若者が「仕事が面白くないから辞める」本当の理由

休憩する若い店員

若者が「仕事が面白くない」と感じるのは、仕事内容「以外」が原因かもしれません(画像:Graphs/PIXTA)
今、多くの企業が人手不足に悩み、離職の防止は喫緊の課題となっています。
ただ、対応が難しいと言われるのが「仕事が面白くない」という離職理由です。
そこで、経営心理士として1200件超の経営改善を行い、一般社団法人日本経営心理士協会代表理事を務める藤田耕司氏の著書『離職防止の教科書――いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版』から一部を抜粋・再編集し、上司として知っておくべき対応についてお話します。

「仕事が面白くない」と感じるときとは

「『仕事が面白くない』という理由で辞められるのは、もうしょうがないですよ。うちの仕事はそもそもこういう仕事なんですから」

離職防止の教科書: いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版

昔、コンサルティングのクライアントからこのように言われたことがあります。

仕事の内容は変えられない。

だから「仕事が面白くない」という離職には対応しようがない。

そうやって諦める方も少なくありません。

この点、私が主宰する経営心理士講座では「仕事が面白くないと感じるときとは、どのようなときか」というテーマでディスカッションをしていただき、受講生の方の意見を集計しています。

その中でもとりわけ多いご意見が次の内容です。

① 仕事内容が単調で変化がない
② 感謝や承認、ねぎらいなどのフィードバックがない
③ 目標やテーマがなく、やりがいを感じられない
④ 仕事についていけない、仕事が進捗しない
⑤ 仕事の裁量権がなく、やりたいようにやれない

また、心理学者J・リチャード・ハックマンと経営学者グレッグ・R・オルダムは、人のモチベーションに影響する仕事の特性を「職務特性モデル」として理論化しました。

この職務特性モデルでは、次の5つの要素がモチベーションを高めるためには重要だとされています。

① 技能多様性:複数のスキルが求められる
② フィードバック:手応えを感じる、承認の言葉がある
③ タスク重要性:仕事に意義ややりがいを感じる
④ タスク完結性:始めから終わりまで一貫して携われる
⑤ 自律性:自分の裁量で仕事を進められる

この職務特性モデルは「仕事が面白い」と感じる要素ともいえます。

仕事の面白さは上司の関わり方で変わる

この点、経営心理士講座のディスカッション結果と職務特性モデルの各要素を見比べて、近い要素を同じ番号としています。

これをご覧いただくと、その内容が非常に似通っていることがわかります。

この内容から「仕事の面白さに関する心理」が見えてきます。

いずれも①は仕事の内容に関するものですが、②~⑤は上司の関わり方や仕事の任せ方に関するものです。

ここからわかるのが、同じ仕事の内容でも上司が②~⑤に対応するかどうかで、仕事が面白いと感じるかどうかは大きく変わるということです。

そこで今回はこの5つのうち「④仕事についていけない、仕事が進捗しない」「⑤仕事の裁量権がなく、やりたいようにやれない」について、部下をこの状況にさせてしまいがちな上司のタイプと対応法についてお話しします。

この対応にあたっては、行動科学者のポール・ハーシーと組織心理学者のケネス・ブランチャードが提唱したSL理論に基づく対応が効果的です。

SL理論とは、Situational Leadership理論の略で、部下の成熟度を4つに分け、それぞれの成熟度に応じた関わり方を示しています。その関わり方は次のとおりです。

・部下の成熟度が低い:教示的リーダーシップ→細かく指示し、手取り足取り指導する
・部下の成熟度が中程度:説得的リーダーシップ→こちらの考えを説明し、疑問に応える程度の関わりにする
・部下の成熟度が高い:参加的リーダーシップ→より良い方法や今後の方針を一緒に考えさせ、部分的にマネジメントに参加させる
・自立できている:委任的リーダーシップ→業務遂行の裁量を与え、極力口を挟まない

先の「4:仕事についていけない、仕事が進捗しない」に関しては、部下の成熟度が低い状態なのに、上司が教示的リーダーシップをとれていないことが原因となっていることがあります。

部下をこの状況にしてしまいがちな上司のタイプが「理解の早い上司」です。

理解の早い上司は、自分が指示を受ける立場であれば手取り足取り教えられなくてもわかるため、その感覚を部下にも当てはめ、「いちいち細かく教えなくてもわかるよね」と十分な指導をしないことがあります。

その結果、部下は必要な指導を受けられず、仕事についていけない、仕事が進まないという状況に陥り、「仕事が面白くない」と感じます。そしてその状況に耐えられなくなると離職します。

「名選手、名監督にあらず」という言葉がありますが、その原因はこういったところにあるわけです。

そのため、理解の早い上司ほど、自分の感覚と部下の感覚は違うことを自覚し、部下の状況に合わせた指導が必要であることを強く意識することが大切です。

こだわりの強さから部下のやり方に逐一口を挟む

一方、「5:仕事の裁量権がなく、やりたいようにやれない」については、成熟度が高い部下に対して十分な裁量を与えず、部下のやり方に逐一口を挟むといった関わりが原因となっています。

部下をこの状況にしてしまいがちな上司のタイプが「こだわりが強い上司」です。

HP制作会社から転職したY氏に前職を辞めた理由を聞くと、正にこの理由でした。

「もともと即戦力になる人が欲しいと言われて入社したんです。自分はHP制作を12年やっていたので、社長が営業して、自分が社長の取ってきたHP制作の仕事をやることになりました」

「でも社長が異常にこだわりが強い人で、ことあるごとに細かいところまで口を出してくるんです。『この色使いはおかしい』、『写真はこちらを使え』、『キャッチコピーはこれでいけ』」

「そんな状況が続いて、結局、社長に言われたことを言われたとおりにやるだけの仕事の仕方になっていきました。なので、面白くなかったですね」

「あと、言われたとおりにやるだけの仕事の仕方をしていると、自分の頭で考える力がどんどん落ちるんです。なのでこのままじゃ危険だなと思って辞めました」

十分力量がある人が望むこと、それは「自由にやらせてほしい」ということです。
 
しかし、こだわりの強い上司は力量のある部下に対しても教示的リーダーシップをとって、逐一口を挟もうとします。

それが部下の自由を奪い、自分の頭で考える力を衰えさせ、「仕事が面白くない」と感じさせるのです。

そのため、そういう部下には少々のことには目をつぶり、裁量を与えて自由にやらせてあげることが重要です。

「自由にやらせる」と「放置」を混同しない

もちろん、どうしてもこれは譲れないというところはしっかりと手綱を締めます。

また、自由にやらせて放置というわけでもなく、折を見て状況を確認し、相談に乗る機会を設けることも必要です。「温かく見守りながら自由にやらせる」というイメージで関わることです。

このように、上司の関わり方や仕事の任せ方次第で、部下が「仕事が面白い」と感じるかどうかは大きく変わります。

部下が「仕事が面白い」と感じ、モチベーション高く働いてもらえるように、今回の記事を参考にしていただければと思います。

(藤田 耕司 : 経営心理士、税理士、心理カウンセラー)

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