よかれと思ってやっている「部下の育て方」の盲点

消耗せずに成果が出る「情報の捨て方」

「口を出さない」という行為を徹底するためには、上の人間の胆力が必須条件です(写真:jessie/PIXTA)
現代人が1日に浴びる情報量は、おおよそ江戸時代の1年分、平安時代の一生分といわれています。
情報が増えすぎたことで、必要な情報にたどりつけない、ニセ情報に騙される、そんな事態が容易に生じうる時代だからこそ、私たちが今、真剣に考えるべきことは、「いかに情報を得るか」ではなく、「いかに情報を捨てるか」ではないでしょうか──。
トヨタ、TBS、アクセンチュア出身の戦略コンサルタントで、データサイエンティストでもある山本大平氏の新著『消耗せずに成果が出る「情報の捨て方」』より、私たちを消耗させる99%の情報を捨て、その先の1%に集中するコツを紹介します。

面倒見のいい上司は、いい上司か

あなたが上司、あるいは先輩である場合、「部下のミスを防ぐために細かく指導するのは当然だ」――そう考えてはいませんか?

昨今は、細かく丁寧な指示を出し、部下を管理してあげることが「面倒見のいい上司」とされる風潮があります。しかし、そのようなマイクロマネジメントは本当に必要でしょうか?

たとえば、部下が担当するプロジェクトの進捗や問題点をすべて把握しようとする。そして部下は、意思決定のたびに、上司である自分に確認を求めるようにする。そのうち、あなたは部下が送ったメールの1通1通に目を通すようになる……。

それでは、自分が処理しなければならない情報も増え、自身の業務にも支障をきたしてしまいます。

「いや、部下に失敗させたら、会社に損害を与えてしまう」。そう思うかもしれませんが、実際にはそうでもありません。

私はこれまで数多くの企業のコンサルをさせていただきましたが、99%の失敗は、実はあとからリカバリーできるものばかりです。

「顧客に提出するプレゼンテーション資料に重大な誤りがあった」「新製品のプロモーションの際、誤った価格情報を含むメールを大量の顧客に送ってしまった」「プロジェクト管理において、部下が締め切りを勘違いしてしまい、重要な資料が遅れて提出された」……。

想像するだけでゾッとする方もいるかもしれませんが、よくよく考えてみてください。これらも、すべてリカバリーできるものではありませんか?

私は現在、従業員を抱える経営者であり、1人の経営コンサルタントでもありますが、従業員の業務の進捗や詳細なメールは、よほどのことがない限り確認しません。

もちろん、ときにはそのスタイルで客先と大きなトラブルが生じることもあります。また、従業員が重大なミスを犯し、クライアントに大きなご迷惑をかけてしまうこともありました。そのようなときには私もリカバリーに追われることもありますが、これまでにリカバリーできなかった従業員の失敗は一度としてありません。

ならばいっそのこと「失敗させればいい」。手取り足取り教えるよりも、自分でやらせてみて失敗から学ぶほうが、結果として早く成長します。

つまり「わざと恥をかかせる」。

こう接することで部下は勝手に育ちます。何より、部下が自立できれば、マネジメントする立場であるあなた自身が、タスクの洪水に巻き込まれず、あなたにしか成果を出せない仕事に全集中することができます。

ぜひ、「教える」を捨ててみてください。社内全体でもその文化が浸透すれば、より生産性の高い企業に変貌を遂げることができますから。ただし、「口を出さない」という行為を徹底するためには、上の人間の胆力が必須条件になるでしょうが。

「仕事を任せる」4つのコツ

それではマイクロマネジメントをやめるために、部下とどのように接すればいいでしょうか。コツは次の4点を押さえることです。

①考えさせるための質問をする

たとえば、部下が「こうしようと思います」と言ってきたとき、あなた自身で「それで本当に大丈夫だろうか……」「もっとこうするべきなのではないだろうか」と、口を出したい衝動に駆られることはありませんか。

部下の思考が足りていないと心配になる気持ちはわかります。そうならば、まずは部下自身に思考を深めさせるよう促しましょう。

間違えても「答え」を教えてはいけません。

「どうしたらいいですか?」と聞かれて「こうしたらいい」という姿勢を示すのはもってのほかです。

「なぜそう思う?」と必ずWhyで問い返すようにしてください。

そして「なぜ?」をくり返したあとには、すかさず、部下の回答に対して「仮にこうなったらどう対応する?」「どんなメリットがある?」「どんなデメリットがある?」と3点セットでこれらの質問を順番に投げかけるようにしてみてください。

