北海道が提案、函館「新幹線アクセス線廃止」の愚

新函館北斗駅と函館駅を結ぶ北海道新幹線アクセス鉄道「はこだてライナー」(写真:yossanmy/PIXTA)

2023年12月27日、北海道新幹線の札幌延伸に伴いJR北海道から経営分離される区間のうち函館―長万部間のあり方を協議する北海道新幹線並行在来線対策協議会渡島ブロック会議が1年4カ月ぶりに開催された。

函館―長万部間の鉄路存続は決まっているが…

宇野稔弘北海道交通企画監を座長とする協議会では道側は、北海道新幹線のアクセス路線として輸送密度が4000人を超える函館―新函館北斗間も含めて全線のバス転換を沿線自治体に対して提案。バスドライバー不足で既存のバス路線の減便・廃止が相次ぐ中で、貨物の問題も含めて鉄道路線の存廃を保留しバス転換を議論するという協議を進めている。

北海道新幹線の並行在来線となる函館―長万部間については北海道と本州を結ぶ貨物列車の幹線ルートとして北海道で生産される農産物等の重要な輸送ルートであることから、貨物列車については維持をするという方向で、国、北海道、JR北海道、JR貨物の4者が合意している。

旅客列車のあり方が今後の議論の争点となるが、道が主導する協議会において先に廃止の方針が決定された長万部―小樽間については、深刻化するバスドライバー不足に加え、本来は廃止の対象とはならない輸送密度が2000人を超える余市―小樽間の廃止まで決めてしまったことから、バス転換協議が泥沼化し中断に追い込まれたことは2023年11月7日付記事(北海道新幹線「並行在来線」バス転換協議が中断へ)で詳しく触れている。

しかし、道が協議会の場で沿線自治体に対して提案した内容は、全路線を鉄道路線として維持した場合には30年間で744億円の赤字が生じるのに対して、函館―新函館北斗間のみを残してバス転換した場合には391億円の赤字。さらに、全路線のバス転換だと106億円の赤字で済むという試算だった。バス転換のルートについて道は、函館―新函館北斗、函館・新函館北斗―森、函館・新函館北斗―鹿部、鹿部―森、森―長万部の5つのルートとすることを想定。存廃の最終判断を2025年度中に行い、函館バスとの協議に入るというものだった。

赤字を膨らませる「印象操作」

30年分の赤字額を提示するのは、鉄道の赤字額がいかに膨大であるのかという印象操作を行う道のいつもの手法である。また、道の試算については、鉄道の経費を過剰に見積もっているとの有識者からの指摘もある。今回も費用便益分析などの多面的な評価は行われず、協議の場に函館バスは呼ばれていない。なお、函館バスでは深刻な労使紛争を抱えているうえに、ドライバー不足の影響などからほかのバス会社と共同運行している函館―札幌間を結ぶ高速はこだて号の便数半減を行っている。

道がバス転換を提案した函館―長万部間のうち、函館―新函館北斗間は、函館市中心部と北海道新幹線の新函館北斗間のアクセス路線として機能しており、輸送密度は4000人を超える。さらに函館市が函館駅までの新幹線の乗り入れを視野に調査を進めている区間でもある。並行在来線のうち先に廃止の方針を決めた長万部―小樽間については沿線のバス会社が代替バスの引き受けが困難だとして協議が中断に追い込まれた。函館―新函館北斗間の輸送密度は、このうちの余市―小樽間の輸送密度2000人をはるかに超え、函館―長万部間全線のバス転換が現実的ではないことは明らかだ。

ある地域関係者は「職員の無駄な労力と人件費をかけて意味不明な提案を沿線自治体に対して行う道の仕事ぶりは完全な税金の無駄遣い。北海道民を愚弄している」と怒りをあらわにする。

2022年3月に後志ブロック会議で廃止の方針を決めた長万部―小樽間については、協議を主導した道がバス会社との相談を始めようとしたのは同区間の廃止の方針を決めてから1年以上が経過した2023年5月となってからのことだったことが、筆者が番組監修を担当したBSフジ・サンデードキュメンタリー「今こそ鉄路を活かせ!地方創生への再出発」番組内での北海道交通政策局・小林達也並行在来線担当課長へのインタビューで明らかにされた。さらに小林課長は並行在来線の鉄道としての維持について「財政的な負担」であると述べ、廃線は決まったこととしてバス転換以外の選択肢は一切排除する姿勢だということも浮き彫りにした。

