「同じ学校、同じ塾」でなぜ成績に差がつくのか

勉強する男女

同じ学校、同じ塾、同じ教材、同じ先生、同じ勉強時間でありながら、なぜ差がつくのか?(写真:すとらいぷ/PIXTA)
【相談】
中学3年の息子がいます。幼なじみの子がいて、小さいときから、一緒の学校、一緒の塾に行っていました。仲がいいので、勉強も一緒にやることが多かったです。しかし、小さいときはあまり気にならなかったのですが、中学になり、幼なじみの子と歴然とした差がついていることに戸惑っています。うちの子は真面目に勉強するほうですが、それでも、幼なじみの子は、はるかに勉強ができます。地頭の違いかと思いますが、同じような学びをしてきているのに、なぜこのように差がつくのかわかりません。どのような背景があるのでしょうか?
(仮名:木村さん)

同じ条件でも理解に差が出るのはなぜか

「同じ学校、同じ塾、同じ教材、同じ先生、同じ勉強時間でありながら、なぜ差がつくのか?」これは、多くの人にとって謎に思える現象の一つかもしれません。

学校で、先生の話を1回聞いて理解できる子とそうでない子は確かにいます。その理由はさまざま考えられます。

例えば、先生が説明に使っている言葉(ボキャブラリー)を知っているか知らないかで差がついているかもしれません。または、集中して先生の話を聞いているか否かによって差がつくということも考えられます。さらに、そもそも学びへの意欲があるかないかで差がついていることも考えられます。これらの理由も確かにあると思います。

しかし、言葉も知っている、集中もしている、意欲もありほとんど同じ条件であるにもかかわらず、理解に差が出ることはあります。それはどのように説明すればいいのでしょうか。

多くの場合、「もともとの頭の作りが違うから」で片付けてしまっていることが少なくありません。しかし、それでは何の解決にもなりません。そこで、もう少し深掘りしてみます。

地頭がいいとは、考える力があるということ

「頭の作り」とは一体何でしょうか。

これを理解するために、パソコンに置き換えて考えてみましょう。

パソコンの本体にはOS(オペレーションシステム)やソフトなどが入っています。ソフトはそれに対応したOSが必要になります。例えば、Windows95という1995年のOSには、当時のワードやエクセルなどのソフトをインストールして使っていました。では2024年版のワード、エクセル、のソフトをWindows95にインストールして使うことができるでしょうか。入らないかフリーズを起こします。2024年のソフトには、それに対応できるOSが必要なはずです。

実は、このOSとソフトは、人間の頭脳にもあると筆者は考えています。

人間の場合のOSは「考える力」のことで、いわゆる「地頭」と呼ばれるものです。地頭が良いとは、考える力があるという意味だと筆者は捉えています。一方のソフトは子どもたちの世界で言えば、国語、算数、理科、社会などの学習科目に当たります。

例えば、40人の小4のクラスがあるとします。学校では同じバージョンのソフト(例:小4算数、小4理科など)を授業で“インストール”します。では、40人の子どもたちの頭脳のOSバージョンはどうなっているでしょうか。

均一であるとは思えません。つまり、小4の科目というソフトがインストールできるOSとそうでないOSが混在しているとしたら、同じ授業を受けても差がつくことは容易に想像できます。

小学校までは問題がなかったけれど、中学に入ったら急に授業についていけなくなった場合、その子のOSは小学校のソフト対応のOSであり、中学までは問題なかったけども、高校の授業は理解ができなくなったということは、中学のソフト対応までのOSだった可能性があるということです。

学校の授業は科目という名の“ソフトのインストールの場”であり、OSのアップデートはしません。近年、学習指導要領の改訂により、「思考力」がクローズアップされていますが、果たしてOSという概念を持った指導がされているのか怪しいのではないかと思っています。ですから、理解できない子に対して、その子の「やる気の問題」にしてしまうこともあります。なぜ、やる気が出ないのか、そこが重要な論点です。

さて、話を戻します。

このような実態になっているとしたら、OSをアップデートさせてしまえばいいわけです。つまり、「OS=考える力」のアップグレードです。しかし、ここでまた疑問が発生します。それは、「考える」とは一体何を指すのかという疑問です。

「皆で考えてみよう!」「しっかり考えるように!」と言われたときの、「考える」とはどういうことを言うのでしょうか。「考えるとは何か?」と聞かれて答えることは意外と難しいものです。

