ビジネスシーンで「相手に印象を残す」装いのコツ

ビジネスファッションの印象管理

仕事上のポジションが変われば、コミュニケーションの相手や与えるべき印象も変化していく(写真:jessie/ PIXTA)

「印象管理」という言葉をご存じでしょうか。自分自身の「印象」を自分で「管理」(マネジメント)するという意味で、日本ではまだまだ浸透していないと感じます。しかし欧米では、“Impression Management” と呼ばれ多くの文献が出そろっており、当然のように実践されているのです。

「自分の印象が相手に残らない…」

よく、こんな相談を受けます。

「自分の印象が相手にあまり残らないようで、2回目に会った時も初めてのように扱われます」

「上司や同僚、部下からの印象がまちまちで、自分がどう見られているのかわからない」

まるで自分の存在探しをしている方が多い印象を受けるのです。どうでしょうか、これらはすべて、“相手視点”に終始しているとは思いませんか。これでは右往左往してしまい、自分自身が定まりません。ビジネスでよい結果を出そうと思ってもなかなか難しいでしょう。

そこで一度、「自分はどう見られているのか」というネガティブな思考を手放してみてはいかがでしょうか。

印象管理とは、「自分はこういう人間です!」という「自分らしさ」を、ブレずに、かつポジティブに、相手にわかりやすく伝えていくことです。自分の印象を高めることで、相手の印象にも残りやすくなります。自分という人間が誤解なく相手に伝わるため、ビジネスもうまくいくこと請け合いです。私がつねづね、『印象を制する者はビジネスを制す』と声を大にして言い続ける理由はここにあるのです。

では、実際にどのようにすれば自分の印象を高められるのか。装いの視点から具体的に紹介しましょう。

「ドレスコードをなくした」という企業が年々増加しています。カジュアル化が促進される中、上手に移行できている人がいる一方で、当然ながらついていけていない人も散見されます。とくに暑い時期は、最もビジネスファッションに悩む時期でしょう。「暑くてもビジネスカジュアルをきちんと見せたいが、どうもうまくいかない」というのが大方のお悩みです。

ポイントは2つあります。

① だらしなく見えず爽やかに見えているか
② クライアントを意識しているか

①は、生地感が影響を与えます。同じカジュアルなシャツでも、ヨレっとしていればだらしなく見えますし、パリッとしていればそれだけでキチンと感が伝わります。

今は各メーカーが競ってすばらしい機能素材(発汗、涼感、防シワ加工等)を開発しているので、選ぶのも楽しいはず。心地よく着られて、ご自身のビジネスにふさわしく印象を上げてくれるものがきっと見つかりますから、ぜひ探してみてほしいところです。

②は、コミュニケーションを良好にするうえで、とくに重要です。クライアントの中には、ドレスコードがなくてかなりカジュアルな企業から、ビジネスフォーマルを大事にする企業までさまざまでしょう。すべての相手に対して、「自分はこのスタイルだから」と一辺倒で押し通してしまうのは強引かもしれません。

仮に、ラフなスタイルでビジネスフォーマルな装いの企業に出向いた場合、たとえ自分は気にならなくても、相手先は無意識に違和感を感じるはずです。もしくは、相手よりカジュアルダウンした格好をすることで、お互いにばつの悪さを感じることも。

その日に会うクライアントを意識して、面倒がらずにアイテム選びをすることで、必ずやコミュニケーションによい影響を与え、ポジティブな結果に結びつくはずです。

リーダーや経営層、外見の落とし穴とは

チームリーダーや経営層の方、またはこれらを目指している方からは、こんな相談を多くいただきます。

「今までと同じ印象のままではいけないと思いますが、これから何に気を付けたらよいでしょうか」

ポジションが変わると、コミュニケーションを取る相手も変化します。経営層同士の付き合いもあるでしょうし、部下やスタッフからの見られ方も変わるので、今までと同じ印象管理ではしっくりこなくなるのも当然です。ぐいぐい行くリーダーでも、じっくり構えるリーダーでも、共通するのは「信頼と尊敬」が求められている点です。会社の顔として見られる立場として、外見からもそれが伝えられているでしょうか。

身だしなみを整えている程度ではなく、企業の方向性や存在感を伝えられたらしめたものです。例えば、「業界を牽引する企業」とうたいながら旧態依然とした古さを感じさせる外見では、第三者は懐疑的になりかねません。どんな装いであろうと、身に着けるもののクオリティを重視しながら表現してみましょう。

印象管理に成功している著名人2名

自分のテーマカラーやスタイルをある程度確立させておくと、「らしさ」が出来上がってきます。テーマカラーをパーソナルカラーから探す方法もありますが、自分にとってモチベーションが上がる色、インスピレーションをかき立てられる色がベストだと思います。小物など部分的でもよいので、自分に取り入れるとよいでしょう。

コーディネートにこだわりがあれば、ファッションスタイルは1つの個性として確立します。ただ、カラーもスタイルも「自分はこれでいく!」と、あまりにこだわってしまうとシーンにマッチしないタイミングもあるので、そこは柔軟に考えてほしいです。

ここで、印象管理を上手に取り入れている著名人を2人紹介しましょう。

1人は、元ソニーグループ社長の平井一夫氏でしょうか。「トップは見た目を意識せよ」と自ら有言実行してきた方です。社長時代は、自分自身を「信頼を左右する企業ブランドの体現」と考え、一糸乱れぬヘアスタイルと隙のない服装、言動に気を付けていたそうです。シーンに合わせてネクタイもこまめに変えていました。シニアアドバイザーである現在では、ウェーブがかったヘアスタイルと柔らかい色合いの装いで、余裕と柔軟性、穏やかなビッグキャパシティを感じさせます。

平井一夫

(画像:Ethan Miller/Getty)

平井一夫

(撮影:尾形文繁)

もう1人は、政治家ですがイタリアのメローニ首相を挙げたいと思います。男性優位の国で首相に就任し、先の欧州議会選でも大勝して存在感を発揮しています。

総選挙ではショッキングピンクなど派手な服装で言動に拍車をかける目立ち度合いでしたが、首相就任後はダークスーツを着用する男性陣に交じってシックでハイクオリティなアルマーニを着て、悪目立ちせず上手になじんでいます。

メローニ首相

(画像:Mondadori Portfolio/Getty )

先日開催されたG7サミットでは議長国となり、淡いサーモンオレンジのパンツスーツでファッショナブルさを発揮。晩餐会では、ネイビーのロングドレスをエレガントに着用。ポジションに合わせた上手な七変化の装いは、彼女の政治力を確実にバックアップしていました。

メローニ首相

(画像:Antonio Masiello/Getty)

(吉村 ひかる : BEST GRADE代表取締役、国際イメージコンサルタント)

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