【KADOKAWA】サイバー攻撃で窮地に M&A戦略に変更は?
出版大手のKADOKAWA<9468>が厳しい状況に追い込まれている。
2024年6月8日に、同社グループの複数のサーバーがランサムウエア(身代金要求不正プログラム)を含む大規模なサイバー攻撃を受け、子会社従業員の個人情報や取引先との契約書などの情報が流出したほか、既刊出版物の出荷部数が大きく落ち込んでいるのだ。
2028年3月期を最終年とする5カ年の中期経営計画では、新たな海外拠点を含むM&A投資などによって成長を加速し、最終年に売上高3400億円、営業利益340億円を達成する目標を掲げている。
サイバー攻撃の影響が2025年3月期の業績に与える影響は「現時点では不明」としているものの、何らかのマイナス影響が出ることは避けられそうになく、影響の大きさによっては中期経営計画の見直しが必要となる事態も予想される。同社のM&A戦略に変更はあるだろうか。
出版やアニメ、ゲーム、教育に積極投資
KADOKAWAが2024年6月27日に公表した情報によると、新刊の出荷部数は平常時と同等の水準を維持しているものの、システムの影響度が高い既刊の出荷部数は平常時の3分の1程度となっているという。
7月3日には、角川ドワンゴ学園が運営するN中等部やN高等学校などの在校生、卒業生、保護者をはじめ、クリエイターや子会社のドワンゴの従業員などの個人情報、さらにはクリエイターとの契約書、社内文書などが流出している可能性が高いと公表した。
同社では「7月中には、外部専門機関の調査結果に基づく正確な情報が得られる見通し」としているものの、解決のめどは立っていない。
サイバー攻撃の前に策定した中期経営計画では、出版やアニメ、ゲーム、教育分野を積極投資領域とし、この分野での事業拡大と利益拡大に取り組む計画で、M&Aにも前向きだ。
こうした施策で2028年3月期の目標である営業利益340億円のうち、出版とアニメなどの事業で270億円を確保し、これにゲーム事業で70億円を上積みする成長イメージを公開した。このイメージをそのまま維持できるのか。今後の調査や対策の行方が注目されるところだ。
反動減でゲーム事業が減益に
KADOKAWAは1945年に角川源義氏が東京都内で角川書店を創立したのが始まりで、「角川文庫」や「昭和文学全集」などの発行や、辞典や高等学校の教科書などの分野に進出し、事業の幅を広げていった。
1970年代半ばからは一般大衆向けの書籍にかじを切るとともに、映画産業や音楽産業にも参入し、出版と映像と音楽のメディアミックスを成功させた。
2003年に角川ホールディングスに社名を変更し、2004年には 東京証券取引所市場第一部に上場、2006年に角川グループホールディングスに社名を変更した。
2010年にドワンゴとの間で、電子書籍やコンテンツの配信に関して包括業務提携契約を結び、2013年にKADOKAWAに社名を変更したあと、翌2014年にドワンゴとの経営統合に合意し、同年にKADOKAWA・DWANGOを設立した。
現在は、紙と電子での書籍や雑誌の出版、Web広告の販売、権利許諾などを行う「出版・IP創出事業」を核に、アニメや実写映像の製作、配給などを行う「アニメ・実写映像事業」、ゲームソフトやネットワークゲームを手がける「ゲーム事業」、動画配信サービス「ニコニコ」などを運営する「Webサービス事業」、専門校の運営やインターネットによる通信制高校のN高等学校向けなどの教育コンテンツ・システムを提供する「教育・EdTech事業」、施設運営やキャラクターグッズなどを企画、販売する「その他事業」の6事業を展開している。
KADOKAWAの2024年3月期は、当初予想よりも上振れし、前回予想比2.3%の増収、16.8%の営業増益となった。
ゲームが想定を超えるヒットとなったことや、円安進行による為替差益が発生したこと、政策保有株の売却益などがあったためだが、大幅な増収営業増益となった前年の2023年3月期と比べると、売り上げは横ばいながら、営業利益は30%近い減少を余儀なくされた。
2023年3月期は、大ヒットとなったゲーム「ELDEN RING」が貢献し、売上高と営業利益が過去最高を更新したが、2024年3月期は同ゲームの反動減でゲーム事業が減益となったのが響いた。
2025年3月期もこうした流れは変わらないと見て、売上高は前年度より5.1%多い2713億円を見込むが、営業利益は10.6%少ない165億円に留まるとの予想だ。
海外企業との連携事業も
M&Aについては、直近では電子書籍や電子雑誌の出版を手がける子会社のブックウォーカー(東京都千代田区)が、IoT(モノのインターネット)関連サービス事業などを展開するACCESS<4813>の電子書籍や電子出版関連ソリューションの開発事業を取得した。
ブックウォーカーは電子出版事業で広範な知見を有しており、ACCESS電子出版ソリューション事業を成長させることができると判断した。
この他、同社が2010年以降に適時開示した買収案件は、子会社のドワンゴがファッションや美容、ゲームなどの専門学校を運営するバンタン(東京都中央区)を子会社化した2014年にまでさかのぼる。
教育事業の強化が目的で、バンタンは2024年4月に「KADOKAWAアニメ・声優アカデミー」を新たに開校するなど、狙い通りの教育事業の拡大につながっている。
中期経営計画では出版、アニメ、ゲームコンテンツの開発に力を入れるほか、海外拠点の整備にも取り組むことにしており、コンテンツ開発やテクノロジー活用に向けた投資を強化する計画だ。
この計画を実現するための手法としてM&Aにも関心を示しており、今後はAI(人工知能)やIT、ゲームコンテンツなどの分野で、海外企業との事業連携なども行われそうだ。
いずれにしても同社にとってサイバー攻撃の解決が最優先されることは間違いなく、当面M&Aは様子見となることは想像に難くない。
文:M&A Online記者 松本亮一
上場企業のM&A戦略を分析
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07/11 09:00
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