実は今まで、「考えている」と思っていたけども、それは単に「悩んでいるだけ」だったかもしれないのです。

もし「考えるとは何か」がわかれば、子どもたちのOSのアップデートができるはずです。

「考えることができる子」の特徴

考えるとはどういうことかを知るために、次の英語の問題の例をご覧ください。英語の現在完了形を勉強している場面で、次のような問いがあったとします。

問題1 次の英文を訳しなさい。

(1)I have been to USA 50 times.
(2)・・・・・・・・・

通常は、(1)私はアメリカ合衆国に50回行ったことがある。と訳して、次の(2)に向かうことでしょう。

しかし、考える子は、ここで次のように思います。

「一体、この人はなぜ50回もアメリカに行ったんだろう?」

すべての問題をこのように思考しているわけではありませんが、学びの場でこのように思考を巡らしている子がいます。これが「考えることができる子」の特徴です。すると印象にも残るため記憶が促進されるわけです。

同じ学校、同じ塾、同じ教材、同じ先生、同じ勉強時間でなぜ差がつくのか?

この問いに対する回答は、「考えているか否かの差」にあるということです。

では、考える力(頭脳のOS)のアップデートをするために、どうすればよいか具体的な方法論についてお話しします。

筆者はこれまでの4000人以上の子どもたちを指導してきた経験から、次の方法が有効的であったと考えています。

それはある問いかけをしていく方法です。問いかけの言葉は全部で10種類ありますが、ここでは代表的な言葉を今回の記事で1つ、次回の記事でもう1つ紹介します。

頭脳のOSをアップデートする問いかけ その1

学校教育では、一般的に「何?」「どこ?」「誰?」「いつ?」「(選択肢問題で)どれ?」が問われます。これは知識の確認のための質問です。ですからインプットされていれば誰でも答えられますが、頭に入っていないと答えられません。このような状態のときは「考えている」とは言いません。考える頭脳にしていくためには、次の問いかけが必要になります。

「なぜ?」

例えば、「あなたの家の住所は何ですか?」と問われると答えられますね。これは「知識」です。頭に住所が入っているから答えられます。しかし、次のように質問されたらどうでしょうか。

「なぜ、その家に住もうと思ったのですか?」

こう問われたときに、「え、なぜだろう?」と“考えます”。まさに、このとき、「考える」状態となっているのです。人は、何を問われるかによって、頭脳の働き方が変わります。「何、どこ、誰、いつ、どっち」といった問いも情報としては重要ですが、考えることにはつながらないのです。

私たちの多くは、子どもの頃、実は「疑問に持つ」ことを頻繁にやっていました。子どもたちは、さまざまなことに興味関心を示します。そのたびに、「ママ、なんでこうなっているの?」と聞いてきます。はじめは親も、「これはね、○○だからなのよ〜」と優しく丁寧に教えていたのが、何度も聞かれるうちに「これは、こうなってんの!!」と答えてしまったり、そのうち返答することすら面倒になってしまったりします。そうなると、子どもは聞いてもしょうがないということで、割り切り、疑問を持つことをやめていきます。

「なぜだろうね?」という言葉以外に、「どうしてだろうね?」という言葉でもいいでしょう。実際に口に出して聞いていきます。人は問われれば、自動的にそこに意識が向かうため頭脳が動き出します。自分に問えば、自律的に考える力がついていきます。

実は、あまり知られていないのですが、勉強ができる子がやっている「暗黙の問いかけ」というのがあります。例えば、国語の文章を読みながら、「え、なぜこうなっているの?」と自問自答することを言います。これを行っていると、不思議と答えに近いものが“見えて”きます。しかし、これは頭の中でやっているため、周囲から見てもわからないため、一般に明かされることはありません。

日常生活の中で「なぜ?」を使ってみる

『同じ勉強をしていて、なぜ差がつくのか?』書影

人は、日常生活で、ほとんど疑問を持たずに生活しています。なぜなら、周囲の情報のすべてを受け取っていないからです。その背景に、脳の構造の問題があります。脳は、「見たいものしか見ないし、聞きたいものしか聞こえない」という特徴を持っており、日常生活において、興味関心がある情報しか入ってこないという性質があるのです。そのため、見ていても、観ていない状態が起こります。聞いていても、聴いていない状態が起こります。それであれば、脳に入ってくる情報量も限られていきます。

そこで、「なぜだろう?」「どうしてだろう?」と問いかけるのです。すると、そこに意識がフォーカスされて、頭脳が動き出します。

ぜひ、日常生活の中で、「なぜ?」という問いを時折使ってみてください。すると、考え出し、頭脳のOSのバージョンが上がっていきます。その結果、ソフトである科目を吸収する速度が速くなります。

(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)

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