番組内では、沿線にバス路線網を展開する北海道中央バスについても取材を実施。特に輸送密度の多い余市―小樽間をバスに転換した場合、通勤通学の時間帯に十数台のバスとドライバーの手配が必要になるが、これが可能なのかとの質問を行ったところ「無理だ」と回答している。

その後、後志ブロック会議は1年以上に渡って協議が中断する異常事態が続いていたが、2024年8月28日に1年3カ月ぶりに開催された会議では、はじめて北海道中央バス、ニセコバス、道南バスの3社が呼ばれ道側が運行本数など鉄道代替バスの内容を説明。説明を受けた3社はいずれも既存のバス路線を維持するだけで手いっぱいの状態で、道が提案した鉄道代替バスの本数の確保は一様に困難であるとの姿勢を示した。

バスでは「積み残し」が出る

そのような中で、バスの現場関係者からは「せめて倶知安までは鉄道を残してほしいのが本音です」という声が漏れ聞こえてくる。今や国際的なリゾートエリアとなった倶知安駅を中心とするニセコエリアは、冬季間は例年大変な混雑状況となり、リゾートエリアまでバスを利用する観光客も多い。特に「外国人観光客は、大型のキャリーケースを持って移動することから、定員70人のバスではどんなに詰め込んでも35人程度しか乗せられない現状がある」という。

函館本線の倶知安―小樽間も大変な混雑で1両の定員が99人で扉の間口が広いH100形気動車でも時には積み残しがでるほど乗降に難儀している状況から、前出の関係者によると「バス1~2台ではとてもさばける状況にない」という。JR北海道は、あまりの混雑から2024年2月には、日中の一部の列車を2両編成のH100形から、3両編成ロングシートで1両の定員が141~153人のキハ201系に置き換えて運行を行った。当初は2月3日から18日まで限定的に実施する予定だったが、その後もしばらくの間、週末にキハ201系の運行が継続された。

新幹線ができればインバウンド客はすべて新幹線に移るという楽観的な声もあるが、そもそもドライバーが足りていない中で、そのドライバーを長万部―倶知安―小樽間の鉄道代替バスの運行に充ててしまえば、倶知安駅から各観光拠点を結ぶバスを確保できなくなる懸念が生じる。

さらに地域の交通網は黒松内、倶知安、余市で分断され現状の在来線よりも時間がかかり居住性の劣るバスに置き換わると小樽方面に向かう高校生の通学等も困難になり、地域経済や住民生活に混乱が生じることが予測される。また、こうした楽観論は2次交通として在来線を活用することで経済効果を地域に波及させる視点がない点も問題だ。

国土交通省では2018年より「鉄道における自動運転技術検討会」を定期的に開き、2022年9月には「地方鉄道にも自動運転の導入を想定する」という方針を取りまとめている。これまでの鉄道の自動運転は、踏切のない全線立体交差でかつホームドアが完備された都市部の路線では実用化されていた。これを国家資格を持たない前方監視員を乗務させることで踏切もありホームドアも普及していない地方鉄道にも拡大していこうというものだ。バスドライバー不足から鉄道路線の廃止が公共交通機関の消滅に直結する地方にとっては、前方監視員乗務型の鉄道自動運転の普及が交通崩壊の歯止めになる可能性も考えられる。

質問に正しく答えられない北海道

こうしたことを踏まえて、筆者は道の交通企画課に対して、「バスドライバー不足が深刻化し長万部―小樽間の廃止を強引に決定したことについて批判が出ている中で、なぜ、函館―長万部間もバス転換にこだわるのか」、「なぜ、昨今の鉄道プロジェクトにおいて一般的に用いられる費用便益分析などの多面的な評価を行おうとしないのか」という質問を2点ぶつけてみたところ、担当の山中徹也主幹は「函館バスと実務的な検討を進めることを協議会の場で確認した」、「今後の多面的な検討の必要性が協議会の場で判断されれば選択肢として否定されるものではない」と回答した。

要するに道が言いたいのは「今後の検討次第」ということだが、「なぜ提案したのか」という筆者の質問には正面から答えていない。道はなぜ鉄路廃止にこだわるのか。鉄路を経済発展や観光振興に活かす手立てについても検討すべきではないだろうか。

(櫛田 泉 : 経済ジャーナリスト)

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