「休養を軸にしたスケジュール」で仕事が捗る理由

山登り

山登りを趣味とする佐々木俊尚氏は、体を動かすことで日常の仕事が楽になると語ります(写真:ばりろく/PIXTA)
突然ですが、あなたは今疲れていませんか?
世界でも珍しい「疲労研究」の第一人者による書籍『休養学:あなたを疲れから救う』がこのほど上梓されました。
本書によると、現代人の疲れは「単に体を休める」だけでは50%程度しか回復せず、100%に戻すには、あえて自分に軽い負荷を与え、「活動→疲労→休養」というサイクルに「活力」を加えた「攻めの休養」をとることが肝心だとされています。
早朝のジム通いなど、日ごろから軽めの負荷を取り入れた生活をおくるジャーナリストの佐々木俊尚氏は本書をどう読んだのか。前編と後編の2回に分けてお届けします。

朝の運動で昨日と今日をリセット

『休養学:あなたを疲れから救う』には、僕が以前から実感していたことがたくさん書かれていて、納得感のある1冊でした。

休養学: あなたを疲れから救う

例えば、運動をするなら朝のほうがいい理由が書かれていますが、僕は、昔から、朝早くジムで運動しています。「朝からそんなことをしていたら、疲れて仕事にならないのでは」と言われるのですが、本書にある通り、交感神経と副交感神経のバランスを考えると、夜はクールダウンして眠りに入りやすくするために、激しい運動は避けたほうがよいのです。

新聞記者時代は、運動をする余裕がありませんでしたが、出版社に転職した40歳ぐらいの頃、ジムに通い始めました。週に2、3日程度、ランニングをしてから出勤していたのですが、最初はすごく疲れて、会社に着くとぐったりしていました。でも、1年くらいで慣れましたよ。

以来、20年以上運動を続けています。3年くらい前からは、60代を見据えて、ボディメイクを意識するようにもなり、毎朝通うようになりました。

寝て、起きて、仕事をする前にジムに行くと、運動をしてシャワーを浴びた後に1日が始まるという区切りができて、昨日と今日とがきちんとリセットされる感覚があり、気持ちいいですね。昼間、適度な運動をすると体も疲れますので、夜になると副交感神経が高まって、深い睡眠がとれるといううれしい効果もあります。

山登りが活力になる

活力を生むためにも、体を動かす時間をとるということは大切ですね。ものすごく働いて、週末になると倒れるように寝て、ダラダラしているという人が多いのですが、僕は、月に2回は山登りに出かけています。

もう40年ぐらい登っていますが、山は、肉体的な負荷が大量にかかり、かなり疲れます。アップダウンの激しい道を6時間ぐらい歩いて、ぐったりして帰宅するのです。

週末までそんなに忙しく過ごしてどうするのかと言われそうですが、やっぱりそれが僕の活力になります。汗を流して、体を動かしたことによって、日常の仕事が楽になるんですね。

転落の恐れがあるところにも登りますが、怖さより、心地よい緊張感が得られます。アスリートに起きる「フロー」の状態に似ているかもしれません。

山登りの最中は、スマホも見られませんし、会話もろくにできません。がけ崩れなどの危険を察知しなければいけませんから、音楽を聴いたりもできません。自然の中でいかに神経を研ぎ澄まして、周りの環境を把握するかが大事なのです。

日常生活と山の中では、まったく違う意識の配り方になる。そこが気持ちいいのだと思います。脳の違う場所を使うと疲れがとれるものですが、山登りはそれに当たるのです。

本書では、休養を「生理的休養」「心理的休養」「社会的休養」の3つにわけて解説しており、「社会的休養」を、環境を変えることで気分をリセットする「転換」と定義しています。山登りはまさにそれですね。

僕にとって、もう1つの大きな「転換」は、3拠点生活をしていることです。単に場所を変えるだけでは、それほど大きな転換にはなりませんが、拠点を移すために、いろんな用事を終わらせて整理するという作業が必要になるのです。

例えば、今週末、東京から福井の拠点に移動するという予定になっていれば、それまでに仕事を一区切りさせようとか、野菜を食べ切ってしまおう、ゴミ出しのスケジュールを立てておこうと考えます。

そういった細かいことをこなすことで、次の拠点に移動した時、ゼロスタートになり、転換が気持ちよくなるわけです。

山登りにしろ、拠点間移動にしろ、3カ月ぐらい前には予定を決めて、あらかじめ仕事の調整をするようにしています。どうしても予定を変更しなければならない時もありますが、なるべく3拠点移動生活をベースにスケジュールを組んでいくわけです。

それを意識的にやらなければ、いつまでも別の拠点に行けません。よく「いつか会いましょう」「いつか旅行に行きたいですね」と言うだけで、いつまでもその機会を作らないまま、とうとう定年になってしまったという人の話を聞きます。

週末になっても、なんだかダラダラと仕事をしてしまうという人も多いと思いますが、休みを取ってもダラダラと寝てしまう、いつまでも旅行計画が立てられないという人と似ているように思います。

デジタル時代の「休養」タスク管理

デジタル時代、スマホによっていつでも連絡がつくようになり、オン・オフの線引きが難しくなったと言われますが、考えてみてほしいのは、「その場で返事をしなければいけないほどの用件なのか」ということです。

土曜、日曜にメールを送ってくる人がいても、返事は月曜で十分でしょう。そういう場合、僕は、月曜のタスクリストに「〇〇さんのメールに返事」と入れて、とりあえず頭の中から追い出します。

フリーランスで仕事をしていると、土日も深夜も関係なくメールが届くことは多いのですが、基本は「いつまでに返事が必要なのか」を見極めて、すべてタスク管理し、自分でコントロールするようにしています。

活力は、山登りで体を動かしたり、拠点間移動をしたり、何かをやることによって生まれてきます。その「何かをやる日」を作るためには、スケジューリングして、心の中を空っぽにするということが何よりも大事ですね。

「休暇が取れない」マインドを変えよう

日本の職場は、有給休暇でさえ申請しづらいと言われてきましたが、平成のブラック企業の時代も終わりに向かい、売り手市場の今後は、そんなことをやっていれば、従業員が辞めていなくなるホワイト化の時代になっていきます。

逆に、有給休暇がスムーズに取れないような会社なら、転職するべきでしょう。いつまでもブラック企業にしがみついて、「休みを取れない」と言っていても、もう会社は終身雇用で守ってはくれないのです。

メンバーシップ型で、終身雇用が当たり前だった昭和の時代の常識では、「転職する」という発想はありませんでした。仕事は自動的に上から降ってきて、なおかつ社内でいろんな部署を回るばかりで、エキスパートになることもあまりない。その中で、自分の専門性を磨こうとか、自立しようという発想はなくなっていきました。

もちろん、終身雇用にはよい面もあります。しかし、ある程度は壊していき、自分で仕事を選ぶのだという意識を持つように変わっていかなければいけません。そうなっていけば、個人個人の休養や、仕事に対する考え方も変わってくるのではないかと期待しています。

(後編は6月30日公開予定です)

(構成:泉美木蘭)

(佐々木 俊尚 : 作家・ジャーナリスト)

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