先端半導体をめぐる米中覇権競争、石破政権のとる対応は

海外M&Aで地政学は欠かせない。今、世界で何がおき、そこにはどんなリスクがあるのか。「M&A地政学」では、国際政治学者で地政学の観点から企業のリスクコンサルティングを行うStrategic Intelligence代表の和田大樹氏が世界の潮流を解説する。今回は「先端半導体をめぐる米中覇権競争に対する石破政権」を取り上げる。    

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先端半導体競争に対する石破政権の対応は? 

世界情勢の行方を左右する米大統領選まで1カ月を切る中、日本では10月に岸田政権から石破政権に移行した。中国の習近平氏も石破氏の総理就任に対して祝電を送り、安定的かつ建設的な日中関係を構築したいという希望を示した。

10月10日に日中首脳会談が開かれ、多くの懸念事項はあるものの、中国との間で安定的かつ建設的な日中関係の構築を模索することが目指された。

一方、近年米中間で激化する先端半導体をめぐる覇権競争がエスカレートしているが、石破政権はそれに対してどのように対応していくのだろうか。

近年の先端半導体をめぐる米中の攻防

まず、近年の先端半導体をめぐる米中の攻防を振り返りたい。その発端となったのは、今月でちょうど2年となる米国による先端半導体分野の対中輸出規制にある。

バイデン政権は一昨年10月、軍のハイテク化を目指す中国が先端半導体を軍事転用するのを防止するため、人工知能AIやスーパーコンピューターなどに使う先端半導体、その製造に必要な装置や技術などの中国向け輸出を禁止した。

だが、米国のみでは中国による先端半導体の獲得、それに必要な材料や技術の流出を完全に防止できないと判断した同政権は昨年1月、先端半導体の製造装置を得意とする日本とオランダに対して中国向け輸出規制に同調するよう要請した。

日本は独自の経済合理性と調整する形となり、昨年7月より先端半導体の製造に必要な14ナノメートル幅以下の製造装置、繊細な回路パターンを基板に記録する露光装置、洗浄・検査に用いる装備など23品目を新たに輸出管理の規制対象に加えた。これは事実上の中国向けの輸出規制であり、その後オランダも同様の措置を取った。

米、先端半導体分野からの中国排除の姿勢を先鋭化

しかし、米国は日本やオランダの輸出規制措置が自分たちの望む水準に達していないこと、両国の半導体関連企業が今でも過去に中国に販売した製造装置を修理したり、予備部品を販売したりしていることなどに不満を募らせ、もっと踏み込んだ輸出規制を行うよう圧力を掛けている。

そして、バイデン政権はオランダに対して4月、同国の半導体製造装置大手ASMLが中国企業へ販売した半導体製造装置の保守点検、修理などのサービスを停止するよう求め、オランダは9月、ASMLの2種類のDUV液浸露光装置について輸出許可要件を拡大すると発表し、中国向けの輸出規制を事実上強化した。 

また、米国は韓国やドイツにも対中輸出規制に加わるよう求めている。ドイツのカールツァイスはASMLに先端半導体に必要な工学部品を供給しているため、米国はカールツァイスが中国に関連部品を輸出しないようドイツ政府が主導するべきとの姿勢に徹した。

バイデン政権は6月に開催されたG7サミットの前にもドイツに対中輸出規制に加わるよう圧力を掛けたという。バイデン政権は、同盟国の協力のもと多国間で中国を先端半導体分野から排除する姿勢を先鋭化させている。

半導体競争に巻き込まれる中、日本、石破政権のとるスタンスは

このような中、中国は日本が米国と歩調を合わせることに不満を強めている。中国は日本が昨年7月に中国向けの半導体輸出規制を開始したことに対抗し、日本がその多くを中国に依存する希少金属ガリウム・ゲルマニウム関連の輸出規制を強化し、それらを外国に輸出する業者は事前に中国当局に許可申請を行うことが義務付けられた。

そして、中国は昨年8月、福島第一原発の処理水放出に伴って日本産水産物の輸入を全面的に停止したが、これも日本による半導体輸出規制の延長線上で考えられる。中国は最近でも、日本に対して中国企業への半導体製造装置の販売および関連サービスの提供で更なる輸出規制を実行すれば、対抗措置として厳しい経済制裁を講じると警告したという。

こういった形で日本が半導体をめぐる米中覇権競争に巻き込まれる中、石破政権はどういったスタンスを取るのか。答えは決して難しくなく、石破政権は昨年1月のように米国から安全保障上の理由に基づく協力要請を求められれば、米国と足並みを揃える形で中国向けの輸出規制を導入していくことになろう。

先端半導体を中国が軍事転用するようになれば、それは日本の安全保障にとって大きな脅威になる恐れがある。要は、先端半導体をめぐる覇権競争は経済や貿易の領域の問題でもあるが、その核心は安全保障にあることを認識するべきだろう。

文:株式会社Strategic Intelligence 代表取締役社長CEO 和田大樹

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