ゲオとTSUTAYAに大差をつけた「本質的な違い」

ゲオのセカンドストリート

レンタルDVD店ではなく、もはやリユースショップの会社になっているゲオ。しかし、「郊外でも出店できる業態」を見つけた経営判断は、正しかったと言えそうだ(筆者撮影)

ゲオの業績が絶好調

ゲオホールディングスの業績が好調だ。

2024年3月期は営業利益が58.3%増という大幅な増益。最終利益も91.9%増で、かなりの好調ぶりを見せている。

ゲオの業績推移

セカストの出店加速で、売上高がここ数年で大きく伸長している(編集部作成)

業績を牽引するのはリユースの衣服を中心に扱う「セカンドストリート」(以後、セカスト)。元々、ゲオはDVD等のレンタルがメインの事業だったが、サブスクサービスなどの普及によって需要が低下。2002年ごろからリユース事業を本格化させ、2010年には香川県高松市にあったセカストを完全子会社化。現在、同店は国内800店舗を超えるまでに成長した。

【画像10枚】レンタルDVDのイメージを脱し、すっかり「リユースの会社」となったゲオ。営む「セカンドストリート」の様子と、好調な業績推移

また、国外への出店も意欲的で、特にアメリカでは、アメリカ全土で高まるリユース業態への関心を背景に、39店舗を展開している。かつての主力業態だったレンタルはもはや全体売り上げの7%ほどにすぎない。完全にリユース業態がメインの店となったのだ。

ゲオの10年間での変化

かつては「50円や80円でDVDを大量に借りる店」だったが、すっかりリユースの会社に変貌した(編集部作成)

一方で、ゲオ自体は、2025年3月期の決算を減益予想している。営業利益は28.6%減を見込み、やや後ろ向きな予想。とはいえ、このようにゲオが低めの決算予想を出すことは珍しくない。同じく減益予想をした2023年3月期の決算は、蓋を開けてみれば29.9%の増益、なんてこともあったからだ。いずれにしてもこの減益予想は覆される可能性も十分あり得る。

ゲオの業績を引っ張るセカストだが、その原動力はなんだろうか。実際に店舗を見ながら考えてみたい。

ゲオのセカンドストリート

都市型のセカスト。意外と(?)おしゃれな感じがある(筆者撮影)

セカストは当初、都心と郊外の両方に満遍なく店舗がある状態。主にその2つで店舗の形態も違うだろうが、それぞれ、どんな店舗なのか。

都心のセカストに訪れてみると、デザイナーズブランドや、ブランド品などが多く取り揃えられている。セカストの公式ホームページには、セカスト高円寺店のレポートが掲載されている。

他にも多くの古着店が立ち並ぶ高円寺だけに、ここにはユーズド・ヴィンテージコーナーもあるという。なんでも1990年代以前のアメリカの古着が集められており、レア物のリーバイスやチャンピオン、コンバースなどがぎっしりと並ぶ。

ゲオの店内の様子

都心の店舗の写真。清潔感のある店内に、ところ狭しとリユース品が並んでいる(筆者撮影)

一方、郊外店を訪れてみると、中心となるのは、より庶民派の服。ユニクロやGUなどのチェーン系の洋服が格安で売られている。セカストのすぐ近くにこうしたチェーン系のアパレルショップがあったりして、そこでぐるぐると洋服が循環しているさまが面白い。

「地方・郊外の出店」がどれくらいできているかが重要

思うに、セカストの原動力となっているのは、この郊外店なのではないかと思う。もっといえば、それが地方でも展開可能性のある業態だったことにあるのではないか。

実際、こうした郊外立地店は、セカストの躍進を後押しした。コロナ禍で都心の人混みがなくなり、人々が接触を避けていたときでも、車で行ける郊外店はそこまで大きな影響を受けなかったからだ。

さらに、もっと重要なことがある。日本全国に出店を広げていると、当然のことながら東京を中心とした都心部だけを見ていても仕方がない。いくら東京の人口が多いとはいえ、日本の人口の9割は、それ以外の場所に住んでいるからだ。

