ソニーはなぜKADOKAWAを買収するのか?

KADOKAWA<9468>は20日、ソニーグループ<6758>から株式取得にかかる初期的意向表明を受領したと発表した。ソニーは2024年5月に発表した「2024年度経営方針」で、エンタテインメント業界におけるさらなる成長戦略に取り組むとしており、今回の買収意向もその一環と見られている。では、なぜKADOKAWAなのか?

理由1. 豊富なコンテンツライブラリ

KADOKAWAはアニメ、マンガ、ライトノベル、ゲームなど、多岐にわたるコンテンツを保有している。「涼宮ハルヒの憂鬱」や「推しの子」といった人気作品は国内外で高い評価を得ており、買収で取り込めればソニーのエンタテインメント事業傘下のコンテンツの質と量を強化できる。これによりソニーは自社の強みであるゲームや映画と連携した新たなメディア展開が可能となり、IP(知的財産権)の相乗効果を生むことが期待されている。

理由2. グローバル市場へのアクセス

KADOKAWAは国内市場だけでなく、海外にも積極進出している。2024年にタイでFIRST PAGEを買収したほか、韓国でO'FAN HOUSE、インドネシアでPHOENIX GRAMEDIA、フランスでVEGAをそれぞれ立ち上げてIPの翻訳や現地でのコンテンツ販売を手がけるなど、IPのグローバル展開が進む。特にアジア市場では日本のアニメやマンガの人気が急速に高まっており、ソニーはKADOKAWAの国際的な流通網やパートナーシップを通じて海外市場でのプレゼンスを強化することができる。

理由3. デジタルコンテンツの強化

KADOKAWAはデジタルコンテンツの配信にも力を入れているが、出版事業が母体なだけに紙媒体をオリジン(起源)とする小説やコミックといった、いわば「川上」のIP(知的財産権)に強い。一方、ソニーは業界に先駆けて2004年に電子書籍リーダーの「LIBRIe」を発売。いち早く電子書籍事業に乗り出したが、通信機能を備えネットで書籍コンテンツを直接ダウンロードできる後発の米アマゾン「Kindle」やタブレット端末にシェアを奪われ、2007年に生産を中止。2014年にはソニーが電子書籍ストアを閉鎖し、電子出版から撤退した。

KADOKAWAのデジタルプラットフォームを活用することで、小説やコミックといったコンテンツの販売チャネルを増やし、収益の向上を図る狙いがありそうだ。さらに、小説やコミックを原作とするアニメ、映画、音楽、ゲームなどの「川下」に拡大するノウハウも期待できる。ソニーが強みを持つ音楽や映画と、KADOKAWAの小説やコミックなどのコンテンツを組み合わせた新たなサービスの展開も期待される。

理由4. クリエイターとの連携強化

KADOKAWAは長年にわたるクロスメディア事業の歴史の中で、「涼宮ハルヒシリーズ」の谷川流や「ソードアート・オンライン」「アクセル・ワールド」の川原礫をはじめとするコンテンツ作家やクリエイター、声優、俳優らと関係を築いており、これにより新たなコンテンツの創出が促進されている。ソニーはKADOKAWAとの関係が深いクリエイターと連携することで、新たなコンテンツの創造も可能だ。KADOKAWAのクリエイター資産を利用して、従来にない新しいアイデアや視点を取り入れ、ソニーの屋台骨を支えるエンタテインメント事業の革新も狙う。

理由5. クロスメディア展開に強い

KADOKAWAの最大の強みは、クロスメディア展開にある。そもそも日本のクロスメディアは角川書店の2代目社長だった角川春樹元社長が1970年代後半に横溝正史の「犬神家の一族」や森村誠一の「人間の証明」といった自社書籍を映画化し、大がかりな宣伝とテレビドラマ化などで大ヒットにつながったのが始まり。後にKADOKAWAは映画化やドラマ化に加えてアニメ化やゲーム化など、同じIPをさまざまな形で展開する手法を確立している。

KADOKAWAは顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益を指すLTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)の最大化で成果をあげている。「Re:ゼロから始める異世界生活」(リゼロ)では、ウェブで公開された小説を2014年にライトノベルとして書籍化し、コミックやアニメ、ゲーム、グッズなど、全方位にメディア展開。それらの相乗効果で長期的な人気コンテンツとなり、10周年を迎えた現在も新作を発表し続けている。

このようにKADOKAWAのIP資産はアニメ、ゲーム、映画といった多様なメディアで展開されており、これを取り込むことでソニーは自社コンテンツのファン層を拡大し、収益を最大化することが可能となる。

ソニーグループの2023年度営業利益の約6割はゲーム・ネットワークサービス、音楽、映画の3つのエンタテインメント事業が稼いでいる。同社によるKADOKAWA買収は、コンテンツの質と量を向上させるだけでなく、クロスメディア展開やグローバル市場へのアクセスを強化するものだ。KADOKAWAの豊富なコンテンツ資産やクリエイターとの関係を活用することで、ソニーは同事業での成長を加速する狙いがあると見られる。

文:糸永正行編集委員

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