立憲代表選、1期生の吉田晴美氏の参戦で急変化

(写真:時事)

自民党総裁選(12日告示・27日投開票)と同時進行となる立憲民主党代表選(7日告示・23日投開票)が、当初想定されていた“埋没”ムードを払拭する盛り上がりを見せている。前回衆院選初当選の吉田晴美氏(52)が、当初困難視された推薦人20人の高い壁を乗り越えて土壇場で出馬にこぎつけ、野田佳彦元首相(67)、枝野幸男前代表(60)、泉健太代表(50)に吉田氏を加えた「“四つ巴”の新旧対決の構図」(政治ジャーナリスト)となったからだ。

このため、当初は「立憲代表選は、自民総裁選のお祭り騒ぎによって完全に埋没する」(政治ジャーナリスト)とみられてきたが、「吉田氏の参戦で、メディアだけでなく国民の注目度も高まり、埋没説を打破しつつある」(同)のが実情だ。

小泉進次郎氏は“冒頭解散”断行を匂わせ

その一方で自民党は、先週までに小林鷹之元経済安保相(49)、石破茂元幹事長(67)、河野太郎デジタル担当相(61)、林芳正官房長官(63)、茂木敏充幹事長(68=岸田文雄総裁に職務委嘱)小泉進次郎元環境相(43)が相次いで出馬表明。今週も9日の高市早苗経済安保相(63)に続いて、10日には加藤勝信元官房長官(68)が出馬表明するため、すでに現行制度下で過去最多だった5人を大幅に超える8人の参戦が確実だ。

さらに、告示日までには上川陽子外相(71)の出馬も見込まれるうえ、齋藤健経済産業相(65)、野田聖子元総務相(64)も「推薦人確保まであと一歩」(関係者)と奮闘しており、「最大10人超の大乱戦となる可能性」(自民長老)もあるとみられている。

そうした中、国民的人気度から「総裁選の“大本命”」(自民長老)とされる小泉氏が、出馬会見で「できるだけ早く国民の信を問う」と10月1日召集予定の次期臨時国会での“冒頭解散”断行も匂わせた。これに対し、立憲側も「次期衆院選は政権交代への千載一遇のチャンス。自民を単独過半数割れに追い込めば、代表選勝者が次期首相候補になる」(野田氏)と意気盛んで、「今後の展開次第では、誰が立憲代表になるかが、総裁選にも影響を及ぼす可能性がある」(政治ジャーナリスト)との見方も広がる。

立憲民主代表選は7日午前、告示され、野田、枝野、泉、吉田の4氏(届け出順)が、党所属国会議員20人以上の推薦人名簿など立候補に必要な書類を提出、受理された。4氏の中で吉田氏だけが代表選初出馬。出馬に執念を見せた江田憲司元代表代行(68)は最終局面で断念し、吉田氏への一本化に応じた。

4氏は届け出直後に党本部で共同記者会見。その中で野田氏は、国民が不満を募らせている政治改革について「当事者の自民党にはできない。他の野党と連携し、うみを出し切る役割の先頭に立つ」と宣言。枝野氏は「政権の選択肢をつくる。自民党などを支持してきた人にも共感してもらえる理念を訴える」と現実的な政権構想づくりを訴えた。

その一方で、泉氏は「3年間、政権を担える政党をつくる一心で歩んできた。私に託してほしい」と代表としての実績をアピール。吉田氏は「(当選)1期生の挑戦などあり得ないという永田町の常識を変えたい。子どもが何をめざしてもいい、必ずチャンスがある国にする」と教育を軸とする旧来型の政治からの意識転換を訴えた。

泉氏、告示前夜の推薦人確保でも「大満足」

ただ、早々と出馬を決めた野田、枝野両氏に対し、吉田氏だけでなく現職の泉氏も推薦人確保に苦闘し、ようやく出馬にこぎつけたのが実情。かねて代表再選への意欲を明言していた泉氏が、最終的に推薦人を確保できたのは6日午前零時前で、衆院第1議員会館前の歩道上で記者団に「届け出日までにそろえばいいと考えていたので、もう遅いも早いもなく大満足です」と満面の笑顔で胸を張った。

