JR西vs地元首長 兵庫「加古川線」一部存続危機も、兵庫県の交渉リーダーシップがすっかり薄れたワケ

不便なダイヤに悩む通勤者の声

谷川駅を出発し、西脇市駅に向かって西脇市内を走る加古川線の電車(画像:高田泰)

谷川駅を出発し、西脇市駅に向かって西脇市内を走る加古川線の電車(画像:高田泰)

 兵庫県のJR加古川線一部区間が存続の危機に立たされるなか、JR西日本とのせめぎ合いで斎藤元彦知事の疑惑に揺れる兵庫県の存在感が見えなくなっている。

 兵庫県南部・加古川市のJR加古川駅を発車した2両編成の列車が田園地帯を走る。9月上旬の平日、朝の通勤ラッシュが終わった時間帯にもかかわらず、車内は座席がほぼ埋まった状態。だが、大半の乗客が加古川市や隣の小野市、加東市で下車する。終点となる西脇市の西脇市駅に着くころには、空席が目立った。

 加古川線は丹波市の谷川駅まで続くが、西脇市駅で1両編成の電車に乗り換えとなる。西脇市の中心部を抜けると、車窓から見える風景が山に変わり、乗客がさらに減っていく。西脇市~谷川間17.3kmは1km当たりの1日平均輸送人員を示す輸送密度が2022年度で

「237人」

まで落ち込み、存続の危機に立たされている。

 加古川~西脇市間は1時間に1本以上、列車が運行するが、西脇市~谷川間は平日で1日9往復。日中だと2、3時間運行がない時間帯がある。加古川駅から西脇市の黒田庄駅へ向かう女性(43歳)は

「定期的に通っているが、日常使いしにくいダイヤで不便」

と表情を曇らせた。

JR西が在り方協議開始を要求

加古川駅行きの列車も運行する西脇市の西脇市駅(画像:高田泰)

加古川駅行きの列車も運行する西脇市の西脇市駅(画像:高田泰)

 加古川線は加古川駅から谷川駅を結ぶ48.5kmの単線電化路線。人口は西脇市が約3万9000人、丹波市が約6万1000人だが、1970(昭和45)年からの50年でともに15%以上減り、今後も減少が続く見込み。

 このため、JR西日本は7月、丹波市で開かれた加古川線の利用促進を話し合うワーキングチーム(WT)初会合で将来のあり方議論開始を提案した。

 西脇、丹波の両市は2025年に大阪市で開かれる大阪・関西万博を誘客の好機と受け止めているが、JR西日本の國弘正治兵庫支社長は「(乗客の)減少傾向は続くと思う。鉄道の特性を発揮できる水準に程遠い」としたうえで

「利用増加に向けた勢いが認められない場合、あり方議論の開始に応じていただきたい」

と切り出した。

 これに対し、林時彦丹波市長、片山象三西脇市長は

「そのときになって考えようということは了解した」
「廃止を前提としなければ」

と応じた。西脇市まちづくり課は

「あり方協議を受け入れたのではなく、協議に入るかどうかを考えるという意味だ」

と真意を説明したが、両市長が交渉の矢面に立たされ、孤軍奮闘しているようにも見える。

知事の疑惑表面化で対応に変化

福知山線と接続する丹波市の谷川駅(画像:高田泰)

福知山線と接続する丹波市の谷川駅(画像:高田泰)

 兵庫県は2022年、JR西日本が輸送密度2000人未満の路線を公表したのを受け、ローカル線の維持・利用促進を検討する協議会を設けた。兵庫県で輸送密度2000人未満の区間があるのは、

・加古川線
・山陰本線
・姫新(きしん)線
・播但(ばんたん)線

4線には兵庫県の出先機関である地元の県民局に事務局を置くWTを設置した。加古川線の事務局は北播磨県民局が担当している。

 この際、斎藤知事は

「ローカル線は県民生活に不可欠な公共交通。県がリーダーシップを取り、未来志向で話をしたい」

と路線維持への意欲を見せた。2024年1月にJR西日本が公共交通のあり方を議論する法定協議会設置を求める意向を明らかにしたときは、記者会見で

「(踏み込んだ議論をする考えは)現時点でない」

との見解を示している。

 ところが、斎藤知事の疑惑が表面化して以降、状況に変化がうかがえる。WTは兵庫県が設置した会議で、県民局長が出席しているのに、両市長が論戦を受けて立つことになった。斎藤知事が記者会見やコメント発表で県の姿勢を表明することもない。

 丹波市ふるさと定住促進課は

「県民局とは事務レベルで連絡を密にしており、問題はない。ただ、もう少し県で対応していただけるとありがたい気もする」

と語った。

一刻も早い混乱の収拾が必要

9月末まで一部列車が谷川駅で乗降できる特急「こうのとり」(画像:高田泰)

9月末まで一部列車が谷川駅で乗降できる特急「こうのとり」(画像:高田泰)

 兵庫県と同様にローカル線の存続問題で揺れる中国地方では、副知事や本庁の部長級が会議に出席し、県が地元を代表してJR西日本と対峙(たいじ)している。その際、知事は記者会見やコメント発表で頻繁に県の主張を訴えている。兵庫県との対応の差が目立つ。

 中国地方の県庁で交通行政を担当する職員は

「県が前面に出て対応するのと市町村長に任せるのでは、交渉の圧力が違う。報道を見る限り、加古川線は弱いところを突かれたように感じた」

と感想を述べた。これに対し、兵庫県総合政策課は

「WTは利用促進を話し合う場。議論の結果が協議会に報告され、検討される。県の対応に問題はない」

としている。県民局長は本庁の部次長級が就任するポストで、単なる出先の長ではない。加古川線WTの代表は片山西脇市長。沿線任せにするつもりはなく、制度にのっとって対応しているという。

 沿線では、西脇市の黒田庄まちづくり協議会と比延地区自治協議会、丹波市の久下自治振興会が「JR加古川線維持・利用促進地域協議会」を設立し、11月ごろから本格的な住民運動を展開する計画。黒田庄まちづくり協議会は

「加古川線を残すには利用促進しかない。住民としてできる限りのことをしたい」

と力を込める。

 JR西日本も福知山線と加古川線の乗換駅になる谷川駅で対向列車待ちの停車をしている福知山線の特急「こうのとり」の一部を乗り降りできるようにする実証実験を9月いっぱい続ける。特急接続で利用がどれだけ伸びるか、確かめるためだ。

 斎藤知事の疑惑で兵庫県は大混乱に陥っている。だが、大阪・関西万博の開幕が7か月後に迫り、利用促進の結果を出すまでに時間的余裕はない。沿線住民は兵庫県が一刻も早く混乱を収拾し、リーダーシップを発揮して対応することを求めている。

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