「部長、その話、キツいっす」部下が辞める雑談2種

夜の街でポールに寄りかかる男性

単なる「話のネタ」だと油断して話したら、部下が「離職」を決意してしまう……そんな笑えない状況に陥る人が少なくないといいます(画像:Lyo/PIXTA)
今、多くの企業が人手不足に悩み、離職を防ぐことは喫緊の課題となっています。
ただ、部下とのよくある日常の雑談が部下を離職に追い込むことがあります。そして、それに気づかず部下の離職によって自分の首を絞めている上司は少なくありません。それはいったい、どんな雑談なのか。
経営心理士として1200件超の経営改善を行い、経営心理士講座を主宰する、一般社団法人日本経営心理士協会代表理事の藤田耕司氏の著書『離職防止の教科書――いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版』から一部を抜粋・再編集し、部下を離職に追い込む日常の雑談についてお伝えします。

上司の残業、休日出勤の話を聞いて部下が離職

大手会計事務所に勤めるマネージャーのT氏は、残業が常態化しており、土日出勤することもあるような状況でした。

離職防止の教科書: いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版

「昨日も終電までやってたよ」「全然終わらないから日曜も出社してやってた」

彼は部下との雑談の中で残業、土日出勤の話をネタとしてよく話していました。

しかし、ある日、彼の部下の1人が突然、退職を申し出てきました。

理由を聞くと彼はこう話しました。

「Tさんは深夜まで働いたり、休日に出社したり、かなりお忙しい感じですけど、自分が今後昇進して管理職になったら同じように働ける自信がないです。だったら、今のうちに辞めたほうがいいなと思いまして……」

この言葉を聞いたT氏は愕然とし、「残業、休日出勤の話をしすぎた!」と強く後悔したと言います。

部下は上司の姿に数年後の自分を見ます。

上司が残業や休日出勤の話を頻繁にしていると、部下は「数年後、自分はこうなるんだな」と不安を抱き、その不安が部下の退職を促します。

上司が部下の離職を防ぐためには、部下とのコミュニケーションにおいて気をつけるべきポイントがあります。

雑談で離職を起こさない2つのポイント

ポイント1:忙しさを話のネタにしすぎない

その1つが「忙しさを話のネタにしすぎない」ということです。

多忙な上司は部下との会話で、仕事の忙しさをネタにすることがよくあります。

例えば、「昨日も夜中の12時まで仕事していた」とか「土日も出社していた」といった話です。

こういった話を頻繁に聞かされると、部下は「自分も将来こんなに忙しくなるのか……」と、将来への不安やプレッシャーを感じます。

そして、「自分には耐えられない」と感じると、部下は離職に向けて動き始めます。

上記のT氏はこう話します。

「深夜まで働くとか、休日出勤するとかって、1つの話のネタなので、よく部下に話してました。でもそれが原因で部下に辞められてしまって、ほんと反省しました」

部下はそういった話をただの話のネタとして聞いているだけでなく、その話をもとに自分の未来をイメージしています。

そして未来に絶望すると退職を決意します。

ポイント2:会社の愚痴を部下に言わない

もう1つ、部下とのコミュニケーションで気をつけなければいけないのが、「会社に対する愚痴」です。

上司が会社の愚痴を部下に言うと、部下は会社が信頼できなくなったり、この会社で働く未来のイメージが悪くなったりします。

あるコンサルティング会社に転職し、そこで10年以上働いているK氏から聞いた話です。

この会社では、コンサルティングといっても、実際の仕事は定型のフォーマットを使って同じ作業を繰り返すだけであり、K氏はコンサルタントとして大きな成長を実感することはありませんでした。

ただ、給料がいいので辞めるつもりはなく、給料のためだけに働く状況でした。

K氏は部下と飲みに行った際、「この会社で10年以上働いているが、大きく成長できるような仕事を任せてもらったことがない」といった愚痴をよくこぼしていました。

ある日、部下の1人から転職するとの申し出があります。

理由を尋ねると、「Kさんの話を聞いていて、この会社で長く働いても、自分は成長できないと感じました」とのこと。

この話を聞いてK氏は、普段自分が言っている会社への愚痴が部下のキャリアに対する不安を引き起こしていたことに気づきます。

K氏は「会社の愚痴って、居酒屋で話す定番のネタじゃないですか。だから当たり前のように話してましたけど、それがいけなかったですね。優秀な部下を失って、結果として自分で自分の首を絞めることになってしまいました」

部下の「会社に対する信頼」を失わせる愚痴

また、あるベンチャー企業でマネージャーを務めていたN氏の話です。

その会社は社長と役員の仲が悪く、N氏は役員の直属の部下で、役員の指示に従って仕事をしていたところ、社長に「何を勝手なことをやってんだ! そうじゃなくて、こうやれ!」と叱られることが何度かあり、社長との関係は決して良い状況にはありませんでした。

N氏はその状況を部下に話し、「社長と役員の不仲のせいで自分まで社長から嫌われている。経営陣の不仲が現場に悪影響をおよぼしている、うちの会社は相当やばいよ」といった愚痴を頻繁にこぼしていました。

その場では部下も「それはひどいっすね」と同調してくれましたが、その後、その部下が退職します。

理由を聞いたところ、「Nさんからこの会社相当やばいって聞いてから、なんか会社のイメージが悪くなって。で、転職サイトに登録したらいいところが見つかったので転職しようと思います」とのことでした。

このように、上司の会社に対する愚痴は部下の会社に対する信頼を失わせ、大きな不安を与えます。

それが退職のきっかけになることは少なくありません。

自分で自分の首を絞めないためにも

日々の忙しさや会社への愚痴は、部下との話のネタの定番といえるようなものです。

また、人間には、何か強い感情を味わうと他者に話して共感してもらいたくなる、「共感欲求」という非常に強い欲求があります。

この点、「残業や休日出勤をして大変な思いをした」「会社に対して怒りや不満を感じる」といったことは強い感情を伴うものであり、それゆえに共感欲求を満たそうと他者に話して共感を求めたくなるものです。

だからこそ、話のネタにしやすいのです。

しかし、そのコミュニケーションが部下の心理にネガティブな影響を与える可能性は高く、それが離職のきっかけとなることもあります。

そして、それが原因で部下が辞めた場合、その部下の仕事を代わりにやるのは上司本人だったりします。

それは自分で自分の首を絞めることになります。

そのため、こういった話は話のネタにしたくなりやすいものではありますが、部下に与える心理的影響も忘れないようにしていただければと思います。

(藤田 耕司 : 経営心理士、税理士、心理カウンセラー)

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