また、その対話の途中で、部下が質問を仕掛けてきても、決してその質問に乗らないようにもしてください。小利口な部下は質問返しでその場をしのごうとしてきますから。

とにかく、部下に自ら考えさせる機会を与え、自力で答えを導き出すよう促すのです。

ポイントは「うーん、わかった」

②否定も肯定もしない

また、部下の案に対して、いちいちフィードバックするのもやめましょう。手放しに肯定すると、部下は安心して考えることをやめてしまうかもしれません。逆に頭ごなしに否定すると、部下が萎縮するかもしれません。

ポイントは「うーん、わかった」。

たとえ部下の回答がいい線をいっていたとしても、その程度の反応に留め、部下がさらに深く考える「引っかかり」を残すことに専念してください。上司の役割は、部下のご機嫌取りではありません。自主性のある人材に育てることです。

部下の回答には「うーん、わかった」で返す、というクセをあなた自身が身につけてください。長らく経営コンサルタントをしていると、このように返す上司が時代の変化とともにうんと減ってきたと感じています。

リアクションを中途半端に返すことも立派なリアクションです。律儀に「きちんと返答してあげなければいけない」といったお作法は今すぐ捨てましょう。それはお作法でも上司の義務でもなく、あなたが自分自身に勝手に課している呪縛ですから。

部下に対する否定や肯定といった評価と説明こそ、組織を弱体化していることを知りましょう。

③結果が出たらインセンティブを与える

そして、部下が成果を上げたときには、適切な評価と報酬で報いる。これは、お金の総額ではありません。査定評価をいつもより少しでも高く設定する。それが会社の規定でできない場合は、「表彰する」でもかまいません。

要はわかりやすくその部下をみんなの前でほめること。これを徹底してみてください。そんなことで? と思われる方もいるかもしれませんが、「そんなこと」の徹底で一挙に空気が変わります。弊社のクライアントで、業績も好調な会社ほど、そんなちょっとした気遣いが細かいレベル感でできています。

上司であるあなたは部下に「安心感」と「モチベーション」を与える機会を、ぜひ能動的に探してください。自身がそんなこともできていないのに、「部下に成果を上げてもらおう」となんて虫がよすぎ。

もし「そんなこと恥ずかしくてできない」と思われるのなら、ぜひ、これまでの「古くさい慣習」と「その無意味な照れ」を捨ててください。

「あれどうなった?」はNG

④スケジュールの進捗管理をしない

そして、最後の4つ目ですが、これが最も重要です。それは、「部下の進捗を細かく管理しないこと」。

安易に「あれどうなった?」「いつまでに何を?」と細かくチェックしていませんか? あるいは管理するために「定例報告会」などをセットしていませんか? はっきり言いますが、すべて時間の無駄、です。

誤解を与えないために、解像度の高いスケジュールはもちろん必要ですが、「管理してはいけない」ということをあらかじめ申し上げておきます。

ゴールから逆算して、この日までに何を、この日までに何を、この日までに何を完了させるか──。部下が仕事に取り掛かる前に、これらのマイルストーン(=目標達成のための重要な中間点)を部下に提示させること、これだけに留めてください。

ただし、その段階で、マイルストーンがアバウト(解像度が低い状態)だったり、実現不可能なものだったりする場合には、そのスケジュールを出し直させてください。

そしてその上で最後にこう一言だけ付け加えます。

「もし、これらのマイルストーンが遅れるときは、すぐに相談に来るように」、と。この一言で縛っておくことで、スケジュール管理は部下自らが主導してやらないといけなくなります。

上司に適切なマイルストーンを提示できる人間は、客先にも同様に対応できる人材です。責任感を持って行動することができる部下には、安心して仕事を任せることができます。

そんな仕事のストーリーを描ける人材を、あなたのちょっとしたコミュニケーションの工夫で育ててください。「お膳立てされた部下のプチ成功機会」なんて小さいものは、上司であるあなたが捨て去らなければなりません。それがあなたの仕事です。

「我慢して見守る」のもマネジメント

ただ、人の成長カーブは右肩上がりではありません。

消耗せずに成果が出る「情報の捨て方」 (単行本)

いくら「泳ぎ方」を教えても、実際に泳げるようになるには、水の中で試行錯誤するしかありません。部下が成長する過程も同じ。しばらく平行線が続いたあと、急に伸びるケースが大半です。

「やらせてみて失敗させる。やらせてみて、また失敗させる」

そうやって、部下は恥をかき、立ち直り、自信を獲得しながら、着実に成長していけるようになります。

上司としてのあなたも、自身の重要なタスクに集中でき、さらに成長した部下が増えれば増えるほど、組織としてより大きな成果を上げることができるようになります。

(山本 大平 : 経営コンサルタント、F6 Design代表取締役)

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