あの「C」マークは何?実は知らない視力検査の正体

視力検査

(写真:mikisaki/PIXTA)
数学を使って世の中の仕組みを知ることで、物事を見る視野が広がります。現役東大生の永田耕作さんが数学の魅力について解説する連載『東大式「新・教養としての数学」』。今回のテーマは「視力」です。

視力検査は何を測定している?

スマートフォンの普及により、私たちの生活は便利になりました。この記事をスマホで読んでいるというかたも多いでしょう。NTTドコモ モバイル社会研究所の調査によると、2024年時点での携帯電話所有者のスマートフォン比率は97%です。

スマホは便利である一方で、視力への影響が懸念されています。特に、長時間のスマホ使用が原因で近視が進行するケースが増えており、これが若年層を中心に大きな問題となっています。

視力とは、空間にある物体の形や大きさを識別する力を数値化したものです。では、「1.0」や「0.5」といった数字はどのような基準で定められているのでしょうか。

視力を定義するためには、「視角」という概念を理解することが必要です。視角は「目と物体の両端を結ぶ2直線のなす角度」のこと。

視角の単位は、基本的に「分」が用いられます。1分は60分の1度であり、これを用いて視力は、

「文字や形を視標として、各部の太さや間隔、隙間を視角1分、その全体を視角5分としたとき、これを見分けることができる視力を1.0とする」

と定義されています。これを「5分1分角の原理」といいます。この原理を基準にして作られたのが、視力検査でなじみのある「C」のような図形を見て、そのCがどの方向を向いているかを答える「ランドルト環」です。

現在では、外直径7.272mm、太さ1.454mm、切目の幅1.454mmのランドルト環のどの方向に穴が空いているのかを、5m離れた位置から識別できれば「視力1.0」であると定められています。視力の定義にも厳密な数学の計算、そして図形的な考え方が用いられているのです。

視力の計算式

では、2.0や0.5といった視力の基準はどのようになっているのか。それは、以下のような式が用いられています。

視力=1/視角(分)

視角が1分のときは、視力も1(1.0)となります。視角が広がって2分になれば視力は0.5に、逆に視角が0.5分になれば、視力は2(2.0)となります。視力と視角は、数学でいう「逆数」の関係になります。

視角が広くなると視力が落ちると聞くと直感とは異なるように感じますが、ここでいう「視角」は目で見ることのできる角度の大きさではなく、文字や形の形を識別できる角度の小ささを表しているため、数字が小さくなるほど目がいいということになるのです。

この定義を用いると、日本のJIS規格において定められた外直径7.272mm、太さ1.454mm、切目の幅1.454mmのランドルト環を、形をそのまま大きさを2倍に拡大したものが識別できれば視角は2分であるため、視力は0.5となります。逆に、このランドルト環の大きさを1/2にしたものが識別できれば視力は2.0となります。

「視力11.0」は何が見えるのか

ちなみに、視力が世界でいちばんいいのは、アフリカのタンザニアで暮らす狩猟採集民ハッザの人々であるといわれています。いちばん視力のいい人で日本での計測方法に換算すると「視力11.0」にも達するようです。視力11.0を先ほどの定義に当てはめると、JISの規格のランドルト環を55m離れた場所から識別できることになります。

55m先の「1.454mm」の隙間が見えるとはどのくらいのスケールなのか。1円玉の厚さが1.5mmであるため、あえて例示するのであれば、50m以上先の1円玉の連なりを見て、何枚あるか数えられるということです。

皆さんがこれまでおそらく一度は触れてきたであろう「視力」。しかし、その数値の定義についてはあまり知らなかった人が多いでしょう。これをきっかけに、何気なく見ている普段の数字にも、意味を考えたり、大小を比べてみたりしていただけると幸いです。

(永田 耕作 : 現役東大生・ドラゴン桜チャンネル塾長)

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