彼らに向けてどれぐらいアピールできるかは、特に全国に店舗を展開するチェーンストアの場合は、如実に業績に影響するといえるだろう。「地方・郊外への展開可能性」はその企業を見る上では欠かせない視点なのである。

その点でいえば、セカストは、元々が香川県高松市のロードサイドの店舗だったこともあるし、「車で大量に衣服を運ぶ」必要もあって、地方郊外と親和性が高い。

「居抜き」のスピード感でどんどんと地方に進出

また、地方出店を推し進めた要因の1つには、それが、居抜きで出店できる業態だったこともある。リアルエコノミーの記事では、北海道におけるセカストの居抜き出店の勢いを「空き店舗ハンター」と表現している。また、レンタル業界の不振で店舗数の減少が進むゲオをそのままセカストに替える場合もあり、居抜き出店は多い。このように居抜きが多いのは、基本的にセカストの店舗は、洋服を並べるラックや棚があれば出店可能だからだ。

つまり、ロードサイドの大型店がなくなったとき、機敏にそこへ出店できる。さらに、一般的に居抜きは、出店コストが低く済む場合が多く、店舗数の割に必要な経費が少なく済むから、出店スピードも早めることができる。どんどんと地方に進出できるわけだ。

その意味で、その業態の特性から、都心だけでなく地方郊外にも満遍なく迅速に出店をすることができるセカストは、結果としてゲオを支える柱へと成長したのだ。

「地方・郊外」を攻略して、斜陽化するレンタル業界から華々しく転換を遂げることに成功した事例なのである。

ちなみに、ゲオのこうした「地方」への眼差しは、どうやら創業時から続くDNAのようなものらしい。

ゲオは1号店と2号店を豊田市で始めたのだが、3号店を秋田に出店する。なぜ秋田だったか。それに対して、ゲオの創業者である遠藤結城は次のような発言を残している。

「都会に住んでいると地方を見なくなるものです。たまたまニチレイ時代に仙台支店にいた私は、東北地方を回った経験がありますから、地方の消費パワーは侮れない、競争が甘いぶん投資に対するゲインはより大きい、と思っていました」

ゲオを創業する前、ニチレイで働いていた……というのがまず驚きだが、それはさておき、そのような背景があって、地方に対する確かな眼差しは、創業時からゲオに受け継がれてきたのだ。

ここで思い出すのが、ゲオと並ぶレンタルビデオショップとして知られる「TSUTAYA」だ。同ショップを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)はここ数年、迷走状態が続いている……と言われている。

ゲオと同じく、レンタル産業の斜陽化に伴い、TSUTAYAの業績は衰退。近年のニュースでいえば、そのレンタル事業における最大のフランチャイズ加盟店だったトップカルチャーが、レンタル事業から撤退するニュースも記憶に新しい。

こうした流れに伴い、CCCはさまざまな業態にチャレンジしていく。プレミアムエイジ向けの書店で、代官山にオープンした蔦屋書店(2011年)、公共図書館とタッグを組んだ蔦屋図書館(2013年〜)、生活提案型の家電製品販売を行う蔦屋家電(2015年)、シェアラウンジ(2019年〜)など、注目を集めるものも多い。

蔦屋書店

しかし、どれもいくつかの都市に点在していたり、あるいは都心部で限定的に行われるコンセプトストア的なものが多く、ゲオにおけるセカスト的な、その企業全体の業績を支えるような決定的な業態を生み出せていないことは確かである。つまり、ゲオがセカストで成し得た「地方・郊外への出店」がうまく進んでいない。

また、本稿では本論ではないために軽く触れるにとどめるが、CCCはTポイントをはじめとするデータベースマーケティング事業に乗り出しているものの、そちらでもなかなか思うような業績が出せず、三井住友のVポイントと統合された。

