ヨーカドー「大量閉店」で晒された本質的な"弱点"

イトーヨーカドーの西川口店

再オープンからわずか4年で閉店となる、(一見、ニトリに見える)イトーヨーカドーの西川口店。そこから見えるのは、深いとは言えない消費者理解だ(筆者撮影)

GMS大手のイトーヨーカドーが、今後閉店する33店舗の詳細が判明し、話題になっている。

イトーヨーカドーは8年で800億円を超える赤字を計上しており、親会社のセブン&アイ・ホールディングスがスーパー事業を分離する実質的な「見放し」も受けている。現在、自力での再建を求められている途中で、その一環として今回の店舗閉店の発表もある。

イトーヨーカドーの改革案は、簡単に言えば、「ライフ」化だ。「ライフ」は同じGMS大手で、①関東・関西圏への集中出店と②食品分野への注力、の2点を実行中。報道発表等を見る限り、ヨーカドーもこの2点への注力を目指しているようだ。

しかし、閉店が決まっている店舗の中には、限りなく「ライフ」に近い店舗も含まれている。その代表格が、埼玉県にある「イトーヨーカドー 西川口店」。ここは一般的な食品スーパーに近いのだが、2025年2月での閉店が決まっている。「ライフ」化した店舗が、どうして閉店するのか?

ここに、ヨーカドーのさらなる弱みが隠れている。

50年、西川口に立ち続けるイトーヨーカドー西川口店

西川口のイトーヨーカドーは、西川口駅西口から徒歩10分ほどのところにある。家具の「ニトリ」の建物の1階部分に入っている。

【画像16枚】大量閉店「イトーヨーカドー」、今後注力する食品メインの店舗も再始動からわずか4年で閉店に…。その「残念な売り場」

その敷地はもともと、1974年に「イトーヨーカドー西川口店」が誕生したところ。その後、2009年にイトーヨーカドーが展開するディスカウントストア「ザ・プライス」に業態転換をするも、2020年に再度「イトーヨーカドー西川口店」がオープン。複雑な経緯を持つ店だが、とにかく、イトーヨーカドー系列の店が、都合50年、この地に立ち続けている。

そんなお店に訪れてみると、

イトーヨーカドー西川口店

もはやお馴染みになってしまった「閉店お知らせ模造紙」(筆者撮影)

長年の歴史に幕が下ろされるのだな、と少し感慨深くなってしまう。

見かけは普通の食品スーパー

感慨もひとしお、店内に入ってみる。

イトーヨーカドー西川口店

いたって普通のヨーカドーである(筆者撮影)

中は、至って普通のスーパーだ。入ってすぐのところに青果が並び、その横に豆腐やら納豆やらのコーナーがある。

ヨーク・デリ

「ヨーク・デリ」が確認できる(筆者撮影)

また、ヨーカドー系列のスーパーで売られている「ヨーク・デリ」という惣菜も多い。お弁当などが充実しており、まさに食品スーパー的な店構えである。

ちなみに、2020年のイトーヨーカドー再オープン時のリリースを見ると「地域の皆様のニーズに合う品揃えで、バラエティ豊かに新鮮な商品をご用意いたします」と書かれ、取り扱い予定のさまざまな食品の説明が続く。

ヨーカドー側も、食品スーパーとしてここを生まれ変わらせる意識があったのだ。

しかし、それ以上に筆者の目を引いたのは、このコーナーだ。

イトーヨーカドー西川口店

イトーヨーカドー西川口店には、中華食材がたくさん置いてある(筆者撮影)

中華食材である。調味料をはじめ、長い棚にぎっしり並ぶ。

唐辛子や甜麺醤をはじめ、日本ではなかなか見ない調味料も並んでいる。その横には、中国語・韓国語併記の看板もある。

イトーヨーカドー西川口店

複数の外国語が確認できる(筆者撮影)

歓楽街からチャイナタウンになった西川口

どうして、ここまで中華食材が揃うのか。それは、西川口という街の特性にある。ここには、都内近郊でも有数のチャイナタウンが広がっているのだ。

JR西川口駅

JR西川口駅(筆者撮影)

