横浜駅の「伊勢丹フードコート」で板前寿司の幸福
今回は、横浜駅西口にある大規模ショッピングセンター「ジョイナス」内の一角「FOOD&TIME ISETAN YOKOHAMA」を構成するフードコートを訪問する。
名実ともに神奈川県の中心地であり、東京に近いながら独自の文化圏を築く横浜の玄関口として知られる横浜駅だが、果たして伊勢丹のフードコートとはどのようなものか。「日本のサグラダ・ファミリア」とも呼ばれる駅周辺を歩きながら、探っていこう。
もはや本家超え? 「日本のサグラダ・ファミリア」
横浜駅は、一部では日本のサグラダ・ファミリアと呼ばれるほどに長い工事が続いてきた。スペインの本家サグラダ・ファミリアは1882年に着工し、2026年に完成予定とされる一方、解釈にもよるが、横浜駅のほうが工事が長引いているといえなくもない。
もともと、横浜駅が開業したのは1872年。新橋~横浜間で日本最初の鉄道が開業した際にオープンした。実はこの横浜駅を初代とすると、現在の横浜駅は3代目に該当する。
というのも、初代横浜駅は、1915年に国道1号の高島町交差点付近で新・横浜駅が開業すると同時に桜木町駅へと改称。しかしそのわずか8年後、関東大震災で消失してしまい、1928年に3代目として開業したのが、現在の横浜駅である。
そこから戦災もあり、戦後復興の開発や再開発が今に至るまで途切れることなく続いてきた。これが「日本のサグラダ・ファミリア」と揶揄されるゆえんだ。
現在も老朽化した駅や周辺を整備する計画「エキサイトよこはま22」が進行中であり、2030年ごろまで続くとされる。1872年から2030年と考えると、その期間はサグラダ・ファミリアより長く、いずれはサグラダ・ファミリアのほうが「スペインの横浜駅」と呼ばれる時代が来てもおかしくない。
駅東西で違う顔に、横浜の懐の深さを感じる
そうまでして再開発が進む背景には、横浜駅の巨大な存在価値がある。同駅はJRや各種私鉄、市営地下鉄などを合わせて6社局が乗り入れており、1駅に乗り入れる鉄道事業者数としては日本最多だ。年間乗降客数も国内おろか世界屈指であり、羽田空港の国際化が進む昨今は、鉄道やバスのハブとしても重要性が高まっている。
それだけの交通の要衝であるからか、駅の東西で見られる二面性もすさまじい。例えば地下街「ポルタ」がある東側には、横浜を代表する企業「崎陽軒」や京急グループの本社、日産自動車のグローバル本社、富士フイルムビジネスイノベーションの研究開発拠点など、ビジネス街チックな雰囲気が漂う。
一方、西側は、西口(中央)こそ出ると横浜ベイシェラトンホテル&タワーズやヨドバシカメラといった都市らしい景観だが「みなみ西口」を出て広がる景色は、何というか「横浜らしさ」がない。
まずもって出てすぐのビルが取り壊し予定なのか一切のテナントが入っていないし、パチンコ店が目立つ。幸川に架かる幸橋辺りから周囲を見回すと、ものすごく情緒のある風景が広がる。
もちろんこれは悪い意味でいっているのではない。個人的な意見だが、一般的な再開発はどこもきれいにはなるが、見たことのある景色になりがちだ。
その点、再開発が進みながら、こうした景観が残っているのは、横浜の懐の深さを感じさせる。交通の要衝として、さまざまな人が交錯する街ならではの多様性といえる。
横浜×伊勢丹タッグが生んだ、高級感漂うフードコート
さて、今回のフードコートはそんな横浜西口に構える商業施設・ジョイナス地下の「FOOD&TIME ISETAN YOKOHAMA」にある。
FOOD&TIME ISETAN YOKOHAMAは2018年にオープンし、もともとクイーンズ伊勢丹横浜店として営業していた。余談だが、ジョイナスには高島屋も入っており、高島屋と伊勢丹が呉越同舟する施設というのは、なかなかないのではないか。この辺りも、横浜ならではだと感じる。
FOOD&TIME ISETAN YOKOHAMAは、立地を意識した「『TIME with FOOD』~時を過ごす人に『食』が寄り添う~」というコンセプトを掲げる。具体的には、交通のハブであることから朝昼夜を問わないさまざまなニーズにこたえられる空間として設計している。
そのうち、200席ほどの座席を用意した「CAFÉ&DELI PLAZA」がフードコートエリアである。ちょっとハイソなイメージもある横浜らしい、安定感のあるチェーン店に頼らないラインアップがそろう。
