郵便局「デザイン入り消印」に描かれた高速道路

筆者は風景印を集め始めて50年以上、全国1万局を訪ねてきた経験を持つ(画像:筆者提供)

筆者は風景印を集め始めて50年以上、全国1万局を訪ねてきた経験を持つ(画像:筆者提供)

お盆休み期間の8月14日、横浜狩場郵便局(横浜市保土ケ谷区)に出向き、通常の消印とは異なる「風景印」という、周辺の風景が描かれたデザイン入りの消印を押してもらった。

見てわかる通り、印影の真ん中に首都高神奈川3号狩場線の本線料金所が、大きく描かれているデザインだ。高速の料金所がメインに描かれた風景印はめずらしく、高速道路ファンの筆者はワクワクさせられる。

横浜狩場郵便局の風景印。首都高と横浜ランドマークタワーが描かれる(画像:筆者提供)

横浜狩場郵便局でこの風景印が使用され始めたのは、2022年10月。局員と少し話したところ、狩場というと高速道路のイメージが強いため、このデザインになったとのこと。

この絵柄と同じ景色が見られる場所を教えてもらい、そこからの眺望を写真に収めた。風景印ではかなり近くに描かれている横浜ランドマークタワーは、実際には「遠望」というほどの距離感だった。

風景印に描かれた景色を実際に訪れてみると、かなりの遠望だがたしかに構図は同じだった(筆者撮影)

風景印に描かれた景色を実際に訪れてみるとかなりの遠望だが、たしかに構図は同じだった(筆者撮影)

全国の「ほぼ半数」の郵便局に設置

風景印は、郵便物に貼られた切手に対し、適正な料金が納められたことを確認するとともに、その切手が二度と使われないようにするためのスタンプである消印の一種。

日本中の郵便局のほぼ半数(1万1千余局)に設置され、だれでもお願いすれば押印してもらうことができる。

デザインは、郵便局が立地する地域の名所や旧跡、アピールしたいものなどが描かれており、旅の記念として集めているマニアも一定数いる。筆者は、小学校高学年のころから集め始め、かれこれ50年ほど風景印と付き合っている。

2007年には、これまで実際に足を運んで集めた風景印を紹介する、『郵便局を訪ねて1万局 東へ西へ「郵ちゃん」が行く』という書籍を光文社新書から刊行したこともある。

この風景印、現地に出向かなくても、郵便で押印をお願いすることができるが、筆者は自分の足で郵便局を実際に訪れないと集めた気がしないので、結果として日本中の郵便局をめぐることになった。

【写真】1万局を訪れた筆者の風景印の数々

郵便局は生活圏にもいくつもあるものだが、中には訪問にかなりの難行を求められるところもある。その最たるものが、富士山の山頂にある、その名も「富士山頂郵便局(富士宮市)である。

風景印を求めて訪れた富士山頂郵便局(筆者撮影)

風景印を求めて訪れた富士山頂郵便局(筆者撮影)

筆者は10年ほど前に富士登山を敢行したが、その主たる目的は富士山頂郵便局の風景印を“制覇すること”であった。

ほかにも、小笠原村の父島に小笠原郵便局、母島に母島簡易郵便局があり、片道24時間の船旅で小笠原諸島を訪れて両方の郵便局の足跡を印した。郵便局は、このように離島も含めた全国津々浦々にあるので、完全踏破しようとすると鉄道の“全線完乗”よりも難易度が高い。

高速道路が描かれる風景印

さて、全国に1万種類以上もある風景印のデザインを見てみると、横浜狩場郵便局と同様に、高速道路やその施設が描かれているものがいくつもある。

インターチェンジがしっかりと描かれているのが、山口県の大内郵便局(山口市)。中国自動車、山口IC(インターチェンジ)の様子が大きくデザインされている。一緒に描かれる人形は、山口市の伝統工芸品である大内人形だ。

東京都の足立西加平郵便局(足立区)も、デザインの中心は首都高6号三郷線の加平ランプである。らせん状にループを描く独特の形状をしており、それが風景印のメインのデザインとなっている。

左:大内郵便局、右:足立西加平郵便局の風景印。どちらも昭和60年に訪れている(画像:筆者提供)

左:大内郵便局、右:足立西加平郵便局の風景印。どちらも昭和60年に訪れている(画像:筆者提供)

名古屋平田郵便局(名古屋市西区)の風景印には、「平田」とインターチェンジ名もわかるように高速への入り口が描かれている。一見、都市高速へのランプのようにも見えるが、名古屋第二環状道(名二環)の平田ICである。

同じ愛知県の一宮中島郵便局(一宮市)でも、簡略化されたイラストで高速のICが大きく描かれている。東海北陸道の一宮木曽川ICだ。

左:名古屋平田郵便局、右:一宮中島郵便局の風景印(画像:筆者提供)

