減便した「朝の電車」元の本数なら混雑どうなる?

山手線

山手線をはじめ首都圏のJR各線はコロナ禍で減便された(編集部撮影)

コロナ禍で在宅勤務などが広がったとはいえ、最近は多くの人が以前のように通勤するようになってきた。一時期は車内で全員がマスクをしていたが、その姿もあまり見なくなっている。

しかし鉄道会社の多くは、コロナ禍で減便した本数を元に戻していない。本数を減らしたのは通勤客が減ったためだが、輸送力が減ったままで利用者数は戻ってきているため、車内の混雑ぶりは以前とあまり変わらなくなっている。通勤客が減ってゆったりとした車内環境になったかといえば、そうなっていない路線が少なくない。

では、減便は混雑にどの程度影響しているのか。もし減便していなかったら、今はどの程度の混雑なのだろうか。

減った本数、戻る乗客

コロナ禍で列車の本数を減らした鉄道会社として挙げられるのがJR東日本である。2022年春のダイヤ改正では新幹線・在来線など200本以上を削減した。象徴的なのは山手線だ。同改正で、平日の昼間は3分50秒間隔(1時間当たり16~17本)から5分間隔(同12本)に減便され、首都圏を代表する路線だけに注目された。

【表でわかる】本数の減った首都圏JR線、もし「減便」していなかったら混雑率はどうなっていた?2019年度と2023年度の利用者数変化も

減便はほかの多くの鉄道会社も行ったが、JR東日本は人の動きが戻ってきた中の2024年春ダイヤ改正でも、土休日の山手線外回りの本数を減らして5分間隔とした。もともと運転本数が非常に多く、減った後も多い部類に入るため気づきにくいが、以前と比べればだいぶ本数が減っているのだ。

利用者が増えれば混雑率が上がるのは当然だが、利用者数が変わらなくても列車の本数が減って輸送力が下がれば混雑率は上昇する。混雑率が上がるパターンは以下のような例が考えられる。

【混雑率が上昇するパターン】
1:輸送力が増え、利用者がそれ以上に増加
2:輸送力は一定、利用者が増加
3:輸送力が減り、利用者数は一定
4:輸送力が減り、利用者数が増加

長年、都市部の鉄道は1と2のパターンが多かったといえるだろう。最近電車が混むようになったのは、コロナ禍で一度大きく減った乗客が再び増える中で4の状態になっているためといえる。

もし元の本数だったら?

例としては中央線快速が挙げられる。国土交通省が毎年発表している鉄道の混雑率のデータによると、コロナ前の2019年度、最混雑区間の中野→新宿間のピーク1時間当たりの輸送力は4万4400人(10両編成30本=データ記載に基づく)、輸送人員8万1550人で、混雑率は184%だった。

2020年度、この輸送人員は一気に約3万人も減り、5万1380人になった。この状況を受け、2022年春のダイヤ改正では最大の運転本数を1本減らして29本とし、翌2023年春の改正ではさらに1本減って28本となった。

2本減便された2023年度の輸送力は4万1440人分だ。ただ、輸送人員は6万5510人と2019年度の8割まで戻り、混雑率は158%となっている。もし1時間当たり30本・輸送力4万4400人を保っていたなら、混雑率は148%だった計算だ。

もっとも、2023年春のダイヤ改正では上記の時間帯を1本削減する代わりに、それより前の早朝に1本増発しており、以前よりも通勤客が分散する傾向にある中、本数の配分を変えたということができる。

また、中央線快速・青梅線では2025年春からグリーン車のサービスを開始する予定だ。現在10両編成の電車に2両のグリーン車を連結する。

中央線2階建てグリーン車

中央線快速電車は2025年春から2階建てグリーン車2両を連結する予定だ(写真:元ぽっぽや/PIXTA)

東海道本線などの混雑率データを見ると輸送力にグリーン車は入っていない計算だが(13両分となっている)、利用者がグリーン車に移れば一般車両の混雑緩和につながる可能性はあるだろう。定員は2両で180人。1時間当たり28本なら5040人分のキャパシティが増えることになる。

混雑率のデータにある路線でいえば、2019年度比でもっとも輸送力が減ったのは山手線外回りの上野→御徒町間で、11両編成22本から17本へ約8100人分減少した。2番目は常磐線快速が約8000人分減っている(ただし、2019年度と2023年度で区間は異なる)。3番目は中央線各駅停車で約7400人分、4番目は常磐線各駅停車で約5600人分、5番目は山手線内回りで約4900人分だ。

これらの路線は2023年度の混雑率がいずれも140%以下だが、もし以前の輸送力であれば最大で110%台前半だった計算だ。

輸送力減った路線表

減便しなかった場合の混雑率試算

一方で、2019年度に比して2023年度でも輸送力を減らしていない路線もある。ただ、それで空いているかといえばまた別だ。

例えば京浜東北線の北行、大井町→品川間は、2019年度は輸送力3万8480人(10両編成26本)で輸送人員7万1350人、混雑率は185%だった。2023年度も輸送力は変わらず、それに対して輸送人員は約7割の5万6020人となったため、混雑率は146%になった。大幅に下がっているが、現在の平均的な数値からいえば混んでいるといえる。

埼京線の板橋→池袋間も、2019年度は輸送力2万7960人(10両編成19本)、輸送人員5万1850人で混雑率185%だったのが、2023年度は列車の本数は変わらず輸送力2万8040人、輸送人員4万4960人で混雑率160%となっている。輸送力は減っていないが、2023年度の混雑率は全国4位で、JR線では一番だ。

1本増えればだいぶ楽になるが…

このように減便している路線、していない路線を見ていくと、混雑率を一定程度に保とうとしている姿勢はうかがえる。

減らしていた本数を復活した鉄道会社もある。2022年に日中の急行と各駅停車を毎時1本ずつ減便した西武新宿線は、今年春のダイヤ改正でこれを元の本数に戻した。2022年夏に大幅な本数削減を行い、日中3~4分間隔を5分間隔にした東京メトロ銀座線は、翌2023年春に再び4分間隔へと増やした。同線は乗り入れのない路線で調整が行いやすいという特性もあるが、今後はこのような動きが広がる可能性は十分あるだろう。

JR東日本は10月1日発売分から、これまで通常の通勤定期券より10%割安だった「オフピーク定期券」を値下げし、15%割安にする。通勤の復活で混雑が再び悪化する中、それを緩和したいとの狙いが見える。ただ、やはりラッシュ時には多くの人が乗る。何本も減便した路線は最混雑時に1本程度復活すれば、混雑率は再度下げられる。並行路線を活用して一方の本数を増やすなども考えられるだろう。快適な通勤環境の提供を望みたい。

2019年度・2023年度輸送力比較

2019年度・2023年度輸送人員比較

2019年度の輸送力の場合の混雑率試算表

(小林 拓矢 : フリーライター)

ジャンルで探す