンでお皿に取り分けると個体を保てず、でろーんとなってしまいますが、そのお味ときたら!
生クリームと卵黄のこっくりした味わいに、たっぷりのバニラビーンズの芳醇な香りがプラスされ、そこに焦げたカラメルの香ばしさが加わり、もったり濃厚かつ、がっつり甘くて、しっかりおいしい。
ホイップデコレーションもなくフルーツもない、見た目はいたって質素なスイーツなのですが、食べるとめちゃくちゃ贅沢な味わいです。
食べておいしい、雰囲気も楽しい
「PAUL」のモーニングビュッフェは、食事はもちろんのこと、お店のムードやスタッフの接客の良さも魅力です。
黒白のチェッカーパーケットに、アンティークなディスプレイがあちこちにほどこされた内装。ビュッフェブースは、おちついた飴色でツヤピカの天板と黒いアイアンの1本脚のテーブル。簡素だけれど趣味がよく、居心地の良い空間に仕上がっています。
スタッフのユニホームの黒白ボーダーのTシャツと白いベレー帽が、フランスの水兵さんのよう。ほどよくカジュアルでほどよくスタイリッシュです。
スタッフの気配りと目配りが行き届き、ビュッフェブースのお皿は頻繁に交換されて常にフレッシュだし、サーブし損ねて大皿からテーブルや床に落ちた料理はあっという間に片付けられ、気分良くビュッフェを楽しめるのです。
なお、庶民とは縁遠いお店に感じる「PAUL」ですが、運営しているのは株式会社レアールパスコベーカリーズ。
敷島製パン株式会社のベーカリー事業会社として、1981年に株式会社パスコ東京として発足し、その後、2000年に今の名前に社名変更した歴史を持ちます。
敷島製パンといえば、スーパーやコンビニの陳列棚でお馴染みの「Pasco」で知られる会社。「Pasco」の親戚筋のお店と思うと、なんとなく親近感が湧くのでは?
雰囲気代を含めれば、お値段以上のモーニング
そんな「PAUL」のメニューや味付けは総じて女性好み。雰囲気も女性好み。そして、利用客はほぼ女性です。
朝8時30分の時点で40席ほどある店内は満席で、20人以上が利用していたのですが男性は2人だけ。その2人も奥さんの同伴という感じ。ほとんどが女友達2人組もしくは女性のグループです。
誰一人、「寝起きでジャージ」「Tシャツに短パン」みたいな服装をしていません。ロングワンピースや、チュニックの重ね着、マリメッコのスカートや、リバティプリントのブラウスなど、ナチュラルなファッションのおしゃれさんばかりなのです。何かしらのドレスコードでもあるのかというほど(ちなみにTシャツに短パンだった筆者は浮いていました)。
ビュッフェは言い変えれば食べ放題。「沢山食べて元を取るぞ」みたいな気持ちで「PAUL」のモーニングビュッフェに行くと場違い感がすごいです。
誰もが、行儀良くビュッフェブースの列に並んで順番待ちして、割り込む人などいません。お皿にてんこ盛りに料理をのせて、ガツガツ頬張る人もいません。
食事・内装・スタッフ・お客さん、全てがいい感じで、空間全体が心地良く整っています。このちょっと特別な時間が3080円というのは、決して高くはないのかもなと、考えさせられる朝です。
(大木奈 ハル子 : ブロガー・ライター)
09/21 08:00
東洋経済オンライン