総裁選「コバホーク」小林氏の背後にちらつく影

「コバホーク」と呼ばれる小林鷹之氏(写真:時事)

岸田文雄首相(自民総裁)の意表を突いた14日の総裁選不出馬宣言からわずか5日後の19日、先陣を切って出馬表明したのが「コバホーク」と呼ばれる小林鷹之前経済安保相(49)。岸田首相の決断を事前察知していたかのような“電撃出馬”が、ポスト岸田レースを一気に白熱化させ、出馬確実な小泉進次郎元環境相(43)との「KK40代コンビ」が総裁選の“主役”に躍り出そうな状況となりつつある。

その一方で、小林氏に先を越された「常連組」や「新顔」の10氏が出馬を目指して熾烈な推薦人争奪戦などを繰り広げ、週末の24日に石破茂元幹事長(67)、週明け26日に河野太郎デジタル相(61)と林芳正官房長官(63)が出馬表明する予定だ。さらに、高市早苗経済安保相(63)、加藤勝信元官房長官(68)も後に続く構えで、大注目の国民的人気者・小泉氏も月内にも出馬宣言するとの見方が広がる。

その一方で、出馬に意欲を見せる上川陽子外相(71)、斎藤健経済産業相(65)は推薦人確保の壁が高いとされるが、「すでに推薦人は確保している」として対応が注目される茂木敏充幹事長(68)は、9月初旬にも出馬表明するとみられている。このため、最終的な出馬人数は「最低でも8人」と見込まれ、過去最多の5人を大きく上回る大乱戦となるのは確実だ。

「脱派閥」小林氏の背後にちらつく安倍・二階両派

そこで注目されるのが、一躍時の人となった小林氏の総理・総裁候補としての力量と勝算だ。同氏は19日の出馬会見で真っ先に出馬表明した理由について「私はチャレンジャーの立場。私自身のビジョン、政策を1人でも多くの党員や国民に知っていただきたい」と笑顔も交えて語った。

同氏はこの会見でまず、「脱派閥選挙を徹底する」と力説。その言葉を裏付けるかのように、会見には小林氏を支持する安倍、二階、麻生、岸田各派と無派閥の当選1~5回議員計24人が同席し、小林氏の発言を拍手や歓声で後押しした。これについて小林氏周辺は「若さや刷新感を打ち出すのにベテラン勢がお目付け役でいたら何も変わっていないとみられる。今回は同席した議員が推薦人の中心的メンバーになる」(無派閥若手)と胸を張った。

また小林氏は会見で、巨額裏金事件を踏まえた政治改革について、「改正政治資金規正法で10年後の領収書公開などが盛り込まれた『政策活動費』のさらなる透明化や、政治資金をチェックする第三者機関の設置を進める」と前向きな姿勢を強調。ただ、この日同席した24議員には安倍派11人、二階派4人が含まれており、「裏金事件を受けて多くの議員が処分された安倍、二階両派の影がちらつく」(政治ジャーナリスト)との声も相次いだ。

与野党双方での批判招く「安倍派擁護」の姿勢

小林氏は8月上旬のインターネット番組で、処分された安倍派議員らが要職から除外されている現状を巡り「処分を受けた方も一人一人は優秀だ。挙党一致で取り組まないと国難を乗り越えるのは難しい」などと述べていた。このため出馬会見で改めて見解を問われると「要職を外れた方を元に戻すとは一切申し上げていない。処分されていない議員で役職を外されている方がいるので、国民の一定の理解を得られた時点で適材適所の人事を行うことが大切だという趣旨だった」と述べるなど軌道修正を余儀なくされた。

また会見参加者からの「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側と親密な関係ではないのか」との問いには、かつて教団関連のイベントに出席した事実を認めたうえで「軽率だったと反省している。選挙支援の依頼や金銭のやりとりはなく、今後関わりを持つつもりもない」と強調したが、応答には歯切れの悪さが目立った。

出馬会見で高らかに「脱派閥」をアピールした小林氏だが、自身は二階派に所属し、出馬表明にあたっては、裏金事件の責任をとって次期衆院選への不出馬を表明した二階俊博元幹事長にも報告したとされる。会見後に出演したフジテレビ系『Live News イット!』で「派閥のボスと決別できるのか」と問われた小林氏は、「今やるべきことは、後輩から大先輩に至るまですべての人材の能力や経験を結集して、自民、日本の課題に向き合っていくということだ」とやや苦し気な表情でかわした。

小林氏の一連の言動に、安住淳・立憲民主国対委員長は19日の記者会見で「小林氏の会見に派閥から裏金を受け取っていた議員が複数同席していた。裏金議員ロンダリングになってはならない」と批判。その一方で自民内からも「安倍派をかばっちゃだめだ。自民党はあの人たちのせいで迷惑をこうむっているんだから」(茂木派若手)と小林氏の姿勢を疑問視する声が相次いだ。

裏金問題での対応に「若いのに残念」と橋下氏

そうした中、出馬表明後の小林氏は各種メディアから“引っ張りダコ”となり、連日連夜、民放の情報番組やネット番組で自らの目指す国家像やそのための政策を説明する一方、普通の家庭に育って東大ボート部ではキャプテンを務め、その間に父親の事業の失敗で生活に苦労したことなど、“自分語り”で視聴者に好印象を与えようとしているように見える。

ただ、表向き盛り上がったかに見えた出馬会見も、実際に取材した記者団らの間では、「わざとらしい演出も多く、肝心の政策も理想論ばかりで、しかも背後に財務省の影が垣間見える」(夕刊紙幹部)と厳しい指摘が少なくなかった。同会見は冒頭部分をNHKが生中継したが、途中でNHK政治部の解説に切り替わったため、多くの視聴者はネットでの生中継にシフトするとみられたが、案に相違して「ネットでの視聴者数はほとんど増えず、視聴者の書き込みも厳しいものが多かった」のが実態だ。

日本維新の会の創始者で今や最有力コメンテーターの橋下徹氏も「小林氏は『裏金問題は検察でなければ調査できない』と言っていたが、そんなのリーダーの腹の括り方次第。嘘がバレたら公認取り消しとのルールを作って調査すればいいだけ。検察は刑事罰の調査。それと政治的な調査は異なる。小林氏、若いのに残念」と自らのXに投稿した。

「頑張れ」と激励した岸田首相の政策路線を継承

そうした中、小林氏は21日午後、首相官邸を訪ね岸田首相に総裁選出馬を報告。面会後記者団に対し、「(岸田首相は)『頑張れ』とおっしゃった」と笑顔を見せたうえで「(岸田首相は)経済、外交、安全保障、国家的な課題に正面から向き合ってこられた。私も基本的なところは継承しながらやっていきたい」と“岸田路線”を継承・発展させる考えを示したという。

その小林氏だが、先行出馬で注目された結果、総裁選候補内での支持率はほぼゼロから急上昇し、一部メディアは「2K(小泉・小林両氏)のトップ争い」などと煽り立てる。ただ、「党員・党友」の支持状況を巡る一部メディアの事前調査では「現状では小泉氏らに到底届かない」との結果も。

さらに、一部週刊誌では東大法学部同期で結婚した愛妻が立憲民主党にも招かれるリベラル派弁護士であることなど「タカ派エリートを巡るネガテイブな情報」が次々取り上げられている。このため、「足を引っ張ろうとするメディアの洗礼をどう乗り越えるか」(政治ジャーナリスト)が総裁選で飛躍するための最大の課題となりそうだ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)

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