子どもを「外で遊ばせるだけ」で近視は防げる 

近視は病気です

生活様式の都市化が進み、日常生活で見る対象物が圧倒的に「近く」に集中するようになりました(写真:miyuki ogura/PIXTA)
『近視は病気です』の著者で眼科医の窪田良氏と、長年子どもの教育事業に携わっている「花まる学習会」代表の高濱正伸氏が「子どもの近視」をテーマに4回シリーズで対談する本企画。
脳の一部である目の健康によいことは、脳や心身の発達にもよい影響を与える。では実際にどのような環境下で子どもが過ごせばいいのだろうか。第2回では、海外で成功した事例などを紹介する。

近視は「遺伝よりも環境」と言える理由

高濱:アフリカでは視力5.0の人が実在すると、昔からまことしやかに言われていますね。視力は民族的な身体の特性や地域性に左右されるもので、日本人が近視になるのは仕方がないと思い込んでいる人も多そうです。

近視は病気です

窪田:実際に原始的な生活スタイルで暮らしているマサイ族やアボリジニ、イヌイットの人たちの視力は今でもそのくらいあります。ただ、そのような人たちでも、街の学校に通学するようになったとたん、子どもの視力が落ちたという報告もあります。

高濱:それなら、「子どもの視力低下は遺伝が原因」だとは一概に言えなくなりますね。

窪田:はい。もともと、ヒトが動物として生き抜く過程において、獲物を見つけたり外敵から逃げたりするために「遠くを見る力」が極めて重要でした。つまり、人間の目は本来遠くがよく見えるようにできています。ただ、生活様式の都市化が進み、日常生活で見る対象物が圧倒的に「近く」に集中するようになりました。

窪田:その結果、もともと遠くを見るために設計されていた網膜上でピントが合わせづらくなり、ピントを合わせるために眼軸が伸びてしまうケースが増えました。こうして「目の奥行き」が伸びてしまった状態が「近視」と呼ばれます。目の奥行きが伸びることで、本来まん丸のはずの眼球が卵やナスのような形に変形していきます。

近視は病気です

(画像:『近視は病気です』より)

高濱:卵やナスのような形に? それは初めて聞きました。

窪田:先ほどのマサイ族の例で、子どもが学校に通い始めると視力が急激に落ちるのは、教室の黒板や手元の教科書を見ることが増えるからなのです。つまり、視力は遺伝よりも環境に左右されることがおわかりいただけるかと思います。

「子どもの近視」を抑制できた海外事例

高濱:生活の都市化は現代社会では避けられない中、前回(「メガネの子が増えた」のはスマホが原因ではない)窪田先生が紹介された「近視抑制」の海外事例が気になる親御さんは多いと思います。台湾の小学校では、実際に効果がデータとして明確に出ているそうですね。もう少し詳しく教えてもらえますか。

窪田:一般的な傾向として、アジア人には近視が多く、台湾でも多くの子どもたちが近視を抱えています。台湾は国としてこの現状を深刻に受け止め、国策として2010年から「子どもの屋外活動を1日2時間確保しなければならない」という制度を導入しました。机に向かって勉強することも大事ですが、それ以上に将来の国民の健康を重視したわけですね。

実際に、休み時間は教室の電気を消して外遊びを促したり、美術などの一部の授業を屋外で実施したりすることで、小学生に1日2時間屋外で過ごさせることを達成しているということです。

高濱:国を挙げて学校まで巻き込んで実施しているところに本気度を感じますね。日本の学校でのカリキュラムの中で外遊びの時間をそこまで確保するのは難しいかもしれません。

外遊びを推奨している私たちの学習塾では、夏休みなど、学校が長期休みになる時期に、泊りがけで行ける野外体験プログラムを提供していますが、毎年大人気です。

窪田:それは素晴らしい取り組みですね。学校が休みの期間にも、そうやって外遊びを確保するのは理想的です。

実は外遊びが大事というのには、2つのメリットがあります。1つはここまでお話ししてきた「遠くを見ること」、もう1つは「太陽光を直接浴びること」です。この2つは同じくらい重要です。太陽光をただ浴びればいいわけではなく、窓ガラスなどを隔てずに直接浴びる必要があります。

高濱:おもしろいですね。窓ガラスを通してしまうとダメなんですね。

子どもを屋外に放つことで目覚める力

窪田:光を直接浴びるというと、晴れた日の直射日光を想像するかもしれませんが、1000ルクス程度の明るさが確保できればよいので、曇りの日や木陰でもその明るさは十分得られます。

高濱:木陰でもいいというのは、暑い日が続く夏には朗報ですね。ちなみに、ベランダで太陽光を浴びるのはどうなのでしょうか。

近視は病気です

(画像:『近視は病気です』より)

窪田:これは光の波長の問題で、太陽光がガラスなどのフィルターを通してしまうと、波長が変化してしまい近視抑制の効果が失われます。ベランダなら大丈夫です。

目にある程度の強さの太陽光を当てると、網膜内のドーパミンが増えることが確認されています。これが近視抑制につながっていると考えられています。

高濱先生は、経営されている学習塾で無人島を買い取り、そこでも子ども向け体験プログラムを実施されていると聞きました。眼科医的な視点で見ると、長時間屋外で活動し続けることができて理想的な環境に思えます。実際に参加している子どもたちの様子はいかがですか。

高濱:すごいですよ! 最初は引っ込み思案だった子たちも、無人島で一晩過ごすと奥底に眠らせていたエネルギーをむくむくと湧き上がらせます。「おい、今度はあっちに探検しに行くぞ!」などと他の子たちを引っ張っていったりして……。

親御さんは「この子は生まれつき引っ込み思案だから」「親に似て内向的な子だから」と思い込んでいたりするのですが、環境によって変わります。これは、心も目も同じかもしれませんね。

窪田:おっしゃるとおりですね。実際に両親が近視でも1日2時間屋外活動を続けたところ、子どもの近視を抑制できたというデータがあります。「遺伝だから近視になるのは仕方ない」とあきらめず、ぜひお子さんの将来の目の健康のことまで思いをはせた上で、日々の環境を見直していただけると嬉しいです。

子どもたちが自由に真剣に遊ぶ機会を

高濱:今の時代、外遊びというと、熱中症、ケガ、事故などを怖がる親御さんが多いかもしれません。しかし、どこが危険か、何が危険かを最初にきちんと把握させてから自由に遊ばせると、子どもたちは実に真剣になって遊びます。

窪田:そうですね。日本の公園は大人が先回りして、危険がありそうなあらゆることを禁止してしまっているので、そうやって子どもたちが自由に真剣に遊ぶ機会が失われていますね。

外遊びについて一点補足すると、平日に1日2時間確保するのが難しければ、週末に長時間まとめて遊んでもOKです。それでも十分近視の抑制につながります。

高濱:それは親も子も忙しい現代社会には嬉しい情報ですね。

ゲームやスマホが社会の隅々にまで普及したとはいえ、画面ばかり見て遊ぶことで子どもの心身にさまざまな弊害が起きている気がします。ゲームやスマホで時間をつぶすことが増え、外遊びが減ることで、目の健康にも負の影響を及ぼすとは窪田先生とお話しして初めて知りました。

生身の人間の背中や予測不能な自然の営みから子どもたちが直接学ぶ機会がどうしても減ってきているので、大人が意識的に環境を整える必要がありますね。

窪田:そうですね。目の健康に関しても、先生が長年取り組まれている心身の発達に関しても、問題の根源は同じなのかもしれませんね。

(構成:石原聖子)

(窪田 良 : 医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO)
(高濱 正伸 : 花まる学習会代表)

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