所得だけではわからない沖縄の幸福度が高いワケ

(写真:Jact /PIXTA)
ビジネスチャンス、そして暮らしやすさを求めて、沖縄に進出する人は少なくありません。一方で、撤退する人も同様に多いと言われます。「沖縄は日本語の通じる外国と考えたほうがうまくいく」と話すのが、琉球王国を建国した尚巴志王の末裔であり、沖縄進出コンサルタントとして、「本土企業」のお手伝いをしている伊波貢さん。沖縄独自のビジネス慣習「沖縄ルール」について、伊波さんの著書『沖縄ルール 知っておくとビジネスも人間関係もうまくいく!』から紹介します。

所得や人口だけで判断するとマーケットサイズを見誤る

2023年9月現在、沖縄県の推計人口は約147万人です。しかし、この人口をベースにマーケティングをすると判断を見誤る恐れがあります。沖縄の場合、県民のほかに米国軍人・軍属が約4万7000人住んでいるといわれます(正確な数字は非公表です)。

さらに、住民票を移動させていない住民や2拠点居住者、民間企業の沖縄駐在員も数多くいます。さらに観光客が年間で約1000万人(コロナ前の水準)が訪れます。こうした要因を考慮すると、沖縄の実際の購買人口は少なくとも160万~170万人ぐらいにはなるでしょう。意外にも人口に比べ、マーケット規模は大きいのです。

(画像:『沖縄ルール 知っておくとビジネスも人間関係もうまくいく!』より)

そもそも沖縄の県民所得は全国最下位水準ですが、実は消費性向が高い県民性で、稼いだお金を貯め込むという考えがあまり定着していないためか、購買力が非常に高いのが特徴です。

その結果、回転寿司やカレー、うどん、ハンバーガーショップなど、ファストフード店は、あらゆる種類の業態が沖縄に出店し定着しています。本土で成功しているFCチェーン店は、沖縄にも普通に出店しています。こんな小さい島の沖縄県で? と思われるかもしれませんが、実のところ意外と経済力があるから、チェーン店はこぞって沖縄に出店しているわけです。

沖縄県内には7125カ所(令和3年経済センサス)の飲食店がある。これは人口あたりに換算すると全国2位の水準です。一方で、ファミリーレストランの文化は本土ほど浸透していないといわれます。この背景に沖縄の食堂の存在の大きさがあるように感じます。

マーケティング戦略を構築する際には、さまざまな市場のなかから、どの市場を狙うか決めるターゲティングが重要な要素になります。例えば、シーブリーズは10~20代の女子高生の市場に狙いを定め、売り上げを大きく飛躍させたといわれます。本土企業が沖縄に進出する際にも、当然ながら本土で培ってきたノウハウを基にセグメンテーションしつつ市場を細分化し、複数のターゲットを想定しながらビジネス展開します。

しかし、沖縄のファストフード店は高齢者の利用も多く、牛丼チェーン店ではテーブル席にファミリーが腰かけ、コンビニエンスストアではフライドチキンやカフェレベルのコーヒーが売られています。これは、いずれも沖縄が先駆けです。最近では、沖縄てんぷらまで売られるようになり人気です。

沖縄でのターゲティングは足し算で

このように沖縄の消費シーンの特徴は大きく異なるのです。進出に成功している企業では、想定ターゲットを本土より拡大して、沖縄仕様にカスタマイズすることで課題をクリアしているようです。本土市場で想定している顧客より、かなり幅広く構える。絞るのではなく逆に足し算でターゲットを拡大していくわけです。

そして、ターゲットを絞りすぎてはいけないもうひとつの理由が、チャンプルー文化の存在。その代表格が食堂です。多様な文化が融合し成熟してきたのが沖縄社会。その象徴的な存在が沖縄の食堂です。豆腐チャンプルーにカレーライス、とんかつ定食に、麻婆豆腐、ミートソーススパゲティ。沖縄料理はもちろん、和食・洋食・中華、何でもござれで100種類を超えるメニューを誇る店も珍しくありません。そのカオス的な雰囲気が温かみや楽しみを演出し、純粋な本土仕様の飲食店とは人気面で一線を画しているわけです。

