「3時ぐらいに来るさぁ」でいい沖縄の仕事スタイル

(写真:masy/PIXTA)
ビジネスチャンス、そして暮らしやすさを求めて、沖縄に進出する人は少なくありません。一方で、撤退する人も同様に多いと言われます。「沖縄は日本語の通じる外国と考えたほうがうまくいく」と話すのが、琉球王国を建国した尚巴志王の末裔であり、沖縄進出コンサルタントとして、「本土企業」のお手伝いをしている伊波貢さん。沖縄独自のビジネス慣習「沖縄ルール」について、伊波さんの著書『沖縄ルール 知っておくとビジネスも人間関係もうまくいく!』から紹介します。

一定の不良品が出るのはしょうがない!?

沖縄文化を表現する言葉の1つに「テーゲー」があります。物事を徹底的に突き詰めて考えずに、ほどほどの加減で生きていこうという概念で、「大概」に由来する方言だと言われています。ビジネス現場でテーゲーというと、仕事がいい加減など、ネガティブなニュアンスが内包されている印象です。

しかし、大城太さんの著書『最強のうちなーシンキング』では、70点主義者のテーゲーだからストレスが溜まらない、華僑と同様の思考である、独りよがりの完璧を目指して疲れるよりも、スピードを重視して、ある程度の出来の段階で確認を入れて進めるのがネット時代の仕事の仕方だと説かれています。

日本はものづくり国家ゆえか、完璧に仕上げようという意識が強い国民性ですが、沖縄のほうが世界感覚に近いのかもしれません。

例えば、完璧すぎる新幹線システムは海外販売で苦戦しています。分刻みで正確に運行する特殊技術はコスト見合いの点や、その国の文化になじまないらしく海外ではウケが悪いようです。また、私自身、北欧製ベビーゲートを購入したものの、1カ月でコード巻き取り部分が故障。クレームを入れると2日後には新品の商品が送られてきました。

よく聞く話ですが、日本では徹底的に不良品を出さない管理体制を構築する傾向があるといわれ、海外では一定の不良品が出るのは「しょうがない」と捉える場合が多いようです。クレームが来たら新品を送付するなどの対応で十分というわけです。

70点主義でまずは行動して次の展開を柔軟に考え、不足分は多くの人の助けで仕上げたり、別の方法を考える余地を残すと思えば、テーゲー主義も悪くはないのではとも思えます。

沖縄の時間感覚は世界基準!?

沖縄では、「3時ぐらいに来るさぁ」という言い方をしばしばします。これは、本土の人が沖縄で仕事をすると戸惑う表現です。“ぐらい”ってなんだろうと。この“ぐらい”の幅は意外に広くとられています。10分前に来ることもあれば、30分過ぎに来ることもあるでしょう。華僑でも、同様に「ゆるアポ」という概念があるそうです。ビジネスだと無責任だと憤慨する人もいるでしょうが、時間を守るということが目的ではないはずです。その時々でビジネスチャンスを逃さないように敢えて時間のゆとりを持たせるわけです。

(画像:『沖縄ルール 知っておくとビジネスも人間関係もうまくいく!』より)

私がもっとも驚いた経験では、ある県内経営者にアポを入れて伺ったら、別の方と打ち合わせ中でした。しかし、「一緒にやろう」となり、初対面の方を交えて三つ巴の奇妙な打ち合わせとなりました。

完璧主義の罠にとらわれず、相手のゆるさを許容する姿勢があれば、ストレスを感じにくく、意外に仕事もスムーズにいくものです。沖縄流テーゲー型ビジネススタイルは、世界に通じると思って、肩の力を抜いて沖縄でのビジネスにトライしてみてください。

PDCAサイクルを回すのが苦手な沖縄人気質

本土のビジネス社会では「PDCA信仰」が強いと感じます。いうまでもなくPlan「計画」→Do「実行」→ Check「評価」→Action「改善」をひとつのサイクルとし、継続的に回転させることで成果をあげていくスタイルです。

しかし、沖縄ではこのやり方ではうまくいかないことが多いようです。もともと沖縄人はPDCA型ではありません。インプットや経験値が少ししかなく、十分な計画ができていなくても、ひらめいたり、思いついたらすぐ始めるのが沖縄人の気質です。たとえば起業もそう。建設会社でもIT企業でも、業界で少し経験を積めばすぐ独立し、ビジネスを始めます。「そんな状況で大丈夫!?」と心配になるし、実際に失敗することもあります。しかし、走りながら軌道修正することで成功につなげていく人もいるのです。

企画書や報告書づくりも同じ。本土企業では精緻なPlan「計画」づくりにパワーをかけがちです。任された担当者はストレスを抱えながらも、90点くらいの完成度まで企画書を仕上げるでしょう。でも、沖縄では企画書も「だいたいこんな感じでいいですか?」と、70点くらいの完成度であがってくる。ナイチャー(本土の人)からすると「こんなアバウトな仕事をするなよ」とイライラするかもしれません。

では、本当に70%ではダメなのでしょうか? テーゲー思考では成功しないのでしょうか? それは考え方次第です。今70点なら、あと30点分の伸び代があると考えればいいのです。PDCAを重視しすぎると、メンバーが萎縮してしまい、能力を生かし切れない可能性もあります。無理強いすると、担当者のモチベーションが下がり逆効果になることもあります。

(画像:『沖縄ルール 知っておくとビジネスも人間関係もうまくいく!』より)

マネージャーに求められるのは、最初から90点を求めるよりも、こまめにフォローしながら軌道修正して、メンバーを育て、成果をあげていこうというスタンスです。ギチギチに指導をしてメンバーにストレスを与えるのではなく、素早くボールを投げて、キャッチボールを繰り返すのが沖縄流だと考えてみてください。

計画が未完成でも行動を起こし、軌道修正しながら成功を収めるというやり方は、中国人と似ているようです。行動の早さは中国企業がアジア市場で成功している要因のひとつとも言われています。日本企業が計画づくりに時間をかけている横で、さっさとビジネスを立ちあげて回転させながら実績をつくっていくのです。

70点主義で走りながら考えるのが沖縄流

沖縄ルール 知っておくとビジネスも人間関係もうまくいく!

PDCAの対極となる手法として「iOIF」という考え方があります。「小さなインプット(i)」ですぐに「アウトプット(O)」、行動しながら足りないモノを「インプット(I)」。そして「フィードバック(F)」して見直すというスタイルです。

これは70点主義の「テーゲー」思考にも通じる考えです。最初から高い完成度を目指して計画するよりも、まずは行動する。行動から得た体験を生かして次の展開を柔軟に考え、うまくいかなければ別の展開を考えればいいのです。そのスタイルを高回転で回すのがミソです。「テーゲー70点」で上等、「走りながら考える」のが沖縄流なのです。

(伊波 貢 : 沖縄進出コンサルタント)

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