南海「聖地の玄関口」高野山駅、知られざる裏側

南海 高野山駅 駅舎

南海電気鉄道の高野山駅。画面右に進むとバス乗り場がある(記者撮影)

2024年7月、真言密教の聖地である高野山が「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界文化遺産に登録されてから20周年を迎えた。

高野山への参拝者・観光客の足を担う公共交通機関が南海電気鉄道の高野線の電車だ。大阪市中心部のターミナル難波から、特急「こうや」や一部の快速急行・急行が急勾配・急曲線の山岳区間を経て極楽橋駅まで直接乗り入れる。

ケーブルカーとバスの結節点

極楽橋駅の高野線ホームに到着した乗客は、改札を出ることなく川を渡る橋を兼ねた連絡通路でケーブルカーの乗り場へ向かう。南海電鉄では「鋼索線」と呼ぶケーブルカーの極楽橋駅は標高539m。約5分の乗車で同867mの高野山駅に到着する。両駅の標高差は東京タワーの高さほどある。

【写真】高野山の主要観光地へ向かうバスが発着する駅前。その地下に巨大空間が広がっていることは知られていない(50枚)

途中に改札がないため意識することはないが、難波―高野山間の運賃1430円のうち、難波―極楽橋間の電車分が930円。対して極楽橋―高野山間のケーブルカー分は500円を占める。最後のひと区間はそれだけの価値があるといえそうだ。

特急こうやを利用する場合は790円の料金が必要。極楽橋での乗り継ぎを含めて難波から高野山まで約1時間40分で行くことができる。

高野山の駅舎はレトロな雰囲気の建築。駅前は南海りんかんバスのターミナルとなっており、高野山のシンボルともいえる根本大塔などがある壇上伽藍や、弘法大師空海の入定の地とされる奥の院方面のバスが発着する。

山中に開けたこの駅前のロータリー、利用者は気づきようがないが、地下に意外なほど広い空間がある。これはケーブルカーの「巻上室」。2系統の原動機、減速機が置かれ、運転中は主索輪と従索輪、案内索輪という巨大な滑車が回転してロープを動かす。

南海 高野山駅前 地上バスロータリー

高野山駅前。地上にはバスが発着するロータリー(記者撮影)

南海 高野山ケーブル 巻上室

地下にはケーブルカーの「巻上室」(記者撮影)

ケーブルカーは2019年3月にデビューした4代目の車両。高野山開創1150年記念大法会を控えて1964年に登場した先代から実に54年ぶりに新造された。長さ1020mのロープでつながった2両編成の客車が上下する。最急勾配は高野山駅ホームの562.8パーミル(29.22度)。

壇上伽藍の根本大塔をイメージしたという朱色が目を引く車体は24.2度の傾斜がついている。最大乗車定員は211人(乗務員1人を含む)だが、乗客が多い場合などには臨時便を出して対応する。

レトロ建築の駅舎

高野山駅の所在地は「和歌山県伊都郡高野町高野山国有林」。極楽橋駅までの鉄道が開通した1年4カ月後、1930年6月29日に開業した。木造2階建て、鉄板ぶきの駅舎は2005年に国の登録有形文化財となった。

高野山開創1200年にあたる2015年にリニューアルを実施。丸窓や欄干のような装飾など昭和初期の開業当初の外観に近づけた。きっぷの販売窓口はオープンカウンター形式に改装。2階にはケーブルカーや駅の歴史に関連した展示コーナーと橋本方面の眺めが楽しめる展望室を設けた。開業当初は2階に食堂があり、現在の展望室はバルコニーだったという。

南海 高野山ケーブル 運転室

ケーブルカーの運転台は高野山駅にある(記者撮影)

南海高野山駅 駅舎2階内部

高野山駅の駅舎2階。2015年にリニューアルした(記者撮影)

通勤通学の足としての性格が強い高野線の橋本以北の駅とは、ずいぶんと雰囲気が異なるが、どのような利用の特徴があるのか。高野山・河内管区高野山駅長の丸谷紀文さんは「ゴールデンウイークなどの観光シーズンが繁忙期で、秋の紅葉の時期はいちばんにぎわいます」と説明する。根本大塔に続く蛇腹路の紅葉が有名だ。

「8月のお盆の時期もお墓参りにいらっしゃる方が目立ちます。一方で初詣客は少ないですね。私も正月に金剛峯寺に行きますが、御朱印を押しに来る人はいても数は多くないです」(丸谷駅長)

丸谷駅長はふもとの橋本市の出身。1992年に南海電鉄に入社し、河内長野、橋本、堺東などの駅で勤務してきた。2023年10月に高野山駅長に就く前は関西空港の駅長だった。「東京、京都、高野山と巡る外国人客が多い」といい、高野山駅を難波や関西空港に並ぶ南海電鉄の重要拠点と位置付ける。

南海高野山駅 駅長

高野山・河内管区高野山駅長の丸谷紀文さん(記者撮影)

フランス人に大人気?

高野山内でとくに目立つのが、精進料理や宿坊といった日本文化体験を目当てに訪れる欧米系の観光客の姿。2009年に「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で3つ星を獲得した影響でフランス人に人気が高いようだ。

高野線の山岳区間で特急こうやの車内で流れる案内放送は日本語、英語に次いでフランス語。和歌山県の2023年の観光客動態調査によると、国・地域別に見た高野町の宿泊客数はフランスが1万3899人泊で、アメリカ(8101人泊)の約1.5倍と突出している。

国内外から年間約140万人が足を運ぶ高野山でも「オーバーツーリズム」による道路渋滞などの問題が指摘されている。高野町は2028年4月までに「訪問税」といった法定外税を導入する方針。電車やケーブルカー、バスといった公共交通機関の役割はこれまで以上に増すことになりそうだ。

(橋村 季真 : 東洋経済 記者)

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