もともとはスシローやリンガーハットといった定番中の定番である人気チェーンも営業していたらしいが、現在はサラダボウルにワインショップ、ビストロに創作料理の店などが入居している。ラーメン店もあるが、単なるラーメンではなく「発酵ラーメン」を打ち出す店舗である点には舌を巻く。
店舗ラインナップだけでなく、空間設計も、横浜らしいというか、さすが伊勢丹というべきか、なかなか洒落ている。やや暗めの黒基調なシックなスペースに、暇つぶし用の雑誌などがあり、どこか遠出する際のちょっとした時間を優雅に過ごす、みたいな感じで楽しめそうだ。
ちょっと見て回ると、アルコールを楽しんでいる人がそこそこいることに気付く。そう、このフードコートはアルコールやつまみが充実しているのである。座席にも、チョイ飲みを促すメニューが置いてあった。
食事としてガッツリ食べるメニュー以外に、各店舗がちょっとしたつまみメニューをそろえている。さらに、前述した通りワインショップもあるし、アメリカのクラフトビールを販売している店で買ったものも持ち込めるため、0次会や気の置けない仲間との「即席勝手居酒屋」、仕事帰りの「にせんべろ」としても楽しめそうだ。
何よりこの日は連休の中日、夕方ということもあり、浮かれた雰囲気にフードコート全体が包まれている。ちょっとその雰囲気のお相伴にあずかろう。
まずはビールを……といきたいところだが、一応仕事で来ているので、ノンアルコールを。暑い日にはスパイスも欲しくなる。「バンゲラズ スパイスビストロ&カフェ」で、おつまみとしてタンドリーチキンも1ピース注文した。
完全に居酒屋気分で再度店舗を見て回ると、大盛況なのが「立食い寿司 根室花まる」だ。すぐそこにフードコートの席があるにもかかわらず、多くの人が立ち食いに行列している。それを尻目に、3貫セットを注文。すぐさま板前さんが握ってくれた。お茶がついてくるのもありがたい。
あっという間に、そんじょそこらのフードコートでは味わえない、チョイ飲みセットが爆誕した。気分としては、仕事帰りに自分へのご褒美、あるいは久しぶりに集まる仲間たちとの飲み会前の、0次会――といったところだろうか。食後の一服に「COFFEE STYLE UCC」でアイスコーヒーも注文しておく。
腹ごなしのはずが、大迷宮にしてやられる
鉄板で焼かれたタンドリーチキンが冷めないうちに――と焦ってしまい、せっかくのビール(ノンアルコール)を注ぐのに失敗。泡たっぷりになってしまった。
それでも、フードコートらしくない特別感に頬が緩む。
ノンアルコールとはいえ格別の味だ。香りのしっかりついたタンドリーチキンがよく合う。問題は3貫しかない寿司の使いどころである。というものの、寿司を眼前にして我慢はできない。せめてよく咀嚼し、少しでも長く楽しもう。まさかフードコートで板前さんが握った寿司を食べられるとは、さすが横浜。そして、伊勢丹恐るべき、である。
どんどんとアルコールを楽しんでいる人が増えてきた。千変万化のフードコートといえど、特にこのCAFÉ&DELI PLAZAは、時間帯によって様相をまったく変える場所なのだろう。
このままうっかりしているとアルコールに手を伸ばしかねないので、コーヒーをしっかり味わって、席を立つ。
そしてまた、横浜駅の迷宮に吸い込まれる…
せっかくなので腹ごなしに、散歩しつつ横浜駅に乗り入れているすべての鉄道事業者の改札を巡ろうと思って歩き始めて驚いた。あまりにも横浜駅が迷宮だったからである。私はふだん、同じく迷宮と呼ばれる新宿駅をよく利用するが、その比ではない。西の迷宮、梅田駅近辺もここまで複雑ではなかったように思う。
まず、どこからジョイナスでどこから高島屋なのかがわからない。と思って歩いていたら高島屋の中に突如、相鉄線の改札が現れたのにはたまげた。地図を見ていても「東口(中央)」「西口(中央)」に加え、それぞれに「きた」「みなみ」があり、それに飽き足らず「きた東口」にいたってはA~Cの3つに枝分かれしている。だったらもう「1番出口」とか「2番出口」でナンバリングしたほうがいいのではないか。
もちろん私の方向音痴もあるかもしれないが、6つの事業者の改札をまわるだけでおそらく30分くらいは歩いた。ぜひ再開発では、この辺りの改善に期待したい。
もっと回遊性が高まって時間の余裕が生まれれば、ちょっとした空き時間でフードコートを訪れる人も増えるだろう。かくいう私は、歩き疲れて小腹が空いたし、汗もかいた。
さて、また先ほどのフードコートにちゃんと戻れるだろうか。
(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)
09/01 13:00
東洋経済オンライン