「外遊び」が子どもの目にも心身にもよい理由

公園で遊ぶ女の子

外遊びは、タブレットやスマホではできない「生身の経験」です(写真:shimi/PIXTA)
『近視は病気です』の著者で眼科医の窪田良氏と、長年子どもの教育事業に携わっている「花まる学習会」代表の高濱正伸氏が「子どもの近視」をテーマに4回シリーズで対談する本企画。
子どもの近視抑制に効果的と実証された「外遊び」だが、共働きの忙しい親にとってはその時間を確保するのも一苦労に思える。第3回は、親子で無理なく外遊びを日常に取り入れる具体的な方法について語り合う。

子どもの脳は「何かしら動くこと」で発達する

窪田:昨今の夏は猛暑が続いています。外遊びが目によいとはいえ、子どもを外に連れ出すこと自体が難しいと感じる親御さんも多いかもしれません。

近視は病気です

近視の抑制という観点からすると、木陰などで過ごすだけでも十分に効果はあります。幼児教育に長く関わっていらっしゃる高濱先生は、子どもたちの日常にどのような形で外遊びを取り入れていらっしゃいますか?

高濱:私たちの事業は学習塾の運営がメインですが、吉祥寺でフリースクールも運営しています。前回(子どもを「外で遊ばせるだけ」で近視は防げる)台湾の小学校での外遊びの取り組みの話がありましたが、2022年にこのフリースクールを開校して以降、学校で過ごす時間の中で子どもの「動」と「静」の時間を分け、外で過ごす時間をマストとして意識的に設けています。

窪田:低学年の子たちの中には、じっとすることが苦手な子もまだまだいますよね。私は小学生の途中から父の仕事の関係でアメリカに転校しましたが、教室の中でも比較的自由に動き回れるようになっていて、とても驚いたものです。最先端の教育方法を導入している学校だと、小2くらいまで教室内に椅子もなかったりするそうです。

高濱:確かに小学1年生、2年生はまだ動き回りたい年齢です。

窪田:その年齢でずっと座り続けているのも脳の発達にあまりよくないのではと感じてしまいます。全身を動かすことで脳のさまざまなところが刺激され、将来クリエイティブで豊かな発想ができるような気がします。

「公園」まで行かなくても、街をぶらぶらするだけでOK

高濱:そうですね。私たちのフリースクールでは必ず公園に行く時間を設けているのですが、たとえ近所であっても、外に出すことで、子どもたちは勝手に自分の世界を広げて帰ってきます。その成長ぶりには、私たち大人も日々驚かされます。

窪田:それは興味深いですね。

高濱:公園の行き帰りに商店街を通るのですが、気がついたら子どもたちが自然と商店街の人たちと仲良くなっている。うちのフリースクールに来る前は不登校だったりする子たちが、ですよ。大人が特に何も働きかけなくとも、日々の挨拶を交わすところから始まり、自力で人間関係を徐々に構築していきます。やがて「フリーマーケットを開催させてください」などと子どもたちのほうから交渉を始めて、最終的に承諾を得てきたりします。

窪田:たくましいですね! 子どもたちはどんな場所でも、危険を事前に把握しておきさえすれば、予測不能な部分を含めて楽しみます。同じことは人間関係にも言えそうですね。

高濱:そうですね。タブレットやスマホではできない「生身の経験」ですよね。外遊びというと、公園に行ったり遠くに出かけたりするイメージがありますが、自分が住んでいる街を歩いてみるだけでも十分意味があるのです。

窪田先生は、ご自身も途中からアメリカの小学校に通い、お子さんもアメリカで育てられたとのことですが、向こうの小学校の様子はどうでしたか?

窪田:驚きの連続でしたね。まず、アメリカには自宅の室内で子どもを長時間遊ばせておく文化があまりないように感じます。周りの子たちも幼少期はひたすら外で遊んでいました。今でも学校でのタブレット配布は小学校高学年からが多いそうです。低学年のうちは身体を自由に動かすことを重視していると聞いています。

高濱:小学校入学と同時にタブレットが配布される日本とは対照的ですね。

窪田:日本ではコロナ以前から親子で家にこもりがちな傾向があるように思います。その点に関して高濱先生はどうお考えでしょうか。

高濱:人間は昔から子育てを群れで行っていました。「みんなでみんなの子どもを育てる」という文化があったわけですね。それが戦後からどんどん各自が自分の家に引きこもるようになっていき、母親が一人きりで子育てをして行き詰まってしまうケースが出てきました。

ここまでお話ししてきたように、子どもは外に出てたくさんの大人に触れたほうがいいですが、子育て中の親も一緒に外に出て交流したほうがいい。子育ての孤独感が解消される一歩になると思います。

窪田:なるほど。ちなみに、目の健康という観点からも、子育て中の大人も、子どもと同じく屋外に出て自然光を浴びたほうがいいですよ。

屋外に出ることで大人の目の健康も守れる

窪田:外遊びによる近視抑制効果は、ある程度の年齢までなら大人にもあります。近視は6〜12歳の間で発症する子が出始め、成長期の終わる14〜18歳あたりで進行が止まることが多いと考えられていましたが、最近では30代、40代でも近視が進行し続ける人が増えています。

オーストラリアで行われた研究では、屋外活動は大人の近視抑制にも効果があると報告がありました。ですので、ぜひ親子そろって屋外に出て太陽光を浴びることで目の健康を維持していただきたいですね。

高濱:その場合、私のようなメガネをかけた人でも屋外に出れば太陽光の恩恵を受けられますか? 太陽光は窓ガラスを通すと波長が変わってしまい、近視抑制効果が失われるというお話しでしたが……。

窪田:メガネの横から直接太陽光が入ってきますので、メガネをかけたままで大丈夫ですよ。

高濱:メガネの大人にも朗報です。

(構成:石原聖子)

(窪田 良 : 医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO)
(高濱 正伸 : 花まる学習会代表)

ジャンルで探す