元々、西川口は歓楽街として知られていた。その店の中には違法風俗もあったため、2000年代前半に警察による浄化作戦が行われ、その結果、空いた物件に中国人などが住むようになる。今では駅西口は、日本語の看板を見るほうが少ないエリアになった。

西川口

西口を降りると、すぐにこんな光景が(筆者撮影)

西川口

ここ、日本?(筆者撮影)

……というわけで、このチャイナタウンからほど近いイトーヨーカドーは、その中国系住民たちのニーズを当てこみ、中華食材を揃えている。

ヨーカドーは、地域に即した食品ラインナップをそれぞれの店で揃えていくというが、まさにその方向に合致した戦略だ。

その中華食材、ホントに必要ですか?

しかし、気になるのは、その中華食材、あまり売れていない感じがすること。ほとんどの商品が棚にぎっしりと詰まっている。また、逆に品切れのものもあり、あまり頻繁に入荷していないのかな? とも思わされる。

チャイナタウン

結構、ぎっしり(筆者撮影)

そう思って、外のチャイナタウンを歩いてみると、気づいた。そりゃ、そうだ……と。だって、チャイナ「タウン」なのだ。ガチの中国食料品店が、わんさかある。

中国食料品店

こんな感じの店がわんさかあるのです(筆者撮影)

試しに、そのうちの一軒に入ってみた。

中をみると、本当に中国のどこかの市場に迷い込んだかのようである。あの、独特のなんともいえない生臭さが鼻を突くドリアンはじめ、謎の果物や肉、魚が冷蔵什器にぎっしりと詰められている。

調味料もそうだ。何に使うのかもわからなければ、そもそも、ほとんど漢字が読めない。唯一店内で読めたのは「皮蛋(ピータン)」かもしれない。商品の姿からわかっただけなのだけれど。

また、これらは値段もリーズナブルで、四合瓶サイズの調味料が300円ぐらいなのに驚いた。

であれば、現地の人だったら、だいたいこちらの中華食品店を使うだろう。

その意味で、イトーヨーカドーの品揃えは、「チャイナタウンがあるから中国食材を!」という思考のみで置かれていて、実のところあまり機能していないのではないか。本当にその中華食材は必要なのか? むしろ、それによって、日本人向けの必要な商品の棚が圧迫されてはいまいか?

実際、「地域に合わせた商品を売る」というのは、簡単なようでいて難しい。

この点で、興味深い例がある。シンガポールにあるドン・キホーテ(DON DON DONKIという)で、「焼き芋」が爆発的に売れたという事例だ。熱いものが熱帯地域で売れるわけがないと思っていたのだが、それは日本人の思い込みで、現地の人はデザート感覚で食べていたという。結局、焼き芋売り場の確保のために、バラエティグッズやブランド品を減らした。

西川口に限らず、何を置くのがその街に適しているかは、なかなか予想がつかない。だからこそ、トライアンドエラーで顧客の反応を見ながら商品を変えていくことが必要だろう。大事なのは柔軟性だと思われる。

近隣の中華食材屋と同じラインナップを売っているヨーカドーに、その柔軟性はあるのだろうか。

一方、ドンキはと言うと…

ドンキの話をしたが、実は西川口にもドンキがある。しかも、ヨーカドーからそう遠くない距離。ほとんどチャイナタウンの中にあるといってもいい場所で、黄色と黒の派手な外観が街の中で目立つ。

西川口 ドンキ

西川口にもドンキがある(筆者撮影)

さっそくその店内に入ってみると、まず驚かされたのは売り場構成だ。1階が日用消耗品で、2階が食品。3階は家電製品やブランド品が売られている。食品などが扱われる場合、通常は1階に食品売り場が作られることが多いが、ここはそうでないのだ。

