過去最高益となった「三越伊勢丹」M&Aにも触手

10年ぶりに営業利益が過去最高を更新した三越伊勢丹ホールディングス<3099>が、2026年3月期から2031年3月期までの6カ年の中期経営計画を策定し、この中でM&Aを実施する可能性を示した。

適時開示情報によると同社は2022年に、高級スーパーマーケット「クイーンズ伊勢丹」を運営するエムアイフードスタイル(東京都新宿区)を子会社化した。

エムアイフードスタイルは、もともと三越伊勢丹の子会社だったが、ファンド主導で経営の立て直しを進めていた。再建の見通しが立ったため、同社の株式を買い戻し、再び子会社化したのだ。

このグループ内の再編とも言える案件を除くと、同社が手がけたM&Aは旅行会社のニッコウトラベルを子会社化した2017年にまでさかのぼる。

7年ほどM&Aから離れていた三越伊勢丹は今後M&Aとどう向き合っていくのか。

株主還元水準見直しも

三越伊勢丹は、百貨店を核にホテルやレストラン、オフィス、高級マンション、エンタテインメントなどの施設を開発し、より多くの顧客を呼び込むとともに、物流や建装、保守管理、人材派遣なども取り込むことで、不動産のみにとどまらない独自の収益モデルを目指す「まち化戦略」を進めている。

次期中期経営計画では、前半の2026年3月期から2028年3月期までの3カ年を「まち化計画期間(まち化準備フェーズⅠ)」とし、後半の2029年3月期から2031年3月期までの3カ年を「まち化設計~着工期間(まち化準備フェーズⅡ)」と位置付ける。

この計画では、前半の3カ年で、1500億円の株主還元を想定しているが、「中長期の成長に貢献するM&Aなどの大規模追加投資が発生した場合には株主還元水準の見直しを検討する」とし、M&A投資に前向きな姿勢を示している。

さらに後半3カ年は前半になかった機動的配分として全投資額の30~35%確保し、この中で追加の成長投資を行うとしており、この枠内でM&Aを実施することが予想される。

同社は世界中から集客して、三越伊勢丹アプリや、クレジットカードの「エムアイカード」を活用して、一人一人のニーズやインサイト(購買意欲の核心)を分析することで、百貨店での物販だけでなく、旅行や金融、エンタテインメント、リフォームなどの多様な価値を提案するビジネスモデルへの変革を進めている。

この取り組みの中で新規事業の創出にも力を入れることしており、M&Aの対象については詳細は明らかにしていないものの、百貨店や不動産などの既存事業分野とともに、これら新規事業に関わる企業や事業もM&Aの候補となりそうだ。

2期連続で過去最高益を更新

同社の2024年3月期は、売上高5364億4100万円で前年度より10.1%増えた。営業利益は543億6900万円で、こちらは83.6%もの増加となり、2014年の346億4600万円を大きく上回り、2008年の三越と伊勢丹の経営統合以降の最高営業利益となった。

入店客数が大幅に増加したほか、インバウンド(訪日観光客)需要も膨らんだのが好調の要因で、2025年3月期もこの傾向は変わらないとみて、2期連続の営業利益の過去最高更新を予想する。

さらに中期経営計画の前半の最終年となる2028年3月期は850億円の営業利益を、後半の最終年の2031年3月期には1000億~1100億円の営業利益を計画しており、過去最高の更新が続く見通し。

この目標に向け百貨店事業、不動産事業、金融事業(クレジットカードなど)、国内関連事業(さまざまなBtoB、BtoC ビジネス)などが、それぞれの事業戦略を展開するとともに、ここにM&Aの一手を加えることで、次の成長を確実に実現する計画だ。

三越伊勢丹ホールディングスの業績推移

2025/3は予想、2028/3、2031/3は計画

大手を中心に動きが拡大

百貨店業界はコロナ禍で厳しい状況に陥ったが、需要の回復にインバンドが加わり、業績が好調な企業が多く、M&Aにも動きが現れてきた。

J.フロントリテイリング<3086>は2025年7月までに、「大丸心斎橋店南館」の建物を保有する心斎橋共同センタービルディング(大阪市)を完全子会社化する。

エイチ・ツー・オーリテイリング<8242>は2024年5月に、中国浙江省で商業施設「寧波阪急」を運営する寧波阪急商業有限公司を傘下に持つ寧波開発(大阪市)を子会社化。

高島屋<8233>も2024年6月に、資産運用・形成のアドバイス業務を行うヴァスト・キュルチュール(大阪市)を子会社化した。

インバウンドというフォローの風の吹く百貨店業界では、大手を中心に三越伊勢丹のようにM&Aによってさらなる成長を目指す動きが広がっていきそうだ。

文:M&A Online記者 松本亮一


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