そもそも泉氏は、4月の衆院3補選では「3連勝」した時点で代表続投は当然と考え、「推薦人はいつでも集まる」と自信満々だった。しかし、7月7日投開票の東京都知事選で、小池百合子知事の打倒を目指して擁立した蓮舫元民進党代表(前参院議員)が想定外の3位に沈んだことで党内の空気が一変。いわゆる「立憲共産党路線」での選挙戦を主導した泉執行部の責任が問われる事態となった。

そうした状況を踏まえて、党内に幅広い人脈を持つ枝野、野田両氏が先行出馬したことで、泉氏の出馬の可否が注目される状況に。追い詰められた泉氏は最大の支援組織である連合に頼り、関係議員などに接触したが不発に終わり、5日夜、党本部で江田氏、馬淵澄夫元国土交通相(64)と相次いで会談して協力要請したがこれも挫折した。このため、枝野氏を支える党内最大グループ「サンクチュアリ」と交渉を続けた結果、同日午後11時過ぎにようやく推薦人確保のメドが付いたとされる。

吉田氏は江田氏の「条件付き支持」で“滑り込みセーフ”

「第4の候補」を目指した吉田氏の推薦人集めはさらに困難を極め、告示当日の朝になってもなおもつれ続けた。そもそも立憲の所属議員は計136人のため、その時点での推薦可能な議員数は限られており、それを吉田、江田両陣営で奪い合う事態となったため、吉田氏は運動靴で自ら議員会館を走り回ることを余儀なくされた。

吉田、江田両氏は7日も朝から国会内で会談を繰り返した結果、立候補受け付け終了が約30分後に迫った同日午前10時半ごろ、両氏が記者団に対し「消費税の食料品非課税などの政策に合意したうえでの吉田氏への一本化」を発表した。吉田氏は「正直、もう駄目かと思う瞬間もあった」と苦笑し、江田氏は「ジェンダー平等を訴える政党の代表選に女性候補がいないのはおかしい。その危機意識だ」と語ったが、無念さは隠せなかった。

ただ、こうした大騒動の末の4人出馬、しかも自民党では考えられない当選1回の女性議員の参戦が、代表選を巡る注目度を大幅アップさせたのは間違いない。多くのメディアも「もし、野田、枝野、泉3氏による代表選なら、何も目新しさがないのでお付き合い程度の報道しかしなかった」(民放テレビ幹部)と口を揃えた。

吉田氏の戦いぶりが「党の浮沈占うカギ」にも

4氏出馬を受けた7日には、NHKをはじめ民放各局が定時ニュースで代表選情報を大きく取り上げる一方、BSも含めて各種情報番組にも4氏を招き、それぞれのコメンテーターらとの質疑応答などを報道し続けた。それにより、国民の注目・関心度も一気に高まり「まさに、吉田効果は絶大」(政治ジャーナリスト)となった。

そこで、永田町関係者の注目点は、「最終的に誰が次の代表になるか」だ。しかも、「大乱戦の自民総裁選と同様に、誰も1回戦で過半数を得られず、上位2人の決選投票にもつれ込む可能性」(同)も想定されている。その場合、決選投票に残れなかった3、4位陣営を絡めた多数派工作で勝者が決まることになる。野田、枝野両氏は「今からそんなことを考えるのはおかしい。政権奪取のための『党の顔』に誰が最適任かをその時点で考えればよい」と口を揃えるが、「自民並みの不透明な多数派工作もあり得る」(同)のが実情だ。

ただ、地方党員らの間では「吉田氏以外は全くインパクトがない」(次期衆院選候補者)との声が多い。このため「多くのメディアや国民は、吉田氏が上位争いをするかどうかだけに注目しており、今後の代表選は吉田氏を中心に回る」(政治ジャーナリスト)との見方が広がりつつあり、「吉田氏の戦いぶりが党の浮沈を左右するカギになる」(同)ことは間違いなさそうだ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)

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