さらに面白いのは、2階の食品売り場を見ると、興味深いことに中華食材がほとんどないのだ。代わりに目立つのは、韓国やフィリピンの食材やお菓子。特にフィリピン食材には力を入れているようで、「フィリピンで大人気」と淡水魚の「ティラピア」が冷蔵什器の中にたっぷり入っていたりもする(ちょっとびびった)。

ドンキ 冷凍什器

冷凍什器をのぞくと……(筆者撮影)

ティラピア

ティラピア(カワスズメ科に属する淡水魚)が入っとる……(筆者撮影)

一見すると、意表を突く売り場構成だが、実はこれ、かなり合理的だと思う。というのも、この選択は、現在の西川口で足りないものを補う姿勢が見えるから。「かゆいところに手が届く」のだ。

チャイナタウン、といったが、西川口は中国系だけではない、さまざまな人種が交ざり「リトルアジア」ともいうべき街区となっている。特に川口においてフィリピン系の人々は、中国・韓国に続くオールドカマーと呼ばれ、昔からその地に根付いてきた。

一方、西川口周辺にはフィリピン食材店などがほぼないため、フィリピン食材を少し前面に押し出して売るドンキの選択は、競合の多い中国食材を売るより、よほど合理的なのである。

また、1階を日用消耗品にしたのも合理的だ。というのも、周りに日用品がしっかりと揃うところがあまりないから。何か困ったことがあればドンキに行けばいい、となるのだ。

まさに「かゆいところに手が届く」のが、ドンキ西川口店かもしれない。

ドンキ

日用消耗品がずらりと並ぶ1階(筆者撮影)

ドンキの特徴は「権限委譲」にある。これは、売り場や売り方の裁量を現場に任せること。初期の頃から一貫してこのやり方を貫いている。この手法によって、西川口という特殊な街に合わせた商品ラインナップが登場してきたのだ。

かつて、私は『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(2022年、集英社)という本で、ドンキの店舗ごとの特徴について書いた。そこにも西川口店は登場している。ただ、このときの西川口店は、もっと中華食材の扱いが多かった記憶がある。つまり、ここ数年で、その売り方や商品を変えてきたのである。

先ほど、シンガポールのドンキの例を出したが、そこでも焼き芋が売れるとわかるや否や、すぐに他の売り場をなくして焼き芋コーナーを拡充させていた。とにかく、全社的な体制として、現地ニーズの把握と、それに基づく行動が速いのだ。この変わり身の早さがドンキの強みであり、翻って、まだ中華食材を愚直に出し続けるヨーカドーは、その現場力とスピード感が弱みになっているといえるだろう。

消費者の変化、街の変化に対応できているか?

さて、イトーヨーカドー西川口店を訪れながら、その閉店について考えてきた。

ドンキにはなぜペンギンがいるのか (集英社新書)

イトーヨーカドー西川口店の閉店は、中華食材の扱いを見れば、腑に落ちるものではないか。結局、街に合わせることができていないのだ。中華食材が、「ただ」あればいいのではない。重要なのは、「なぜ、中華食材を置くのか?」ということ。

その根底には「消費者の変化」「街の変化」に合わせる、という理念がなくてはならない。そうした理念がなく、形だけの「地域密着」になってしまっているのが、現在のイトーヨーカドーなのかもしれない。

また、今回は中華食材だけを取り上げたけれど、それ以外の売り場についても同様で、駅前にスーパーがある中、イトーヨーカドーならではの強みが見当たらない。であれば、わざわざイトーヨーカドーで食品を買おうという気持ちにならないのも確かだと感じる。

西川口駅 Beans

西川口駅には、「Beans」が入っており、ここで何でも揃う。であれば、わざわざイトーヨーカドーに行くだろうか?(筆者撮影)

この西川口店で見た光景は些細なものかもしれない。しかし、そうした小さな光景の積み重ねが、結局、現在のイトーヨーカドーの凋落を物語っているのかもしれない。

【画像16枚】大量閉店「イトーヨーカドー」、今後注力する食品メインの店舗も再始動からわずか4年で閉店に…。その「残念な売り場」

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)

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