「新鮮味ない」立憲代表選、自民"お祭り騒ぎ"に埋没

立憲民主党代表選への出馬を表明する枝野幸男前代表(写真:時事)

立憲民主党の代表選告示まであと9日、再選を目指す泉健太代表(50)の有力対抗馬は枝野幸男前代表(60)と野田佳彦元首相(67)となる方向で、選挙戦はまさに“昔の名前”が前面に出る構図になりつつある。次期衆院選での政権交代をにらみ、「即戦力となる首相候補を」(党幹部)という思惑だが、新鮮味に欠けることで国民の注目度は低く、同時進行の自民総裁選の「お祭り騒ぎ」に“埋没”しているのが実情だ。

立憲民主は今回代表選の日程を自民総裁選にぶつける目的で、早々と9月7日告示―23日投開票と設定、対する自民は9月12日告示―27日投開票とすることで「立憲代表選の宣伝効果を封じ込める作戦」(党幹部)を選択した。

しかも、小泉進次郎元環境相(43)と小林鷹之前経済安保相(49)の「40代コンビ」と石破茂元幹事長(67)、茂木敏充幹事長(68)らベテラン実力者との「世代間対決」とすることで、有権者の「党員・党友」だけでなく国民の注目も集め、メディアもそれを煽りたてる展開となっている。

「トリプル補選」圧勝も都知事選惨敗で“元の木阿弥”

そもそも、今回の代表選は過去3年間の党運営とその結果を踏まえ、現代表の再選か交代かを決める選挙。となれば、岸田政権発足直後の2021年10月31日投開票の前回衆院選では、立憲民主は13議席減の敗北、翌年7月の参院選も6議席減と国政選2連敗で、「明らかに泉代表の責任が問われる流れ」(幹部)だった。

しかし、昨年秋の自民の巨額裏金事件発覚から状況が一変。今年4月の衆院トリプル補選では、立憲と自民の一騎打ちとなった島根1区で完勝したうえ、自民不戦敗の東京15区、長崎3区も圧勝、一気に次期衆院選での政権交代に弾みをつけたかにみえた。当然、その時点では泉代表の続投ムードが強まったが、通常国会閉幕を受けての7月7日投開票の東京都知事選では、満を持して擁立した蓮舫元参院議員(元民進党代表)が、自公両党の支援を受けた小池百合子知事とは大差の3位に沈んだことで「“元の木阿弥”となって、政権交代ムードも消し飛んだ」(政治ジャーナリスト)というのがこれまでの経過だ。

都知事選では、小池陣営などから“立憲共産党”と攻撃された「共産党との全面共闘」が最大の敗因とされたため、それを主導した泉代表の責任論も拡大。さらに、お盆の最中の8月14日に、岸田首相が突然、総裁選不出馬による退陣を表明したことで「岸田政権という自民攻撃の最大のターゲット」(幹部)も失い、自民総裁選との同時実施で埋没する事態となったのだ。立憲と泉代表にとって「過去半年はまさにジェットコースターに乗っているような状況」(同)だったことになる。

最有力・枝野氏の「古い政治に終止符」に反発も

そこで問題となるのが、野党第1党としての代表選への取り組み姿勢だ。先頭を切って出馬表明した枝野前代表は、出馬会見で「古い政治に終止符を打ち、新しい時代へ向かって進む時だ」と前置きし「この国のあるべき姿や党が進むべき道を、自信を持って掲げていくことが私の役割。逃げることなく時代の転換の先頭に立つのがわたしの使命だ」と出馬の理由を語った。

これには党内からも「枝野氏のような昔の名前がしゃしゃり出てはダメ。そもそも、3年前の衆議選敗北の責任をとって代表を辞任した人物が、『古い政治に終止符を打ち、時代の先頭に立つ』と言うこと自体がナンセンス」(若手幹部)との批判が相次ぐ。さらに、枝野氏の他に現代表の泉氏、総理経験者の野田佳彦氏、元代表代行の江田憲司氏、元国交相の馬淵澄夫氏が出馬を検討している状況だが、「いずれも『昔の名前』に属する人たちばかりで、国民が期待する刷新感はみじんもない」(同)のが実態だ。 