左:名古屋平田郵便局、右:一宮中島郵便局の風景印(画像:筆者提供)

ほかにも、愛知県には小牧郵便局(小牧市)や名古屋落合郵便局(名古屋市北区)、名古屋東片端郵便局(名古屋市東区)などに、ICやJCT(ジャンクション)が描かれた風景印がある。

神奈川県の大和郵便局(大和市)の風景印には、クルマが順調に流れる東名高速道路が見られる。

左:名古屋東片端郵便局、右:大和郵便局。大和のほうは昭和55年の日付が入る(画像:筆者提供)

左:名古屋東片端郵便局、右:大和郵便局。大和のほうは昭和55年の日付が入る(画像:筆者提供)

しかし、実際のこの付近には、上下線とも渋滞の名所になっている大和トンネルがあり、クルマが数珠つなぎとなることが多い。現在も道路の改良工事が行われているが、風景印のようにスムーズに走れるようになるのは、いつになるだろうか。

地域のシンボルとしての高速道路

千葉県の木更津郵便局(木更津市)の風景印には、東京湾アクアラインの一部であるアクアブリッジが強調されている。この開通で、房総半島と川崎・東京方面との行き来が飛躍的に短縮された。

こちらも、東名・大和トンネル付近同様、休日を中心に渋滞が目立つ場所である。休日午後から夜にかけての川崎方面行きの車線では、日本の高速道路で初めての本格的なロードプライシング(時間帯によって通行料を変動させる施策)が行われており、まさに木更津のシンボルのひとつと言えよう。

左:木更津局、右:西郷郵便局の風景印(画像:筆者提供)

左:木更津郵便局、右:西郷郵便局の風景印(画像:筆者提供)

福島県の玄関口ともいえる西郷村の西郷郵便局には、東北新幹線と東北道(デザインは白河IC)がともに描かれている。まさに、東北の入り口となる交通の要衝であることが、ストレートに伝わってくるデザインだ。

白河ICも、風景印には直接描かれていない新幹線の新白河駅も、ともに白河市ではなく隣接する西白河郡西郷村にあるので、西郷郵便局の図案となっている。

その他、長野道・麻績(おみ)ICを描いた麻績郵便局(長野県麻績村)、中央道の恵那山トンネルの出入口を描く阿智郵便局(長野県阿智村)、京葉道路・原木ICを描いた市川原木、市川二俣の両郵便局(ともに市川市)など、風景印に高速道路の姿を探すのはそれほど難しくない。高速道路やインターチェンジが、地域のシンボルになっている証である。

左:市川原木郵便局、右:豊田郵便局の風景印(画像:筆者提供)

左:市川原木郵便局、右:豊田郵便局の風景印(画像:筆者提供)

少し脱線するが、愛知県豊田市の豊田郵便局の風景印は、円形ではなく上に少し図案がはみ出している「変形印」だ。飛び出しているのは、クラシカルな乗用車である。

豊田市は、いうまでもなくトヨタ自動車の本拠地であり、日本の自動車産業の歩みを体現した都市でもある。そのため、豊田市内にはほかにも自動車を描いた風景印を持つ郵便局が複数ある。

筆者の「風景印制覇の旅」は続く

なお風景印は、はがき料金以上の切手を貼った台紙や、はがきの料額印面(表の切手にあたる部分)に押印してもらい、記念に持ち帰ることができるし、切手を貼った郵便物などに消印として押してもらい、そのまま有効な郵便物として相手に届けることもできる。

つまり、郵便物として投函しなくても、実質的に“有料”で押印してもらえるともいえる。現在のはがき料金は63円だが、今年10月からは85円へと大幅な値上げが予定されているので、集めようと思う人は注意が必要だ。

まだ、完全制覇を終えていない(なぜなら毎年新たに風景印が設置されたり、図案が変わったりする郵便局が一定数あるので)筆者としても、財布に厳しい値上げとなるだろう。それでも、全局コンプリートするまで、高速道路を走りながらの風景印制覇の旅は続けたい。

ちなみに、金沢市の金沢駅内郵便局のように、駅の構内に郵便局が入っていたり、千葉県の江見駅郵便局(鴨川市)や安房勝山駅郵便局(鋸南町)など駅との合築になっている郵便局も登場しつつあるが、今のところ、サービスエリア・パーキングエリアに郵便局が設置されたケースはない。

サービスエリアの多種多様な店舗やサービスの拡充の流れが続けば、もしかしたら「○○サービスエリア内郵便局」が出現するかもしれない。風景印マニア、高速道路マニアとして、ひそかに楽しみにしている。

【写真】記事中で取り上げた風景印のデザインを大きく見る

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)

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