近鉄「けいはんな線の終点」学研奈良登美ヶ丘の先

近鉄けいはんな線 学研奈良登美ヶ丘駅

東側から見た近鉄けいはんな線の学研奈良登美ヶ丘駅。左は直通運転をする大阪メトロ中央線の車両だ(記者撮影)

京阪神エリアの地下鉄や大手私鉄の路線には比較的長い駅名が多い。大阪メトロの御堂筋線に西中島南方、堺筋線・谷町線に天神橋筋六丁目、谷町線に四天王寺前夕陽ケ丘、阪急電鉄の宝塚線には雲雀丘花屋敷……と挙げ始めればキリがない。

近畿日本鉄道のけいはんな線の終点、「学研奈良登美ヶ丘」もその1つだろう。終点なので当然、行き先表示や発車標で長さが目立っている。けいはんな線は大阪メトロ中央線と相互直通運転をしていて、反対側の行き先も「コスモスクエア」と、始発・終着の双方の駅を合わせるとなかなかの文字数になる。

大阪メトロ中央線に直通

けいはんな線は長田(東大阪市)―学研奈良登美ヶ丘間(奈良市)を結ぶ近鉄で最も新しい路線。まず1986年10月1日に長田―生駒間が東大阪線として開業し、当時の大阪市営地下鉄中央線の大阪港まで直通運転を開始した。

【写真】イオンモールができる前、周りに何もなかった完成当時の学研奈良登美ヶ丘駅。現在のけいはんな線と駅周辺の様子(40枚)

その後、中央線は1997年、大阪港―コスモスクエア間が当初OTSテクノポート線として開業した。大阪の中心部を東西に横断する中央線は、本町などのビジネス街へ直接アクセスできるほか、御堂筋線をはじめとする大阪メトロのすべての路線と接続している。さらに九条で阪神なんば線、弁天町と森ノ宮でJR大阪環状線、高井田でJRおおさか東線と、他社線と乗り換えもできる。

中央線とけいはんな線の接続駅である長田駅は地下にあるが、東大阪市役所最寄りの荒本駅付近を過ぎると地上に出て、新石切駅付近ではかなりの高さの高架を走る。地面がせりあがってきたように見えるとトンネルに入る。大阪・奈良の府県境を越える生駒トンネルを抜けたら、近鉄創業路線でもある奈良線と合流して生駒駅に到着する。

生駒駅はけいはんな線と奈良線、それに同駅と王寺を結ぶ生駒線が乗り入れる。駅の外には、宝山寺や生駒山上遊園地への交通手段である生駒ケーブルの鳥居前駅もあって山中の一大ターミナルの感がある。駅構内でけいはんな線と奈良線・生駒線の乗り換えには連絡改札を通る。

生駒から東、学研奈良登美ヶ丘までの区間は2006年3月27日に延伸開業した。同区間は「上下分離方式」で運営されている。奈良県と生駒市、奈良市が半分、残りを近鉄や日本政策投資銀行などが出資する奈良生駒高速鉄道が施設を所有する第3種鉄道事業者、近鉄がこの施設を借りて運営する第2種鉄道事業者となっている。途中に白庭台と学研北生駒の2駅がある。

集電方式がほかと違う

けいはんな線の集電方式はサードレール(第3軌条)方式で、近鉄のほかの路線のようにパンタグラフを用いないため、線路上に架線がない。生駒駅の前後では奈良線と並走するため両者の違いがよくわかる。車両は近鉄の7000系、7020系のほか、大阪メトロの30000A系、400系が活躍する。サードレールとしては国内最速の時速95kmで走行する区間がある。

近鉄7000系は1987年、大阪メトロ400系は2024年に鉄道友の会の「ローレル賞」に選ばれている。一方、御堂筋線の車両をベースに開発された30000A系は、2025年開催の大阪・関西万博の輸送力増強を目的としており、万博後は谷町線に転用する予定だ。

学研奈良登美ヶ丘駅 生駒方の眺望

駅のホームから見た生駒方面。線路上に架線がないサードレール方式。周囲には住宅地が広がる(記者撮影)

ところで、終点の学研奈良登美ヶ丘、漢字で8文字、ひらがなにすると「がっけんならとみがおか」と11文字にもなる。地元の利用者は日頃なんと呼んでいるのか。がっけん?それとも、がっけんなら?

「『とみがおか』ですね」。けいはんな線の駅を管理する生駒駅の柳谷裕一駅長に尋ねると、シンプルな答えが返ってきた。

生駒駅 駅長 けいはんな線7020系

生駒駅のけいはんな線ホームに立つ同駅の柳谷裕一駅長。電車の行き先は「学研奈良登美ヶ丘」(記者撮影)

学研奈良登美ヶ丘駅のホームは高架の1面2線でこちらもシンプルな構造。1階に北出口と南出口が向かい合っている。所在地は奈良市だが、南を除いた三方を生駒市に囲まれている。駅の近くで存在感を放つ「イオンモール奈良登美ヶ丘」も生駒市鹿畑町という所在地にある。線路の先では京都府との府県境が目の前に迫っている。

「イオンモールなどの商業施設があって大きな建物に囲まれていますが、のどかやな、と思います。街並みが整備されていて住みやすそうな、上品な住宅街のイメージです」(柳谷駅長)

けいはんな線の将来は?

線路が行き止まりになっている高架東側の壁面には、けいはんな線の開業記念として実施した公募コンクールで最優秀賞に選ばれた指頭画師・竹中宗指さんの作品『平成の古都奈良』がデザインされている。

その壁画がある駅東側はバスターミナルとなっていて、学園前や祝園方面のバスが発着する。とくに祝園方面へは7時台には10本のバスが出ている。周辺には戸建てやマンションが建ち並ぶ住宅地が広がるほか、奈良先端科学技術大学院大学や国立国会図書館関西館、企業の開発拠点など大規模な教育・研究施設が位置している。

学研奈良登美ヶ丘駅 高架終端側

壁画が描かれた学研奈良登美ヶ丘駅の高架東側。祝園や学園前方面の奈良交通バスが発着する(記者撮影)

大阪メトロは、万博会場へ直接乗り入れるアクセス鉄道として中央線のコスモスクエア―夢洲間3.2kmの延伸開業を2025年1月末に目指す。世界中から万博を訪れた人に対しても学研奈良登美ヶ丘の駅名が目に触れることになりそうだ。

一方、けいはんな線にも延伸構想がある。京都府精華町は「京阪奈新線新祝園ルート整備促進協議会」を2019年に設立。(仮称)学研中央駅を経て、近鉄京都線の新祝園駅までつなぐことで、京都市営地下鉄の国際会館駅から夢洲駅までを乗り換えなしでつなぐメリットを訴える(ただし直通運転には集電方式の違いを克服する必要がある)。ほかに高の原駅と結ぶ案もある。

学研奈良登美ヶ丘の長い駅名には将来への期待も込められているに違いない。

(橋村 季真 : 東洋経済 記者)

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