こうした不調を裏付けるかのように、2023年度のCCC全体の決算は15.8%減となっている。セカストという柱を見つけたゲオとは対照的だといえる。

次なるセカストは生まれるのか

では、CCCが、セカスト的な業態を生み出す可能性はあるのか。

ここで注目したいのが、2024年4月にリニューアルオープンしたSHIBUYA TSUTAYAだ。

渋谷TSUTAYA

次世代のカルチャーインフラになるのか、注目を集めている渋谷TSUTAYA。なお、写真はリニューアル前のもの(筆者撮影)

かつてのSHIBUYA TSUTAYAは、レンタルビデオショップとして、日本最大級の広さを誇る店内にぎっしりとDVDなどが並べられていたが、リニューアル後はそうした「モノ」が並んでいた空間はまったく違う姿を見せていた。

3・4階は広大なシェアラウンジとなり人々が滞留できる場所に、5階には「POKÉMON CARD LOUNGE」が広がり、ポケモンのカードゲームを通じて交流できる場所を作っている。また、1階には時期ごとに展示内容が変わるイベントスペースがあり、基本的に「スペース」が目立つ空間となっている。カルチャーを提供する「店」というより、カルチャーを共有する「場所」になったのだ。

以前、私は東洋経済オンラインにて、このSHIBUYA TSUTAYAを「絵空事にすぎないが、もしSHIBUYA TSUTAYAが成功して全国にSHIBUYA TSUTAYAのようなスペースが増えるのだとしたら、その拡大はわりあい簡単だと思う。というのも、ポップアップストアにしてもイベントスペースにしても、『空間』があればよいのであり、店舗開発には大きなコストがかからないからである」と書いた。

関連記事:渋谷TSUTAYAの大変貌は復活の序章かもしれない 「インフラを作る」企業ミッションの再定義だ

実際、誕生したポケモンカードラウンジはとても人気だというし、すでに各地のTSUTAYAの中にはポケモンカードの公式対戦場である「ポケモンカードジム」ができていたりする。ある意味「場所」があればよいのだから、居抜きでも対応できるし、こうした方向性は展開可能性があるかもしれない。

CCCの新規事業は「郊外での出店」は厳しめ?

しかし、それ以外はどうだろう。例えばシェアラウンジは、ある程度その周りにリモートワーカーがいなければ成立しない。また、イベントスペースも確実な集客が見込めなければ難しい。その意味で、こうした業態も都心に親和性が高いといえる。

私個人としては、SHIBUYA TSUTAYAの方向性は非常に面白く、興味深いと感じている。ここまで大きな企業があそこまで思い切ったフロア構成をしたことも素晴らしい決断だと思う。

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一方、「地方郊外への展開」で見たとき、鮮明なビジョンが見えるかといえば、疑問が生じるのも確かだ。現状、「蔦屋書店」は都心以外でもそれなりに出店しているものの、出店場所がその都府県の中心部であることは確かだ。CCCの今後の展開は、どのようにして「地方郊外への波及可能性のある業態」を見つけるかにかかっている。

逆に言えば、都会しか見ない目線のみでビジネスを考えてしまうと、地方・郊外の消費パワーの恩恵を受けることができず、事業としては厳しくなる。ゲオ創業者の遠藤が言っていた「都会に住んでいると地方を見なくなるものです」という言葉が重く響く。

そう考えると、逆にいえば、セカストのように、地方郊外であれ、都心であれ(なおかつ海外も!)対応できる業態を発見するのが、いかに難しいのかがわかる、ということだ。

ゲオとCCC。かつてレンタルショップとして名を馳せた2つの企業の行く末は、「地方郊外」の攻略において、大きく差が付いているのかもしれない。

【画像10枚】レンタルDVDのイメージを脱し、すっかり「リユースの会社」となったゲオ。営む「セカンドストリート」の様子と、好調な業績推移

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セカンドストリートの外観

セカンドストリートの外観(筆者撮影)

セカンドストリートの内観

服から、アクセサリーまで幅広く買い取り、販売している(筆者撮影)

セカンドストリートの内観その2

セカンドストリートの内観(筆者撮影)

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)

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