KADOKAWAはソニーの買収を受け入れるか?

2024年6月のサイバー攻撃によるサービス停止で耳目を集めたKADOKAWAが再び注目されている。ソニーによる買収意向が明らかになったからだ。KADOKAWAはソニーの買収提案を受け入れるのか?

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ソニーのゲームリソースとのシナジーに期待

KADOKAWA<9468>は20日、ソニーグループ<6758>から「当社株式の取得にかかわる初期的意向表明を受領している」ことを明らかにした。「現時点で決定した事項はない。今後公表すべき事実が発生した場合は、速やかに公表する」としているが、両社の関係は深く、現時点でKADOKAWAから否定的なコメントや買収防衛策を示唆する動きはない。KADOKAWA傘下でゲーム開発のフロム・ソフトウェアにソニー・インタラクティブエンタテインメントが出資しているほか、アニメ制作会社への共同出資も行っている。

KADOKAWAは紙媒体をオリジン(起源)とする小説やコミックなどに強みがあり、これらのアニメ化やドラマ化、ゲーム化のライセンスを供給する原作側のIP(知的財産権)と半世紀近い実績を持つクロスメディア展開のノウハウを持つ。ソニーはKADOKAWAからそうしたIPリソース(資源)の取り込みを狙うが、これはKADOKAWAにとってもメリットになる。

ソニーは任天堂<7974>と並ぶゲームプラットホームの世界王者の一角。「ゲーム&ネットワークサービス」「音楽」「映画」の三つのエンタテインメント事業は、2023年度グループ売上高の約6割を占めており、中でも最も競争力が高いのが「PlayStation(プレイステーション)シリーズ」というハードウエアのプラットフォームを持つ「ゲーム&ネットワークサービス」部門だ。

ゲーム事業を持つKADOKAWAにとって、ソニーのプラットフォームとゲーム事業ノウハウを100%活用できる子会社化は、自社のIPリソースを最大限に活用できるだけにシナジー効果が大きい。

KADOKAWAはオープンワールド(制作者のストーリー設定によらずプレイヤーが自由に行動できる)のアクションロールプレイングゲーム「ELDEN RING(エルデンリング)」などの人気作を擁するフロム・ソフトウェアの株式を約70%保有している。さらに「天誅」のアクワイアや「風来のシレン」シリーズのスパイク・チュンソフトなど人気ゲームの開発子会社を持つ。

ゲームで陰りが見えている今こそが好機

KADOKAWAは7日に発表した2024年度第2四半期決算報告書で、累計出荷本数が2500万本を超えた「ELDEN RING」が増収に大きく貢献したと公表しており、グループ全体でコンスタントに新作ゲームを投入する方針を打ち出している。そのためには開発に投入する資金と人力、開発環境の強化が必要だ。ゲームで巨大な影響力を持つソニーの子会社となれば、開発リソース(資源)が大幅に増強され、ゲームコンテンツの大型化や長寿化が期待できる。

もちろんソニーも大歓迎だ。KADOKAWAという人気ゲームの開発企業が傘下に入ることで事業強化につながるという理由もあるが、今年がソニーにとって「ゲーム受難の年」でもあった要因も大きい。2月にゲーム子会社のソニー・インタラクティブエンタテインメントで業績不振から、従業員900人を解雇。9月6日には立ち上げたばかりのオンラインシューティングゲーム「CONCORD」が不人気で、発売からわずか2週間でサービス停止と購入者全員への全額返金に追い込まれている。こうした「穴」をKADOKAWAの人気ゲームコンテンツで補填できるからだ。

KADOKAWAとしてはゲーム事業が弱っているソニーに自社を高く売り込める好機であり、現時点での買収打診は、「千載一遇の大チャンス」と言えそうだ。

唯一の障害となりそうなのは創業家の意向だが、2022年に会長を退いた角川歴彦氏は東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件の公判中。兄の春樹氏も30年以上前の1993年に社長を辞任しており、創業家が買収受け入れに関与できる状況ではなさそうだ。創業家の持株比率も低く、取締役会が出した結論を覆す力もない。

文:糸永正行編集委員

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