(画像:『沖縄ルール 知っておくとビジネスも人間関係もうまくいく!』より)

特定の市場を狙って、あえて沖縄市場に媚びないというのも1つの戦略です。しかし、牛丼チェーン店で普通にタコライスがメニュー化されているように、地元に合わせるという戦略を私はオススメします。沖縄進出にあたっては、沖縄食堂のメニューをイメージして、さまざまなニーズに応えるべく顧客ターゲットを足し算で考え、楽しさを生み出すという柔軟な思考を持ってほしいと思います。沖縄ではメニュー数の多さが、消費者の心を動かす大事な原動力となるのです。

「ゆいまーる」の精神が息づき、笑顔で暮らせる場所

県民所得や平均貯蓄額といった経済指標では常に最下位クラスの沖縄で、さらに消費性向が高いとなると、生活に困っている人が多いのではないかと思われるかもしれません。事実、貧困率は高いものの、それは一側面に過ぎません。多くの沖縄県民は、統計で表されるほど生活に困っていません。統計値だけでは見えてこない、沖縄ならではの生活様式が息づいているからです。

よくある話が「仕事から帰ると、袋いっぱいのゴーヤーが玄関前に置かれていた」といった日常のエピソード。袋には名前は書かれていないものの、「ああ、これは○○さんが持ってきてくれたんだ」と、沖縄の人ならわかります。立派な食べ物やお土産をわざわざ買って届けるのではなく、自分の畑で作ったものを名乗るわけでもなく、家の人がいなければ、そっと玄関に置いてくる。それがウチナーンチュ(沖縄の人)、特に田舎では普段の生活シーンです。

沖縄には「ゆいまーる」という、本土の人にもよく知られている言葉があります。助け合い精神、お互い様、といった意味ですが、そこまでかしこまったことではなく、作りすぎちゃったから、食べてね。それぐらいの軽い気持ちです。「ゆいまーる」があるから、所得が低くても、貯蓄が少なくても、沖縄の人は笑顔でいられるのでしょう。統計指標に表れている人口や所得額だけでは、沖縄の人の暮らしやマーケットサイズを見誤ってしまうかもしれません。

沖縄へ出張に来た人が「沖縄はもっと田舎かと思っていましたが、他県と比べても賑やかで、まちに活気があってビックリしました」とよく口にされます。その感覚のほうが実態に近いでしょう。

都道府県「幸福度」ランキングで3年連続日本一

沖縄ルール 知っておくとビジネスも人間関係もうまくいく!

実際、民間調査会社の株式会社ブランド総合研究所が2023年8月に発表した「都道府県・幸福度ランキング2023」(※)の調査結果によると、トップは沖縄県で3年連続1位。2位に鹿児島県、3位に熊本県と九州地方は上位にランキングされています。ブランド調査や幸福度調査はいろいろな会社が実施しているので、必ずしもすべての調査で沖縄県がトップということではありませんが、1つの調査では3年連続1位というのは、紛れもない事実です。

※「都道府県・幸福度ランキング2023」が示す「幸福度」は、「あなたは幸せですか」という問いに対し、「とても幸せ」「少し幸せ」「どちらともいえない」「あまり幸せではない」「全く幸せではない」の5段階で評価してもらい、それぞれ100点、75点、50点、25点、0点で加重平均した。沖縄県は74.2で、47都道府県の平均は68.3点。

沖縄県は県民所得も低い、失業率も高い。なのに、なぜ幸福度が高いのか? その理由はシンプルで、「あなたは幸せですか」という問いに対して、「とても幸せ」と答える人が多いからです。経済的な指標では全国最下位クラスかもしれないけれど、青い空、青い海が広がり、みんなで助けあって生活できていることを、素直に幸せだと思っているのです。

(伊波 貢 : 沖縄進出コンサルタント)

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