そうした中、26日になって突然、当選1回の吉田晴美衆議院議員が出馬への意欲を表明した。今回代表選で女性議員が手を挙げるのは初めてで、党内にも大きな波紋を広げた。吉田氏は2021年衆院選東京8区で出馬、自民党の石原伸晃元幹事長を破って初当選して注目された人物。代表選出馬を目指すにあたり「永田町に染まっていない私達1期生の視点から、そして生活に密着した私達女性の視点での代表選の論戦、これを喚起していきたい」と胸を張った。

そこで問題となるのが、代表選の仕組み。自民党と同じ推薦議員20人を出馬の条件としている点だ。立憲民主の衆参議員は133人で自民党の36%強。仮に全員が誰かの推薦人になっても、立候補できるのは最大6人で、泉代表すら推薦人が確保できるか微妙というのが実態だ。

しかも依然として一定の影響力をもつ小沢一郎氏が率いる「一清会」(約15人)は「候補者が出揃った段階で誰を支持するか決める」(小沢氏)としているため、「実際には出馬できるのは5人以下」(党幹部)とみられている。だからこそ、吉田氏らは推薦人20人について「ハードルが高すぎる」と注文をつけるが、執行部は「次回から検討する」という煮え切らない対応だ。

立憲党内には自民の派閥と同様に複数のグループが存在する。その中で、旧立憲民主党の生みの親である枝野氏はコアな党員からの支持を背景に、推薦人も確保できたとみられる。また野田氏には首相経験者としての安定感があり、党内の若手・中堅からなる「直諫の会」が出馬要請し、小沢氏のグループも推す構えで、推薦人確保は確実だ。一方、党関係者は「泉氏でも推薦人確保には不安があり、馬淵氏は極めて困難」と指摘。さらに吉田氏についても「若手や女性が総決起しない限り出馬は困難」とみている。

人気トップの野田氏、ネックは「維新との近さ」

そうした中、毎日新聞が24、25日に実施した全国世論調査「誰が代表に選ばれてほしいか」では、1位が野田氏(27%)で、2位枝野氏(14%)、3位泉氏(7%)と大差をつけた。ただ、これを巡って永田町関係者は「野田氏の最大のネックは維新との関係」と指摘する。

野田氏は今年3月にテレビ番組で維新との候補者調整の必要性を訴え、「地域性を鑑みて、関東を立憲、関西を維新というように調整することで、自民党と対峙すべきだ」と主張した。これについて「野田氏は千葉なのでいいが、関西の議員や関係者にしてみれば、すみ分けどころか切り捨てだから受け入れられないので、代表選でも争点になる」と指摘した。野田氏は8月23日、維新の勉強会に講師として出席したこともあり、「維新と組んで党内保守中道勢力を結集して、左派を追い出す考えではないか」(党幹部)との疑心暗鬼も広がる。

その野田氏は、つい半月前には「『昔の名前で出ています』じゃあいけない」と昭和歌謡の一節を持ち出して出馬を否定。そのうえで代表選を政権交代に向けたステップと位置づけ「自民党の総裁候補と同じぐらい人数が出て、年齢とか性別とかいろんなバランスを戦略的にやった方がいい」と多様な人材による代表選が望ましいとの考えを示していた。このため、今回自ら出馬すれば、「言ってることとやってることは真逆」との批判も避けられない。 

自民総裁選で候補者として女性や若手の名前が挙がることに、立憲中堅は「自民は総裁選になると新しい人材が出てくるが、立憲は人材を育てる仕組みを持っていない」と指摘したうえで、「泉氏が代表になって以降、本当に政権交代できるとは思わずに3年間を過ごしてしまった」と天を仰ぐ。確かにこのままでは「政権交代どころか永遠の野党になるしかない」(政治ジャーナリスト)というのが実態だ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)

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