「ゲームばかりして目が悪くなるよ」より効く一言 

視力

子どもに「視力は大切」と気付かせるには(写真:Tatsuya Osawa/PIXTA)
『近視は病気です』の著者で眼科医の窪田良氏と、長年子どもの教育事業に携わっている「花まる学習会」代表の高濱正伸氏が「子どもの近視」をテーマに4回シリーズで対談する本企画。
子どもの近視を防ぐのにもっとも効果のある方法は、「1日2時間の外遊び」が新たな世界の常識になりつつあるが、実際には子ども自身が「外遊び」に消極的な場合もある。前回に引き続き、忙しい親でも実践可能な近視抑制方法について語り合う。

「親の言うことを聞かない子ども」が普通

窪田:まだベビーカーに乗っている年齢から親にスマホを渡され、小学校に入学するタイミングで一律にタブレットを配布される今の日本において、子どもが外遊びの楽しさに目覚める前に動画やゲームの世界にのめり込んでしまうという話を聞きます。

近視は病気です

高濱:そうですね、私もこの手の相談をよく受けます。

窪田:子どもの外遊びの大切さをご理解いただいた親御さんにとって、次なるハードルは「いかに子どもの気持ちを外遊びに向かわせることか」だと思います。なかなか手放せないデバイスとの適切な距離の保ち方はありますか。

高濱:年齢の低い子どもに対しては、親がデバイスを渡さなければ解消できるかと思います。ですが、ある程度年齢がいくと、なかなか親の言うことを聞いてくれなくなります。

窪田:おっしゃるとおりです。

高濱:これは私が講演会でもよくお話しする知恵なのですが、子どもがある程度の年齢になったら「外の師匠」の力を借りましょう。

高濱:「外の師匠」とは、子ども自身が尊敬できる親以外の第三者のこと。「斜め上の存在」とでも言えばいいでしょうか。たとえば、習い事の先生やカッコいいと思っている従兄姉、あるいは学校の部活の先輩などです。

親が真上から子どもに向けて正論を突きつけるより、部活の先輩などから「おい、眼球の形が一度ナスみたいな形になると一生戻らないけど、今なら食い止められるんだぜ」と言われるほうが、子どもの心に刺さったりします。

窪田:思い起こせば自分も思春期はそうでしたね。親よりも、親以外の第三者がかけてくれた言葉が自分の中に残っていたりします。

高濱:私もそうでしたね(笑)。また、子どもたちと長年関わってきて感じるのは、子どもの性差によって納得する手法が違うということです。男子は、エビデンスとデータを見せると納得しやすいですね。ひと昔前の事例となりますが、喫煙だったら「タバコを吸うとこんな肺になってしまうんだよ」と、肺の写真や模型を見せると理解してもらいやすいといった感じです。男の子は、目の前に数字や結果を見せると腑に落ちるんですね。

女の子には「ストーリーを語る」のが効く

窪田:なるほど。では、女の子の場合はどうでしょうか。

高濱:女子はストーリー形式で心を動かす話をすると、受け入れてくれる傾向がありますね。ちょっと憧れている人に「君の身体が心配」だなんて言われると、キュンとして聞いてくれるようです。

また、女の子の場合、母と娘が親子というよりも「先輩女子と後輩女子」のような関係性が築けるようになると、娘が母親に聞く耳を持つようになります。娘の一番の相談相手が母親になるケースもありますよ。

ただそうなるためには、母親がある程度自分の過去などをざっくばらんに娘にさらけ出して娘に信頼してもらう必要があります。なので、親自身がそもそもの子どもとの関係性をどうしたいか考え直す必要が出てくるかもしれませんね。

窪田:いつまでも子ども扱いせず、親も意識を変えていく必要がありそうですね。

窪田:私からも、両親が近視でも、子どもがゲーム好きでも、子どもに近視が発生しなかったある家庭の事例を披露させてください。

眼科医の知人が、ゲーム好きの子どもに「ゲームをしてもいいが、必ずベランダですること」という家庭内のルールを作り、子どもたちに守らせたそうです。その結果、ゲームの時間は減らなかったけれど、ベランダで太陽光を定期的に直接浴びた子どもたちは、近視を発症しなかったそうです。うまい方法だなあ、と感心したものです。それぞれのご家庭や嗜好にあった方法で、まずは子どもの戸外での時間を1日2時間程度確保することからぜひ始めていただきたいです。

高濱:なるほど、いろいろと工夫のしがいがありそうですね。外遊びをするにも紫外線や熱中症などに気を配らなくてはならない時代になりました。今日先生から伺ったような諸外国の外遊び導入事例も参考にしつつ、地域や教育機関と連携することで、子どもたちが外で安心して遊べる環境を作っていかなきゃ、と改めて思いましたね。

窪田:そうですね。1日2時間の外遊びの時間を各家庭が確保するとなると、日々忙しい親たちにとっては難しいと感じるかと思います。交代で子どもの外遊びに付き合うなど、親同士が協力し合うことも必要かもしれませんね。

かけるだけで「目の外遊び状態」が作れるメガネも

窪田:テクノロジーの力で近視抑制力を補うことができればとも考えています。私が開発している「クボタグラス」という特殊なメガネもその一例で、これは一定時間かけることで、室内にいても「目の外遊び状態」を作れるというものです。

高濱:子どもたちが手に持つデバイスに目が近づきすぎると警告のアナウンスが流れるといったテクノロジーも、開発できたらおもしろいかもしれませんね。

窪田:そうですね。とはいえ、子どもの近視を抑制するために一番簡単で今日からすぐにできることはやはり外遊びです。高濱先生のような方々と一緒に、将来の失明リスクを上げる近視をゼロにする活動を引き続き推進していきたいですね。

高濱:室内でも外遊びの要素をある程度は補完できます。たとえば、家の中で秘密基地作りなどをすることで空間認知力を上げることはできますし、仲間作りだってできるでしょう。ですが、室内と屋外で圧倒的に違うのは多様性です。同じ木の葉っぱでも一枚一枚まったく違う。野外は多様性の宝庫です。その多様性に触れることで、子どものクリエイティブな感性が花開きます。ぜひ外遊びの大切さを理解していただき、私たちも子どもたちに外遊びをさせられる環境づくりのサポートをしていきたいです。

(構成:石原聖子)

(窪田 良 : 医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO)
(高濱 正伸 : 花まる学習会代表)

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