自民党総裁選の仕組みと「勝者を決める条件」

出馬表明した河野太郎氏(写真:時事)

岸田文雄首相(自民総裁)の退陣表明を受けての後継首相を選ぶ総裁選の投開票まで1カ月。すでに26日までに小林鷹之前経済安保相(49)、石破茂元幹事長(67)、河野太郎デジタル相(61)が出馬表明し、続いて小泉進次郎元環境相(43)が30日に出馬会見、その前後に林芳正官房長官(63)、高市早苗経済安保相(63)も名乗りを挙げる見通しだ。

さらに、推薦人確保に自信を見せる上川陽子外相(71)や茂木敏充幹事長(68)が9月第1週にも出馬表明する見通しで、斎藤健経済産業相(65)、加藤勝信元官房長官(68)も推薦人が確保できればその時点で参戦する構え。また前回出馬した野田聖子元総務相(63)に加え、青山繁晴参院議員(72)も推薦人集めを続けている。このため今回総裁選は「最低でも8人、最大10人超と過去最多の候補者による“大乱戦”となるのは確実」(政治ジャーナリスト)とみられている。

そこで、改めて注目されているのが、今回の総裁選の仕組みと、告示から投開票までの展開予測だ。とりわけ、党本部と選挙管理委員会が決めた「総裁公選の仕組み 2024年版」の詳細をみると、「想定される戦いの構図と、各候補の優劣に直結する要素が満載」(同)であることがわかる。

そこで、今回総裁選の仕組みと段取り(下記の図表参照)を基に、想定される具体的な選挙戦の展開と、それに伴う各候補競い合いの「有利不利」を踏まえて、「勝負の分かれ目」や「勝者を決める条件」などを分析してみると……。

立憲民主代表選と同時進行、高まる国民の注目度

今回の自民総裁選は「9月12日告示―27日投開票」の日程で実施される。15日間という選挙期間は過去最長で出馬候補も過去最多が確定的。しかも、「9月7日告示―23日投開票」の立憲民主党代表選と同時進行となるため、10月以降の政局展開を決める「9月の2大政治イベント」となる。

さらに、次期衆院選での政権交代の可能性も想定される中、その勝者は衆院選後の「与野党双方の首相候補」となるため、国民の注目度も高まっている。

そこで、今回総裁選に出馬する候補者たちをそれぞれの政治経歴などから分類すると、小泉、小林両氏の「40代KKコンビ」と、石破、茂木各氏ら「60・70代実力者たち」による、事実上の“世代対決”ともなる。その一方で、総裁選挑戦が2回以上となる「常連組」と「初舞台組」がほぼ半々となる見通しで、過去に例のない“群雄割拠”の激しいつぶし合いが展開されそうだ。

まず、総裁選の最初の重要ポイントとなるのは、告示後の恒例行事として日本記者クラブが主催するプレスセンター10階会見場での候補者討論会。NHKが生中継し、多角的なテーマ設定による記者クラブ代表との質疑や、各候補同士の個別論争での“優劣”が、その後の各テレビ局やネットメディアなどによる討論会での各候補の「論戦でのランクづけ」(政治ジャーナリスト)ともなるからだ。

今回は「地方票トップ」が優位に

続いて、告示後最初の週末に大手メディアが実施するとみられる「党員・党友対象の情勢調査」の結果が、その後の総裁選の展開を大きく左右する材料となる可能性がある。過去には「情勢調査の大幅リードでタガが緩んで大逆転を許したケース」と、「地方票トップという数字がさらなるリードにつながったケース」があるが、「すべては調査結果とその後の展開次第」(自民幹部)とういうのが実情だ。

ただ、今回総裁選がこれまでと明確に異なる要素としては、地方票で圧倒的トップとなり、議員票との合計でも2位以内となった候補者が存在すれば「議員票が中心の『決選投票』でも圧倒的優位になる」とみられている点だ。というのも「地方票で断然トップの候補者を派閥主導の議員票で引きずりおろせば、間近に迫る衆院選での反自民票の拡大につながりかねない」(政治ジャーナリスト)からだ。

前回2021年総裁選では、議員票1位で地方票2位だった岸田氏と、地方票で圧倒的1位だった河野太郎氏(議員票は3位)は、1回戦の合計得票で「岸田256対河野255」とわずか1票差だったが、決選投票では岸田氏が87票の大差をつけて当選した。しかし、「今回はそのような大逆転はあり得ないし、できない」(党幹部)というのが自民党内の常識だ。

今回も各候補者がそれぞれ獲得した地方票は、投開票日の午前中に全体の集計を踏まえて「ドント方式」で各候補者に配分される。ただ、「これまでの例では、その情報が昼過ぎからの議員投票の直前に会場で飛び交い、それが勝敗を左右する結果となった」(閣僚経験者)とされるだけに、「今回も議員投票の段階で多くの議員が必死で情報収集に駆け回る状況」(同)となるのは避けられそうもない。   

上位2人の地方票が僅差なら、派閥主導の決着も

その一方で、「上位2人の地方票が僅差となった場合は、議員票で当落を決めるのは当然」(長老)との指摘が多い。ただその場合でも「あからさまな派閥の合従連衡で当選者が決まれば、国民からは『新生自民党』どころか『古い自民党』とみなされることは確実」(同)だ。このため「今回ばかりは各派幹部らが、足並みをそろえて派閥単位の締め付けを自粛し、各議員の自主判断に委ねて結果を待つしかない」(無派閥有力議員)との声も出ている。

しかし、熾烈を極めている推薦人獲得競争の際にも、足並みが乱れた各派閥の幹部の大半は「決選投票は派閥単位で結束して、“勝ち馬”に相乗りして主流派になる」(麻生派幹部)との戦略を口にしていただけに、「結果的に、派閥主導の決選投票を避けることは極めて困難」(政治ジャーナリスト)であることは否定しようがない。

いずれにしても、新総裁誕生まであと1カ月。「これまでの党内状況をみる限り岸田首相が退陣会見で繰り返した『新生自民』の実現には、党全体の意識改革が必要」(同)で、「お祭り騒ぎの多数派工作より、自民党の将来を見据えての真剣な論争ができなければ、政権を担う資格を厳しく問われる」(同)ことは間違いなさそうだ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)

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